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連載 : ”ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負

2020/11/25

ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負 vol.2 井上岳一×馬場未織×日野昌暢① 「列島改造から列島回復へ―新しい社会の物語」

日野昌暢

博報堂ケトルの“ローカルおじさん”こと日野昌暢が、本質的な地域活性を考え、実践する方々を本屋B&Bのオンラインイベントにお招きしたローカルシリーズ十番勝負の第2戦です。記事は法政大学藤代裕之研究室の学生がまとめています。

井上岳一さんの唱える「山水郷」の実践者として、2007年から南房総と東京都心との2拠点生活を実践する馬場未織さんをゲストに加えて日本の大都市信仰、中央集権信仰に変わる生き方とはどのようなものなのか。そんな視点から、地域活性を考えます。「地方移住」「2拠点生活」「SDGs」「地域活性」に興味のある方必見の内容です。

 


井上岳一(いのうえ・たけかず)
日本総合研究所創発戦略センターシニアスペシャリスト。1969年神奈川県生まれ。東京大学農学部卒業。イェール大学修士(経済学)。林野庁、CassinaIXCを経て、2003年に日本総合研究所に入社。持続可能な社会システムの実現をめざしたインキュベーション活動に従事。注力テーマは、次世代交通、コミュニティIoT、地方創生・被災地復興。近著に『日本列島回復論〜この国で生き続けるために』(新潮社)があるほか、共著書に『MaaS』『Beyond MaaS』(日経BP社)、『公共IoT』(日刊工業新聞社)、『AI自治体』(学陽書房)等。福島県南相馬市復興アドバイザー。内閣府規制改革会議専門委員。
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=2996

馬場未織(ばば・みおり)
建築ライター、NPO法人南房総リパブリック理事長。 1973年東京都生まれ。日本女子大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2007年より「平日は東京、週末は南房総」という2地域居住を家族で実践。2012年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市職員らとNPO法人南房総リパブリックを設立。里山学校、空き家・空き公共施設活用事業、食の2地域交流事業、農業ボランティア事業などを手がける。著書に『週末は田舎暮らし』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く住まいの金融と税制』(学芸出版社)など。株式会社ウィードシード代表、南房総市公認プロモーター、関東学院大学非常勤講師。


日野:本日は『日本列島回復論』という書籍の著者の井上さんと、2014年に『週末は田舎暮らし』という本を出された馬場未織さんに来ていただいております。今日は馬場さんが千葉県南房総の方で実践されている、山水郷での暮らしの実体験と交えていろんなお話を聞いていければと思っております。まず馬場さんに今までの2拠点生活などをご紹介いただきます。

(写真左上、井上岳一さん、右上、日野昌暢、写真下、馬場未織さん 以下敬称略)

週末は南房総、平日は東京の2拠点生活

馬場:はい。馬場と申します。ご紹介にあったように、2007年からで2地域居住という暮らし方をしています。平日は東京で暮らしていて、週末になると南房総の里山で家族で暮らすライフスタイルです。コストを考えた時に、年イチでの海外旅行と、だいたい50回ぐらいの週末田舎暮らしは同じくらいなんです。そこで、週末田舎暮らしを私たちは選んでいます。

うちの集落はですね、南房総の里山の中腹あたりにあるんですけど、7世帯しかないんですね。よそ者排除されませんかって言われますけど、そんなゆとりもないぐらいの限界集落なので、 むしろ誰でも来てくれると嬉しいというふうに少しずつ緩んで開いているような状態にあります。

井上:なるほど。

馬場:そんな集落のおじさん達からいろいろお誘いを受けるわけですね。今度、ずがに汁を食べるから来ないかって言われるんです。

日野:これ蟹ですか?

馬場:そうなんですよ。本当に野蛮な食べ方で、蟹を生きているうちにそのまま石臼の中にぶち込んで潰すんです。生きているうちに。そうすると3潰しぐらいまで生きてるんですよ。でもそのうちぐちゃぐちゃになって。味噌と一緒に溶いたものをこして、上がってきた泡を食べるっていう。

井上:めっちゃ美味そう。

馬場:すごい美味しいです! 他にも、近くにあるみかん農家さんの作るみかんがすごい美味しいんです。私は都市の事業拡大病におかされているので、「こんなに美味しいんだったら事業拡大したらいいじゃないですか」って言うと、「そんなことをする必要はなくて、僕は奥さんと2人で美味しい食事が食べられて、旅行ができるくらいの稼ぎでいいんだ」と言われちゃうこともあったりします。とはいえ農業従事者はがんがん減っているんですけどね。

