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連載 : ”ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負

2020/11/12

“ローカルおじさん”の地域活性のホント十番勝負 vol.1 藻谷ゆかり×日野昌暢②

日野昌暢

前編に続いて、藻谷さんの2つ目の著書『コロナ移住のすすめ〜2020年代の人生設計』から、地方移住について考えていきます。

 ▼前編はコチラから。
“ローカルおじさん”の地域活性のホント十番勝負 vol.1 藻谷ゆかり×日野昌暢 ①

コロナ後に変わる働き方と暮らし方

藻谷ゆかりさん:後半では、9月26日発売の私の新著、『コロナ移住のすすめ〜2020年代の人生設計』についてお話しさせていただきます。

(写真上、博報堂ケトル 日野昌暢。写真下、藻谷ゆかりさん、グラフィックレコーディングは栗原さん。以下、敬称略)

今、20代から40代の地方移住希望者が増加傾向にあります。特にコロナの自粛期間中に家で暮らして仕事もすると考えたときに、今までの狭い家では息が詰まると思う方も多いです。コロナによって今までの働き方や暮らし方が大きく変わってくるんじゃないかと思ってます。『コロナ移住のすすめ』は理論編と事例編に分かれています。今回は理論編の、地方移住の3つのパラダイムシフトについてお話しさせていただきます。

自分の仕事を持つ「ジョブ型」の働き方

藻谷:地方移住のパラダイムシフトの1つ目は、「メンバーシップ型からジョブ型へ」ということです。メンバーシップ型は、都会の会社とかに勤めて終身雇用や年功序列で守られ、一生勤め上げるということです。ジョブ型っていうのは独立したフリーランス、もしくはワイナリー経営のようにスモールビジネスをやってる人、つまり自分がジョブを持っている方の働き方として定義づけました。
この典型として、ハウス食品を退職して長野県でカレー屋さんを起業した豊田陽介さんがいらっしゃいます。豊田さんはハウス食品に勤めていたので、スパイスマスターの資格も持っていました。3人目のお子さんが生まれた時に1年間育児休業を取って、たまたま1ヶ月だけ佐久穂町にお試し移住したら、長男が佐久穂町にある新しく開校した私立の大日向小学校の体験コースでとても生き生きしていたとのことでした。それで、その小学校にも入れたいし、転勤の心配なく家族で暮らしたいので、一大決心して移住しました。というのも、メンバーシップ型と転勤は切っても切れない関係なので。豊田さんは元スナックだった物件をリノベーションしました。週4日ランチのみの営業でも、予測の倍以上のお客さんが来ています。

 

仕事を掛け持つ「複業」の働き方

藻谷:3つのキーコンセプトの2つ目は、
専業から「複業」へということです。これからは、1つの事を仕事とするじゃなくて、マルチプルにいろんな仕事していく働き方です。
前編で紹介した小石屋旅館さんは、旅館業だけでなく、外国人観光客のために自分たちのカフェを開いたんですね。小石屋旅館は2019年から切明温泉雄川閣の運営を受託したのですが、こちらは秋山郷にあって、河原から温泉がわいてるのでスコップでマイ温泉を掘るんです。こんな風に、自分が旅館をやるだけじゃなくて、他の旅館を助けたり、地域全体が助かる人材紹介業とかもやってるので、これも複業なんですね。

 

写真提供:小石屋旅館(栄村切明温泉)

大きくなる自分の存在

藻谷:3つ目のキーコンセプト。「所有欲求から存在欲求へ」です。今の若い人というのは、存在欲求、人間としてその存在があることを重視している風に変わっているかなと思います。石坂さんが秋山郷の経営をするって時に「カリスマ経営者がやって来る!」と話題になったそうなんですね。そういうふうに小さいコミュニティだと本当にすごくその存在感が大きくなるんです。

地方か都会、どちらを選ぶ?

藻谷:『コロナ移住のすすめ〜2020年代の人生設計』の事例はIターンだけではなくて、 Uターンや孫ターンなど様々な理由があります。移住事例から、高田馬場にお店があって長野県上田市に店舗移転したパン屋さん、「石窯パン」春野さんご夫妻の話をご紹介したいと思います。

出典:『コロナ移住のすすめ』

上田市に移転してから2人には、お子さんが2人男女ともに生まれたんですね。高田馬場でイートインのベーカリーカフェに払ってた賃料は月27万円ですが、上田の店舗賃料は9万円。3分の1になったんですね。月の家賃が9万円になることによってずいぶん楽になるんです。その事例見ると「どっちがいいかな?」と思うんですよね。

次にAmazon のマーケットプレイスの中でも最大規模の国内最大級の古書販売の「バリューブックス」のお話をさせていただきます。社長の中村大樹さんは、ブックオフの店舗で専門書を実際に買って、それをアマゾンで売る「せどり」をしていたんですね。上田市だと廃業した大型店舗がいくつかあったので、そこを倉庫にして国内最大級の古書流通会社に成長しました。

 

写真提供:株式会社バリューブックス(写真中央が中村大樹社長)

