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連載 : ”ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負

2020/11/11

“ローカルおじさん”の地域活性のホント十番勝負 vol.1 藻谷ゆかり×日野昌暢①

日野昌暢

博報堂ケトルの“ローカルおじさん”こと日野昌暢が、本質的な地域活性を考え、実践する方々を本屋B&Bのオンラインイベントにお招きしたローカルシリーズ十番勝負が始まります。記事は法政大学藤代裕之研究室の学生がまとめています。

最初のゲストは、『衰退産業でも稼げます〜「代替わりイノベーション」のセオリー』の著者で、2020年9月26日には新刊『コロナ移住のすすめ〜2020年代の人生設計』を上梓する藻谷ゆかりさん。長野県の移住経験者でもある藻谷さんと、「地方移住」に興味のある方、そして移住後に何をしなければいけないのか、どう稼ぐのかをしっかり考えたい方必見の内容です。


藻谷ゆかり(もたに・ゆかり)
経営エッセイスト。巴創業塾主宰。1963年横浜市生まれ。東京大学経済学部卒業後、金融機関に勤務。1991年ハーバード・ビジネススクールでMBA修了。外資系メーカー2社勤務後、1997年にインド紅茶の通販会社を起業し、2018年に事業承継。2002年に家族5人で長野県北御牧村(現 東御市)に移住し、長野県行政機構審議会専門委員や東御市教育委員を務める。2016年から2018年まで昭和女子大学グローバルビジネス学部で客員教授として「スモールビジネス論」を教える。現在は「起業X事業承継X地方移住」に関して執筆活動と全国の商工会議所や自治体等で講演活動を展開。2019年5月に『衰退産業でも稼げます〜「代替わりイノベーション」のセオリー』を新潮社から上梓。2020年9月に『コロナ移住のすすめ 2020年代の人生設計』を毎日新聞出版から上梓。
https://www.tomoesogyo.work/


日野昌暢:“ローカルおじさん”の地域活性のホント十番勝負の初戦ということで、藻谷ゆかりさんにお越しいただいています。藻谷さんの著書の内容を丁寧に説明していただきつつ、イベント視聴者の皆さんと一緒に、質問タイムを設けて進めて行こうと思います。藻谷さん、それではよろしくお願いいたします。

 

藻谷ゆかりさん:はい、では早速自己紹介から始めさせていただきます。私は1997年にインターネットでインド紅茶を売るという会社を起業しておりまして、この仕事を持って地方移住したんですね。地方移住、起業、事業承継という3つのテーマについて経営エッセイリストとして本を書いたり、全国での講演業をしております。

(写真上、博報堂ケトル 日野昌暢。写真下、藻谷ゆかりさん、以下、敬称略。当日はグラフィックレコーディングで栗本さんにもご参加いただきました。)

 

昨年5月に新潮社から出版しました「衰退産業でも稼げます」という本について、前半で紹介していこうと思います。後半では、9月26日発売の『コロナ移住のすすめ〜2020年代の人生設計』という、毎日新聞社からこれから出版される本のポイントもご紹介します。

衰退産業はブルーオーシャン

藻谷:最初に『衰退産業でも稼げます〜「代替わりイノベーション」のセオリー』という本の事例と3つのキーコンセプトから話していくんですけども、本の中で紹介している16事例のほとんどが親族間の事業承継です。衰退産業は需要が減退していて、ほぼ経営不振なんですね。そんな中で業績をV字回復させたのは経営的に非常に興味深いとこです。本で取り上げた方は、1回失敗をしたりとか、どん底を経験した方をあえて選びました。

『ブルー・オーシャン戦略』っていう10年ぐらい前に出された本のタイトルから、(競争相手の少ない市場のことを)ブルーオーシャンと呼ぶようになっていますが、地方の衰退産業はもうブルーオーシャンそのものだと思います。廃業しちゃって、競争相手がいなくなってますので。その中でも、この本は代替わりして新しい人が脳みそ振り絞って考えて、血の滲むような努力をすれば、衰退産業でも稼げましたっていう本なんです。

ビギナーズマインドを持つ

藻谷:3つのキーコンセプトがありまして、最初がビギナーズマインド。このビギナーズマインドとは何かというと、専門家が持ってる癖がなく、全ての可能性に対してそれを受け入れる心です。初心者の心には癖や疑いがないため、多くの可能性がありますが、専門家の心には可能性はほとんどありません。やっぱり一番難しいのは初心者の心を持ち続ける事ですね。AIも専門家なわけです。過去のデータや経験にとらわれずに新しい目標を立てて試行錯誤すればAIに勝てるんです。

