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連載 : プロデューサー道

2021/11/26

地域再生のキーワード「関係人口」という言葉

日野昌暢

 

 

博報堂ケトルのチーフプロデューサーである、ローカルおじさんこと日野昌暢の日々を綴る連載「プロデューサー道」の第12回です。

地方創生や地域再生といった界隈で「関係人口」という言葉がよく使われるようになりました。関係人口とは ”特定の地域に継続的に関心を持ち、関わるよそ者”。人口とはついているけど、本質的な意味合いは量的価値より質的価値にあるという言葉。そして僕もいくつかの地域の関係人口だと思います。よそ者として地域に関わることを続けていると、楽しいこともたくさんありますが、いろんな葛藤も出てきます。よそ者を受け入れる側の「地域」にも、よそ者に期待したい気持ちはなくはないけれど、期待してしまってがっかりした過去があったり、「利用された」「食い物にされた」と感じたこと、「わかってもらえないな」と思った経験があるなどで、誰でもウェルカムではないのは当たり前です。”地域”と”よそ者”との交わりにおいては、過去にいろいろなことが起こった歴史があるので、受け入れ側も慎重です。

僕のいる”広告代理店”も、そんなよそ者の中でもかなり印象が悪い部類に入ります。これは、これまでの広告会社の得意領域が、”ニュース” を強く印象的に人々に伝える職能にあり、打ち上げ花火的であることに理由があると思っています。地域が売るべきものの受け入れ態勢が組み上がった状態で使えばその手法は機能しますが、それなしに広告的手法で”打ち上げ花火”的に告知をしても、地域に変化は起こりません。継続的に地域に関わっている地元のプレイヤー側からすれば、いい変化が残らなければ、あれはなんだったんだ? と思うでしょうし、それに投じられたお金や労力を考えたら、もっと違うことはできなかったのか?と思うのも、また当然だと思います。自分の振る舞いがそのようになっていないか、気にしているけれど、至らずに誰かをがっかりさせているかもしれない。そんなことがよく頭をよぎります。

ただ、さまざまな地域が「衰退」して苦しい状況が続いて ”心の過疎化” が起こっているなか、地域の資産を「外から目線」で捉えることだったり、しがらみに関係なく意見できることだったり、繋がっているようで繋がっていない地元のプレイヤー同士を繋げることだったり。地域がなかなか持てていない、プロデュースや編集やデザインなどの技能を持つ人が関わることなども、地域側の土台をしっかり作った上で取り組めば、とても有効であることは間違いないし、その土台作りも含めて統合的にプロデュースすることに有効性があると信じているから、僕はいろんな地域に関わっています。クリエイティブは手離れが良いし見栄えも良いのだけど、これを生み出すプロセスに地域の方々が関わっていないと本質的な変化は生まれない。利用された、食い物にされた。何も残らなかった。こう言われるような状況を生まないように、本質的に地域課題の解決に向かう主体を生み出すことが必要だと思ってきたのだけど、それを自分で言語化はできてない状況でした。

ローカルジャーナリストという肩書きで活躍する、田中輝美さんの著書「関係人口の社会学」を拝読し、これからの地域再生に必要な関係人口という概念が、よくない拡大解釈、万能であるかのような過度の期待などにより”消費” されるものに終わらせたくない想い、執念を感じました。この本は田中輝美さんの博士論文が元になったもので、膨大な調査、取材、学習の集積から生まれる迫力が違うと感じました。僕はWebメディアの編集長をやっていますが、本ってやっぱりすごいなと思いました。

よそ者として地域に関わる全ての人、そしてよそ者をこれから受け入れる立場になる全ての人に読んでほしいと思い、田中輝美さんと、本屋B&Bのオンラインイベントを企画しました。 ”関係人口”の提唱者の一人である雑誌「ソトコト」編集長の指出一正さんもお迎えして、地方創生のキーワード「関係人口」というコンセプトは、何を生み出し、どこへ向かうのか。色々とお話をお聞きしてみたいと思います。ぜひ、ご参加ください。

【イベント概要】
2021年11月29日(月)20:00〜 
指出一正×田中輝美×日野昌暢
「関係人口2021 ~今こそ関係人口を語り尽くす」
『関係人口の社会学』(大阪大学出版会)
『みんなでつくる中国山地2021 第2号』(中国山地編集舎)W刊行記念

https://bookandbeer.com/event/20211129_kj/

日野昌暢
1975年福岡県福岡市生まれ。2000年 九州芸術工科大学 芸術工学府 生活環境専攻修了。同年4月に博報堂入社。14年間の営業職を経て2014年よりケトルに加入。

「預かったご予算を着実な効果にしてお戻しする」という強い想いとともに、何が社会を良くするのか?を考えるデザイン発想で、事業企画や商品開発から、PR、プロモーション、マスメディアでの広告などまで、幅広い経験を活かした統合プロデュースを手がける。

また「本質的な地域活性」をマイテーマに、“外から目線”で地域資産を再編集し、地域のプレイヤーの“関わりしろ”を作りながら、事業、プロジェクト、プロダクトを共創し、開発して、情報発信を行っていくことを得意とする通称”ローカルおじさん”。

2020年には九州を取材テリトリーにしたローカル発Webメディア Qualities(クオリティーズ)を企画プロデュースし、創刊編集長。観光庁や文化庁の採択事業者へのコーチングなども多数行っている。

主な受賞歴に、2度のACC TOKYO CREATIVE AWARD グランプリ(2018,2022)、グッドデザイン賞BEST100(2022)、Spikes Asia ゴールド(2019)、カンヌライオンズ ブロンズ(2013,2019)、ADFEST ゴールド(2019)など。
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