キー・サクセス・ファクターズ(KSFs)、会社が成功した理由というのは、いくつかのファクターに分解されます。メインは最初にやっていたブックオフの店舗で専門書を買い付けていたこと。専門書というのがポイントですね。次のファクターとしては、上田市に会社を移転したから、廃業した店舗を倉庫にすることができた。地方ならではのポイントですよね。当時はネット広告出している人があまりいなかったので、広告費が安かったと言っていました。ここもブルーオーシャンだったということです。

地方はパラダイスでも地獄でもない

藻谷:今までの地方移住の本って2つに分かれているんです。地方移住すると「パラダイス!」みたいな本か、もしくは地方移住すると「こんな地獄が待ってる!」みたいな本の極端に分かれていたんですよね。私それはおかしいと思っていて、地方移住するとメリットとデメリットがあるんですね。私も未だに驚くことがいっぱいあります。地方自治体の対応とか。でも飲みこめるようになったんですね。

日野:ゲラ読ませていただいたときに、ちょっと印象的だったのが「この本にはサーフィンをやってる IT企業社長は出てきません」って書いてあるんですよね。ウェブで地方移住ブームみたいなのがあったじゃないですか。全員が同じタイミングで同じ目的に向かって、全自治体がPR活動を始めるから「目立ったもん勝ち」みたいな変な戦争になって。我々の広告会社も加担をしているんですけども、全然本質的じゃないというか。

そんな中で、ウェブの記事でも「パラダイス」的なものを描いて 「えー!そっかあ。こういう風になれるかもしれないんだ!」と思うものの方が、ページビューが稼げるんですよね。その情報は嘘ではないんだけども、みんながそうなるわけではない。着実な等身大の情報っていうのがなかなか見つけにくかったなあと思います。

Q&A(視聴者より)
「ビギナーズマインドで、外から新しい価値をつくっていく際にその地域や分野の人からしたら邪道じゃない?と思われることもあると思います。地元の方々との関係性をうまく構築するためにはどのようなことが必要だと思われますか」

日野:これめっちゃ起こりそうですよね。「なんか来たぞ」と。藻谷さんの表情が「そうそう、あるある」的なかんじですね。ここは人間力が結構大事だと思うんですよ。

藻谷:人間力、本当にその通りですね。実は小石屋旅館の石坂さんは移住してから4年間、旅館組合に入れてもらえなかったんです。どうやって組合に入れてもらったんですかと私が聞いたんですけど、まず消防団に入らないかと聞かれたそうなんですね。「じゃあ、消防団も入るんだけど、旅館組合もそろそろ入れてもらえない?」って交渉したそうなんです。要求が通らなかったら1回引いて、そこからまた4年待つ。そこは上手かなと思います。

 

日野:移住して最悪だった話、みたいなね。パラダイスの反対側という話も多かったじゃないですか。都会の人は、人と交わらずに自分のペースで生きていける方が気が楽だった。田舎に行ったら周りの方との会話だとか、関係性構築だとかは逃れられないから、それがどうしても嫌だってなったら、「酷い目にあった」みたいな書き方するんですよね。

藻谷: 地方移住って、今あるところに入っていくので「そこのローカルルールをいかにリスペクトしてあげるか」ということで、逆に自分もリスペクトされる。

日野:移住先のみなさんが大切にされていることはなんなのかを、1回聞いてそれが長年培われてきたことを一旦リスペクトする。ただ、染まるかどうかっていうと実は巧みな距離感というものが必要になります。

「何」を求めて地方に行くか

藻谷:飲み込むところ飲み込んで、ちょっと妥協できないところは妥協せずに距離を置くなり。メリットデメリットがあった時に、「こんなこともあるけど、これが取れているからからいいや」みたいなもの。 「これが取れてるからいいや」ってところがはっきりしてないと、ちょっと嫌なことがあった時に、「もう嫌になった」となってしまいますね。せっかく来たのに…ということもあります 。

特にそれがご夫婦の中でしっかりしていないと、困っちゃうわけですよね。説得するんじゃなくて、家族の中で常に価値観をすり合わせておくと。 「どういう教育とか暮らしを私たちはしたいのか」と。

日野:あとみんなが躓いちゃったところって収入の面だと思うんですよね。僕が編集長をやらせていただいている、九州をテリトリーにしたローカルWebメディア『Qualities』は人材マッチングの機能も兼ね備えていて。東京から九州に戻りたいと思っている人って山ほどいるんですよ。だけど転職先の情報が無いのと、給与の相場を調べると大体年収が7掛けぐらいになるんですよ。

藻谷:やっぱり3割ほど年収は落ちるんですよ。だから本当に何が欲しくて地方移住するのかというところが重要。「どこに行くか、何をするか」ばっかりみんな考えてるんですけど「なんで?」っていうところが一番しっかりしてないと、フラついちゃうんですよ