新たな目で見る

藻谷:このビギナーズマインドの例として京和傘の日吉屋さんの事例をご紹介します。
今、主に和傘を買うのは舞妓さんとか神社とか茶道関係者だけで、一般の人は和傘を買わないんです。そういう風に、需要が減っているので、先代はもう自分の代で終わりにするって言ってたんですね。たまたまこの和傘屋さんの次女と恋愛結婚したのが、五代目の西堀耕太郎さん。出身の新宮市は合気道の本拠地で、インターナショナルな環境だったということです。世界中から合気道を学びに来る方と交流し、高校を卒業してカナダに語学留学をして地方公務員になった。婿さんとして入ると、和傘を新しい目で見るんですね。まさにそれがビギナーズマインド。

 

和傘という伝統を革新して残す

藻谷:じゃあ、どうやってV字回復したのかというと、まずは傘のインターネット通販で年収200万円以下だったところから年収2,000万円まで上げました。でも和傘をいくら売っても、せいぜい2,000万。そこで、どうしたらいいのかを色々考えて、デザイン照明を作って日本国内でグッドデザイン賞をとったんですね。グッドデザイン賞をとると、海外の展示会に出展する権利や補助金が出るので、スイスやドイツといった海外の展示会に次々出店して、そこでノウハウを蓄積しました。そして、海外のデザイン賞も受賞しました。

出典:京和傘の日吉屋 HPより

そこまでくると中小企業庁の方から声がかかって、和傘でやったような海外展開を他の日本の伝統産業の技術に応用してくれないかっていうことで、今はコンサルティング事業に力を入れてらっしゃいます。実際に、日吉屋さんが手がけたデザイン照明に、ザ・リッツ・カールトン京都のロビーのデザイン照明があります。この照明は1,000万円単位なんですよ。和傘を3万円で売っても、そんなには需要はない。けれども、ザ・リッツ・カールトン京都のロビーのデザイン照明を受注すると、1,000万円になります。「伝統は革新の連続。とにかく伝統のままに古いままにもやってたら駄目で、それが革新的に継続して次世代に残る」と西堀さんはおっしゃっていました。

写真提供:京和傘の日吉屋

新しい価値を見出す

藻谷:3つのキーコンセプトの2つ目、増価主義です。増価主義っていうのは非常に良い概念で、これが日本の経済の再生と言いますか、起爆剤になると思うんですけども。
いまある経営資源の価値を見出して、再発見する。新しい視点からその価値を売り込んでいくというものです。日野さんが博報堂ケトルで取り組んでいる『絶メシリスト』なんかもそうですよね。

「温泉街」にとらわれない

藻谷:この事例として上田市の別所ヴィレッジを紹介します。
これは廃業した、土産物屋さんをテナントとシェアハウスにした事例です。別所温泉自体は信州最古の温泉と言われていまして、つい最近日本遺産にも登録されました。この温泉街に別所ヴィレッジというところがありまして、これを運営しているのが松江朋子さんという方です。なにをやったかっていうと、上田市の空き家バンクで500万円で売ってた以前土産物屋だった物件を買って800万円をかけてリフォームしました。

 

出典:別所ヴィレッジHP

出典:別所ヴィレッジHP

1階は写真スタジオとカフェ。通りに面している2階のところは東京の IT企業のサテライトオフィスになっています。昔家族が住んでいた母屋は賃貸アパート。月4万の賃貸アパートが3室あって、キッチントイレシャワーは共用です。なぜお風呂がないかというと、お風呂は歩いてすぐの温泉の外湯に150円入れるんですね。そうすると、毎日行っても月4,500円なんです。すごくいいですよね。ここにはお試し移住をできる部屋もあって、1週間2万円で借りられます。ここにお試し移住で入ってきてこの地域に移住することを決めたりした人もいます。
松江さんのやったことが素晴らしいことだと思うのは、単に温泉街にまた旅館を作ったのではなく、「住む場所、働く場所を作った」ということですね。

外から招く「地産外招」

藻谷:3つめのコンセプトが「地産外招」で、これは私の造語ですが、地元にある宝物を磨きあげて外から人を招くことです。地産地消っていうのは地元の物を大事にして地元で消費しましょうってすることですけど、「地産外招」とは、地元の物を大事にして「外から人を招く」ってことが重要だということです。

 

スノーモンキーで外国人観光客が殺到

藻谷:その事例として、長野県山ノ内町の渋温泉にある小石屋旅館のお話をします。こちらは築90年以上の老舗旅館の再生プロジェクトです。長野県山ノ内町には地獄谷野猿公園というのがありまして、(写真のように)温泉にはいる野生のお猿さん「スノーモンキー」に外国人観光客が殺到していました。小石屋旅館を買収した石坂大輔さんは、証券会社でトレーダーをしていて、競売情報を見るのが趣味でした。ある時、旅館が400万円弱で売りに出されていたのを見て、400万円弱で買って約2,000万円かけてカフェと水回りをリノベーションしました。