都市と里山をつなぐ

馬場:私たち何もできないので、近くのおじさんたちにはだいぶ助けてもらっています。お互い様だよって言われるんですけど、全然お互い様じゃなくて、本当に何を返せばいいんだろうといつも悩んでいるところです。

そのうちに、おんぶにだっこで豊かなものばっかり享受していいのかなって思うようになりました。高齢者ばかりの集落にいて、「ここは10年後20年後どうなっちゃうんだろう。私たちいつまでもこうやってお客様気分でいていいのか」って思った時に、できることとしたら都市と里山をつなぐことじゃないかということで、始めたのが「南房総リパブリック」の活動です。再び里山を東京に戻そうよという意味でリパブリックとつけました。

日野:もうまさに、井上さんの本に書いてあるようなことですね。

馬場:井上さんの本を読みながら鼻血が出そうだったのは、こういうところもゆえんなんです。他には里山学校という、親と子が一緒になって自然を学ぶ学校をしたり、エコリノベワークショップといって、古い民家を安価に暖かい家として断熱改修をしようと知見を共有するワークショップをしたりとか。公共空間の再生・活用事業ということで、空いている小学校、保育園、幼稚園の活用もしています。担い手になって欲しくて、外の都市の人も出店していいマルシェをやって、地域内外の人を巻き込んだりしたりしました。NPOは南房総を愛する都市生活者の会みたいな感じでしたが、去年の台風で被災をしてしまいまして。我々は消えない支援者になろうということでボランティア活動を今でも続けています。

日野:すごいですね! 2拠点田舎暮らし、週末の田舎暮らしを手に入れようと移住したことがきっかけで、ここまでの活動、NPO活動まで広げてきたということですね。後でゆっくりお話をお伺いしたいと思います。そしたら、井上さんの方から、本に書いてあることについてお話いただければと思います。

 

多様な日本の暮らしを守りたい

井上:簡単に自己紹介すると、僕は日本総研という会社にいて、自動運転とかAIとかIoTとかをやっています。2018年ぐらいからMaaSのことをやり始めて、なんとなくモビリティの人、みたいな感じです。でもなんでこんなことやっているかというと、原点は森にあります。大学時代に林学科というところで森林の勉強をしていて、若い頃から森のことをやりたいなーとずっと思っていました。この写真は丹沢山頂からの眺めで、かつては富士山まで行く間のヒダヒダの1つ1つに人の暮らしがあり、人の営みがあった。こんな暮らしを守りたいし、将来につないでいきたいなあと思ったときに、AIとかIoTとかロボティクスとか自動運転とかそういうものがあれば、田舎に暮らしていけるんじゃないかと思って、素人だったんですけど、その世界に飛び込みました。そしたら自動運転などは新しい分野だったため、やっているうちにいっぱしの専門家っぽい感じになって、今それで飯食ってるところがあります。

田舎から人が撤退していく

井上:国交省が2017年に出した国土のグランドデザインの資料です。地図の青くなっている所は2050年までに人口が今の半分以下になる所です。今人が住んでいる場所の6割以上で半分以下になる。そのうちの2割には人が全く住まない地域になるっていう予測を国交省は出しています。

昔は山の暮らしってあったんだけど、不便でお金も稼げなくて、このまま本当に人が山から、地方から、田舎から撤退してていいのかという思いがあって。そういうことをまとめた本を昨年ようやく出すことができました。

若い人たちと話していると、希望なんてないですよという方たちがいますが、1章2章は、なぜこの国が今分断や格差と言われ、だんだんと生きにくい国になっているのか、その要因を日本の経済や社会を通して分析しています。そこからいきなり山水郷(さんすいごう)という、田舎の話になっていく。実は田舎を生かすってことの中に、何か今の日本の困難を解決する道があるんじゃないかという、文脈で書いています。そういうところを、僕らは捨ててきたわけですよ。じゃあ、なぜそれを捨ててきたのかを4章で分析し、一方で、最近若い人たちがそういう所に住み始めている話を5章で書いています。最後の6章で、山水郷で新しいクニづくりができるんじゃないかと締めています。