日野:藻谷さん自身が移住されていて、このような本を書かれているっていうのは、移住の満足度は非常に高いということでしょうか。

藻谷:そうですね。私の場合は移住するために起業しているので。だからやっぱり生業は本当に重要で、それが本当にやりたかったらと都会で起業して、持ってくればいいわけですよ。「人に雇われよう」とか思っちゃうと、収入が低くなるとか面白い仕事がないとなってしまう。

日野:僕もポイントだなと思ったのは「雇われよう」と思わないというところ。サラリーマンの方だと実際に年収は7掛けくらいにはなっているんだけど、生活コストも下がりますし、生活の質と仕事とのバランスに関して満足して働いているという話も多く聞きます。

何屋かわからない人はだいたい面白い

藻谷:そこで、ポイントは「複業」です。1つの事を突き詰めようと思わないこと。

日野:地方で魅力的なことやられている方と話してると「何屋かわかんないんだよね」っていう人いるじゃないですか。「何屋かわかんないんですよね」って言ってる人はだいたい面白いことやってますね。

藻谷:小石屋旅館の石坂さんのケースもそうなんですけど、行く前まで全然考えたこともなかったことがチャンスとして降ってくるってのは結構地方にはあるかなと思います。本の事例にも書きましたけど、佐久穂町でドーナツ屋さんを開いた男性がいて、大日向小学校の教育スタッフと信州大学のコーディネーターと3つを複業してるんですよ。軽井沢の別荘に来た人がドーナッツ食べたいと思った時に、佐久穂町まで来るんですって。

日野:なるほど。地域になんらかのインパクトを与える点を打って、そこを起点にしてまた次の点を打つことができる。その起点になれたり、誰かが点が打った場所だったら2つ目になりにいくとかね。

まずは地方に行ってみる

日野:まあ、地方にいきなり行くのも、今の職捨てるみたいな勇気がいることだと思うんですが、でもまずは自分自身の欲望と言うか、ここに関わりたいんだって思えるっていうことも結構大事かもしれないし。風景に惹かれることもあれば、旅行に行ったときに人と交わることで、そこで繋がりができたり。最初から無理に仕事にせずに、とにかく1回何かやってみるっていうのもすごく大事だなと思っています。外から目線で価値を可視化してあげるとか、言語化してあげるとか、ビジュアル化するとかで生まれ変わるもんが沢山あるので皆さんもぜひ。本の方も見ていただいて、助っ人にしていただければと思います。後半でお話しいただいた藻谷さんの著書、『コロナ移住のすすめ〜2020年代の人生設計 』は9月26日に発売となります。

藻谷:先ほどもお話ししたように、地方にはいろんなチャンスが本当に広がっていると思います。廃業というのは、なんとかやれてるのに後継者がいないとか、自分のやる気がなくなってしまって廃業してしまう。「もったいない廃業」が多いんですよ。倒産しちゃうのはしょうがないけど、「もったいない廃業」が多いので是非、地方のブルーオーシャンを見つけてやられるとご自身もハッピーになると思います。大変ですが、もしかしたら地域に来てから見つけることもあると思うのでね。いろいろトライしていただければと思います。

日野:まず行ってみよう!ということですね。行ってみましょう!

あとがき

東京生まれ東京育ちの私は、地方移住といえば、老後にゆっくりするためのパラダイス! というイメージばかり持っていたので、若干の衝撃回でした。田舎でも、ビギナーズマインドを持って地域資源をうまく掘り起こせば、バリバリビジネスができるし、東京よりもいい暮らしができるかもしれない。年収は落ちる可能性もあるし、街に受け入れてもらえるまでに4年もかかるの!? と思う部分もあります。でも「何を大事にしたいか」さえ決まっていれば、そこに向けていかに着実に選択して行くか考えればいい。パラダイスでも地獄でもないローカルで、暮らしていく姿の輪郭がくっきりするお話だと思いました。

(法政大学藤代裕之研究室 齋藤萌音)

日野昌暢
1975年福岡県福岡市生まれ。2000年 九州芸術工科大学 芸術工学府 生活環境専攻修了。同年4月に博報堂入社。14年間の営業職を経て2014年よりケトルに加入。

「預かったご予算を着実な効果にしてお戻しする」という強い想いとともに、何が社会を良くするのか?を考えるデザイン発想で、事業企画や商品開発から、PR、プロモーション、マスメディアでの広告などまで、幅広い経験を活かした統合プロデュースを手がける。

また「本質的な地域活性」をマイテーマに、“外から目線”で地域資産を再編集し、地域のプレイヤーの“関わりしろ”を作りながら、事業、プロジェクト、プロダクトを共創し、開発して、情報発信を行っていくことを得意とする通称”ローカルおじさん”。

2020年には九州を取材テリトリーにしたローカル発Webメディア Qualities(クオリティーズ)を企画プロデュースし、創刊編集長。観光庁や文化庁の採択事業者へのコーチングなども多数行っている。

主な受賞歴に、2度のACC TOKYO CREATIVE AWARD グランプリ(2018,2022)、グッドデザイン賞BEST100(2022)、Spikes Asia ゴールド(2019)、カンヌライオンズ ブロンズ(2013,2019)、ADFEST ゴールド(2019)など。
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