 

写真提供:小石屋旅館

出典:小石屋旅館のHP

これが小石屋旅館の全景です。今は木造3階建ての旅館は今の建築法では建てられないので、貴重なものだから残したいって思ったそうです。温泉街では新規参入をさせないため、競売で持ち主が変わったら温泉権を切ることが明記されてたので、誰も手をつけなくて価格が下がってたんです。でも石坂さんは、インバウンドのお客さんだったらシャワーのみでいいと思って、外国人観光客向けにやっていこうとしました。オンラインの旅行サイトで集客すると、初年度は外国人観光客が9割でした。

 

1300万円で面白い事業ができる

藻谷:成功要因は「泊食分離」です。近隣の旅館さんは1泊2食で12,000円とかだったんですけど、小石屋旅館はドミトリーみたいにして1泊3,000円程に安くしたんですね。食事は付けない代わりに、旅館内に新しくつくったカフェでピザとかパスタとか好きなものを食べてもらいました。
2,000万円もかけて事業をやるのはすごく大変なことですが、考えてみると、投資額2,400万円で11室の旅館や、誰でも使えるカフェ、従業員の宿舎を手にできています。一方2019年の東京のマンションの平均購入価格は、6,000万円まで上がってます。この半分のお金で旅館が手に入るわけですよね。別所ビレッジにしても、カフェや 写真スタジオ、IT企業のサテライトオフィスとアパートが投資額1,300万円なんですよ。そうすると田舎の地方の温泉街で1,300万円投資すると、すごい面白い事業ができるかなと思うんですね。

日本にまだある未開拓のフロンティア

藻谷:日本は不足ではなくて過剰が問題なんです。衣食住の中で、タンスに眠る着物、作りすぎの洋服、コンビニの廃棄の問題、規格外の野菜の問題とか。住居の問題だと、住む人がいない空き家の問題も大きくなってますけども。後継者のいない事業なんかもたくさんこれから出てきます。日本はこんなに余り過ぎているんです。地方には未開拓のフロンティアが広がってますし、そういった意味で日野さんとこれは多分意見があうと思うんですけど、「もったいない感じ」ですよね。

日野:なるほど。僕も、もったいないことになってしまっていることをどうにかしたいと常々思っています。いろんなエリアにお伺いする中で感じるのが、状況を変えたいと思っていても、ずっと地元にいる方々だと、どうしても周りの環境とか、これまでの地域での流れを吹っ切れないということ。でも、しがらみのないビギナーズマインドを持った人が、その価値を外から捉えて、こんな風にできるよってやるだけで、同じ資産が生まれ変わるということがすごいあるんだなと、この本の中で沢山学ばせていただきました。

日野:視聴者の方から質問がきていますね。
「地方移住や伝統産業、クリエイティブにこれから関わっていきたい人は、どのようにきっかけをつかむと良いのでしょうか?地域の方で、外部からの人に事業を任せたい人とのマッチングの機会などは何かあるのでしょうか?」

藻谷:1つは地域おこし協力隊です。地域おこし協力隊に「この事業を、この産業を残して欲しいんだけどどうするか」という募集が出るので、それに応募する。他には、地方に行って、発想することってあると思うんですよ。実際に地方移住してみたり、2拠点で生活してみると「この地域にこんな根深い問題がある」っていうのに気が付くんですね。なので、そこを何とか事業化するということですね。これは私の新著である『コロナ移住のすすめ〜2020年代の人生設計』で詳しく紹介しています。

 

(後半へ続く)

日野昌暢
1975年福岡県福岡市生まれ。2000年 九州芸術工科大学 芸術工学府 生活環境専攻修了。同年4月に博報堂入社。14年間の営業職を経て2014年よりケトルに加入。

「預かったご予算を着実な効果にしてお戻しする」という強い想いとともに、何が社会を良くするのか?を考えるデザイン発想で、事業企画や商品開発から、PR、プロモーション、マスメディアでの広告などまで、幅広い経験を活かした統合プロデュースを手がける。

また「本質的な地域活性」をマイテーマに、“外から目線”で地域資産を再編集し、地域のプレイヤーの“関わりしろ”を作りながら、事業、プロジェクト、プロダクトを共創し、開発して、情報発信を行っていくことを得意とする通称”ローカルおじさん”。

2020年には九州を取材テリトリーにしたローカル発Webメディア Qualities(クオリティーズ)を企画プロデュースし、創刊編集長。観光庁や文化庁の採択事業者へのコーチングなども多数行っている。

主な受賞歴に、2度のACC TOKYO CREATIVE AWARD グランプリ(2018,2022)、グッドデザイン賞BEST100(2022)、Spikes Asia ゴールド(2019)、カンヌライオンズ ブロンズ(2013,2019)、ADFEST ゴールド(2019)など。
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