皆が生き生きと暮らせるような社会に

井上:この本を通じて問いたかったことは、やっぱり多様な地域とか存在ですよね。SDGsって誰も置き去りにしないというのがモットーですけど、日本の各地域で、誰も置き去りにされず、みんな生き生きと生きられるような社会をどうしたらつくれるのか。 幸福に、幸せに、とは思っていません。幸せとか不幸せっていうのは、その人のその時々の問題なので。やっぱり自分のもっている生命を使い切るのがすごく重要なのかなと思うんです。どうしたらそういうふうにみんなが生きられるか。この多様な日本列島の多様な地域で多様な暮らしがどうしたら持続可能になるのかを考えたかった。僕らって結局企業とか国を頼ってるから、どうしても都会じゃなきゃいけないと思っちゃうんですが、それは戦後にできた考え方です。そういうことも相対化する中で、本当の意味での自立ってなんだろうということを問うてみたかったんです。

田舎の認識を変える新しい物語をつくりたい

井上:その中で「山水郷」という言葉をあえて、中山間地域とか田舎とか里山地域とかいわれるところに付けてみたと。なんでかというと、田舎のイメージを変えたかったのが1つ。それと海に囲まれ多雨な日本列島は水がすごく豊富にあるんですね。日本の自然を象徴するものは「山水」なんだろうなということと同時に、山水があるだけでは意味がなくて。やっぱり人がいるっていうことですよね。山水の恵みが豊かで人の営みがあるような場所、人がずっと住んできたような場所、そういうところを山水郷と名付けてみました。

現実的には山水郷から人がどんどん撤退してる中で、現代的な可能性、意味ってどこにあるんだろうと考えると、1つは仕事と暮らしの距離がすごく近い場所だということ。特にコロナで、仕事と暮らしの両方を自らつくれる場所に何かすごく可能性があるんじゃないかなと感じています。

もう1つは、都市的な意味での祝祭性というのは何もなくて、コンビニも、イオンもないのだけど、逆に、何でも買って済ますことができないので、暮らしや仕事を自分でつくっていかざるを得ない。色んな事をつくって済まさないといけないんだけど、逆にそれがつくることの喜びにつながるような部分がある。そこに都市にはない根源的な祝祭性みたいなものがあるんだろうなーということを最近感じています。でも現実として、未織さんは「豊かだ」って仰ってましたけど、だいたいの人が(田舎は)豊かだとは思わないわけですね。みんな何もないって。内なる祝祭性があるかも、わからない。山水郷の豊かさも知らない。そもそも仕事がないから暮らしていけるとも思っていない。

あと僕らってデフォルトで地方を格下に見てるところがあって。日本総研の有名な人間で、農業やってる広島の福山出身の奴がいるんですけど、農業やってるから「福山帰るの?」と聞いたら「いや福山に帰ったらなんか都落ちって感じしますよ」と言う。農業は大事だ、なんて言っている人間でもやっぱり地方に帰るのは負けだと思う。なんかもう、デフォルトで地方を格下に見るというのは、そういう立身出世観があって。それって結構認識論の話で、認識を変えることが重要なんだろうなと。経済を変えるとか、ビジネスモデルがどうとか、そういうこともあるんだけど、そもそも認識を変えないといけない。そのためには新しい物語が必要だよねという思いがあって、新しい物語を書きたいというのがこの本を書いた一番根源的な動機でした。

改造ではなく、回復

井上:デジタルで世界が大きく変わる、本当に根本的な変化の時代を僕らは生きているんだなあと思っています。だから新しい物語がつくりやすい時代なんじゃないかなと。

日本列島改造論という田中角栄が書いた本がありますけど、あれは日本全国どこでも同じ暮らしができることを目指し、列島を改造しようと書いています。都市と地方の格差がある中では、すごく正しい夢だったと思うんだけど、こんなにも多様な日本列島をどこも同じにするって考え方には、やっぱり無理がありますよね。ここにはないどこかになろう。あるいは、自分にはないものに無理やりなっていこう。そういう「改造」の仕方では何か解がないんじゃないかというふうに思いました。

「回復」という言葉ですが、障がい者ケアの世界では、障がいを何とか無理やりリハビリとかで克服して健常者と同じように生活できるようにしようというのが昔の回復の考え方だったんです。でも、今の回復の考え方はもっと変わってきていて、ノーマライゼーションです。つまり、障がいを直すのでなく、障がいを抱えたままでも自立して生きていけるようになることを回復といいます。そのときに「CHIME」という言葉が1つのキーワード、回復のダイアグラムとしてケアの世界では語られるようになっています。

C:つながること。
H:将来に希望をもつこと。
I:障がいすらもアイデンティティーにしていくこと。
M:障がいを抱えた自分の人生の意味をちゃんと感じること。
E:自分が能動的に人生と向き合い、主体的に人生を生きること。

このCHIMEっていうのがすごく大事だといわれているのですが、このことを聞いた時、今の地方、山水郷という地域が自立して生きていくために必要なこととぴったり重なっていると思いました。都会とつながる、あるいはいろんな技術と新しい人とつながって(C)、将来に明るい希望をもって(H)、自らの土地を不便も含めてアイデンティティーと捉え(I)、そこに生きることの人生の意味を感じ(M)、主体的・能動的に生きていく(E)ということをやれば、地方も自立できるのではないか、回復していくんじゃないかと思ったんです。

 

ハイリスクな都市に集中する日本

日野:突然今年の頭からコロナウイルスで、都市に密集して生きることの限界をみんなが今感じ始めていて。NEXTコロナみたいにいわれていますけど、井上さんのところに、次を考えなきゃいけない政府の人とか結構いらっしゃってたりするんですか?

井上:そうですね、おかげさまで。僕は、テロっていうのはすごく大きな都市の病やリスクとして感じていたんですよね。それは私自身が95年の地下鉄サリン事件で、あと5分乗るのが遅れてたら死んでたという電車に乗っていたので。

日野:ああ、そうなんですか。

井上:経済危機が何度もきたり、金融危機がやってきたり、ゲリラ豪雨といわれるようになるのも2000年代になってからだし、後は3.11ですよね。石巻とか行くと、どこもぐしゃぐしゃになっていた。本当にインフラが壊れた時、都市は全然人が生きられない場所になっちゃうんです。

井上:逆に、僕が山水郷と名付けているようなところって、何があってもとにかく生きていけるような場所で。だって裏山に水があるから、水を引いてくればいいし。あと、被災地に行かれた方は分かると思いますが、災害などでインフラが機能しなくなった時、途端に排泄物問題というのが特に都市では大問題になるんです。だから都市ってすごくリスクが高いと思い始めたんですよね。でも、この本を書いている時には、パンデミックだけが頭になかった。この本にパンデミックのことも書いておけば、「予言の書」って言われたんでしょうねぇ(笑)。

日野:ハハハ。

井上:残念ながらそうはならなかったんですけど。ヤフーの安宅さんも『シン・ニホン』で最初にAIの話とか日本の問題をずっと書いてきて、突如として「でも地方は大事だよね」という話をするんですよね。都市的なものをずっと見てきた人ですら、やっぱりそう思うのかなって面白く感じました。東京一極集中みたいな、都市への過度な集中って、日本や発展途上の国とか、新興国にしかないことだなと思っています。

馬場:うんうん。

井上:多分短期間に、技術的にキャッチアップして経済発展したところって一極集中するんですよ。でもアメリカとかヨーロッパとかって多極じゃないですか。都市なんだけど、めちゃくちゃ緑が豊かで歴史もある。そんな暮らしをすると、東京だけ豊かになればいいみたいな日本のあり方に対して、「それって過渡的な国の姿を見て未来を描こうとしてませんか?」という思いになるんですよね。それもコロナでいよいよ変わるのかなと。本を書いている間、都市のリスクを語る上で、感染症のことは全く頭になかったのだけど、結構コロナ後に僕の本を読んで、書いてある通りですよねと言ってくれる方は増えたかなと思います。特に若い世代がそう言ってくれるのが嬉しいですね。

 

日野昌暢
1975年福岡県福岡市生まれ。2000年 九州芸術工科大学 芸術工学府 生活環境専攻修了。同年4月に博報堂入社。14年間の営業職を経て2014年よりケトルに加入。

「預かったご予算を着実な効果にしてお戻しする」という強い想いとともに、何が社会を良くするのか?を考えるデザイン発想で、事業企画や商品開発から、PR、プロモーション、マスメディアでの広告などまで、幅広い経験を活かした統合プロデュースを手がける。

また「本質的な地域活性」をマイテーマに、“外から目線”で地域資産を再編集し、地域のプレイヤーの“関わりしろ”を作りながら、事業、プロジェクト、プロダクトを共創し、開発して、情報発信を行っていくことを得意とする通称”ローカルおじさん”。

2020年には九州を取材テリトリーにしたローカル発Webメディア Qualities(クオリティーズ)を企画プロデュースし、創刊編集長。観光庁や文化庁の採択事業者へのコーチングなども多数行っている。

主な受賞歴に、2度のACC TOKYO CREATIVE AWARD グランプリ(2018,2022)、グッドデザイン賞BEST100(2022)、Spikes Asia ゴールド(2019)、カンヌライオンズ ブロンズ(2013,2019)、ADFEST ゴールド(2019)など。
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