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連載 : ”ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負

2020/12/30

“ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負 vol.3 石丸修平×高島宗一郎×日野昌暢「最強都市 福岡のネクストステージを語る」『超成長都市「福岡」の秘密』(日本経済新聞出版)刊行記念 前編

日野昌暢

博報堂ケトルの“ローカルおじさん”こと日野昌暢が、本質的な地域活性を考え、実践する方々を本屋B&Bのオンラインイベントにお招きしたローカルシリーズ十番勝負の3戦目です。記事は法政大学藤代裕之研究室の学生がまとめています。

ゲストは福岡都市圏の産学官民をつなぐ、福岡地域戦略推進協議会の事務局長で『超成長都市「福岡」の秘密 世界が注目するイノベーションの仕組み』を上梓した石丸修平さん。そして現職の福岡市長、高島宗一郎さんです。
今や世界から人と企業が集まる都市となった福岡。そんな福岡も、かつてはネガティブ要素の多い地方都市にすぎませんでした。そこから、どうやって今のような勢いを持ち始めたのか、どんなイノベーションを起こし変革してきたのか。そして、最強都市とも呼ばれるようになった福岡市のネクストステージは、どのような姿なのか。おふたりにお聞きします。「産学官民の連携」「スタートアップ」「地域活性」「福岡」に興味のある方、そして将来、地方自治体の首長に挑戦したいと考えている方は必見です。


石丸修平(いしまる・しゅうへい)
福岡地域戦略推進協議会事務局長。1979年生まれ。
経済産業省、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)等を経て、2015年4月より福岡地域戦略推進協議会(FDC)事務局長。九州大学客員准教授。
アビスパ福岡アドバイザリーボード(経営諮問委員会)委員長、Future Center Alliance Japan理事、九州大学地域政策デザインスクール理事、九州経済連合会行財政委員会企画部会長等を歴任。
中央省庁や地方自治体の委員など公職も多数務める。

高島宗一郎(たかしま・そういちろう)
福岡市長。1974年生まれ。
福岡で13年のアナウンサー生活を経て、2010年に36歳で福岡市長就任。
2014年、2018年にいずれも史上最多得票で再選し、現在3期目。
シアトルのビジネスに影響を受け、2012年にスタートアップ都市・福岡宣言を行うなど、数々の施策でムーブメントを生み出し、日本のスタートアップシーンを強力に牽引する。
2014年3月、国家戦略特区(スタートアップ特区)を獲得し、福岡市を開業率3年連続日本一へ導く。
福岡市政への信頼度調査では就任した平成22年の41%に対し、令和2年度は83.9%で過去最高。
日本の市長として初めてスイスで開催される世界経済フォーラム(スイス・ダボス会議)へ招待される。
スタートアップ都市推進協議会会長、日本地下鉄協会会長、教育再生実行会議有識者などを務める。


日野:本を入り口に企画をするのが本屋B&Bですので、石丸さんが本を出された時から福岡市出身の自分としてはやりたいなと思っていました。高島さんにも出ていただけるということで、私が一番ビックリしました。改めて今日の登壇者のご紹介をさせていただこうと思います。高島宗一郎さん、現職の福岡市長です。それと、『超成長都市「福岡」の秘密 世界が注目するイノベーションの仕組み』という本を出された福岡地域戦略推進協議会事務局長の石丸修平さんです。今日はよろしくお願いします。

高島:よろしくお願いします。

(写真左上、福岡市長/高島宗一郎さん、写真右上、福岡地域戦略推進協議会事務局長/石丸修平さん、写真下、博報堂ケトル 日野昌暢 以下、敬称略)

産官学民をつなぐ、福岡の重要人物

日野:今Webメディア『Qualities』というものをやっておりまして、石丸さんにも取材をさせていただいています。でもパッと見て、石丸さんが何をやっている人なのか非常に分かりづらい。ぜひ高島さんに、石丸さんは何をやっている人で、福岡市との関係性と役割がどんなところにあるのかを分かりやすく説明していただけないかなと思っています。

高島:簡単に言うと、経済産業省つまり「官」にいて、九州大学に行って「学」にいて、「民間」にもいたという「産学官民」すべてに属したことがある人です。

石丸さんは、福岡の成長戦略において産学官民のハブの存在です。石丸さんの様々な経験の何がいいかというと、それぞれの業界の言葉を翻訳できるんです。民間の人が「僕はラーメンが食べたい」と言ったとしても、それだけでは行政に落とし込めません。直感的にラーメンが食べたいという話を「行政の基本構想、計画がある中のこういうところに位置づけされて〜」という翻訳をする能力はすごく必要です。石丸さんはまさに産官学民全てを経験しているので、「ここに落とし込む時にはこのように説明をすれば分かりやすいよね」と翻訳する役割を担っていただいています。実は、福岡市の重要人物です。

石丸:ありがとうございます。

日野:市長がおっしゃったとおり、言語が違うので翻訳というのは非常に大事になりますし、翻訳する時にはお互いの思惑や気持ちを大切にすることや、言うことが違うということを前提にしていないと相手を傷つけてしまったり、状況が膠着したりしますよね。石丸さんは、福岡市を拠点にしながら九州、アジア、世界、日本全国というところで縦横無尽に飛び回っておられる方だと思います。石丸さん、改めて本に書いてある概要を説明していただいてもよろしいでしょうか。

「大注目の福岡」

石丸:はい、本のタイトルは『超成長都市「福岡」の秘密 世界が注目するイノベーションの仕組み』と付けています。福岡がまさに超成長都市として、特に高島市長が就任されて以降は急成長を遂げていろいろな動きが出てきているということを紹介した本でして、福岡地域戦略推進協議会(FDC)の組織の内容と合わせてご紹介できればと思います。

FDCは2011年の4月に立ち上がりました。福岡市を中心に北は宗像、西は糸島、南は筑紫野、太宰府といった、17の市町で構成されている、いわゆる福岡都市圏で広域連携をしていきながら、都市圏単位での地域の成長戦略の策定から推進までを行なっていこうというものです。産学官民think & do tankとして、Thinkからしていくのではなくて、いろんな事業を組成してそれを社会実装していくことで地域を動かしているということを、この組織の1つの特徴と位置づけています。元々福岡の企業でスタートした組織ですが、会員は216で、東京を中心とした企業が2/3を占めるような組織になりまして、域外から大変注目をいただいています。

新しいリソースをお持ちのプレイヤーが、福岡のために、あるいは福岡をきっかけにどんどん事業を起こしていって、それがひいては福岡都市圏のためになるという、双方がWin-Winになる環境をFDCで作っていこうとしています。

都市圏でのオープンイノベーション

石丸:なんでこんなことやっていくのか。それは世界のイノベーション都市をずっとベンチマーク(優良事例を分析し、学び、取り入れる活動)をしてきた中で、東京のような大都市ではない福岡都市圏がどう生きていくのかということを考えていく1つのポイントとして、メガシティではない、都市圏を構成する地域が非常に強みを持っている例があると思います。生活の質の高さというものが確保されていて、暮らしという観点で非常にいいんです。そして先駆的な教育機関との関係ということで、大学をはじめとする教育機関が中心的な役割を果たして、本当にまちに溶け込んでいるような形で存在しているんです。

加えて産官学民が何かしらの方法でオープンイノベーション、新しい事業や価値の創出につながるような取り組みを行っています。コペンハーゲンでは、デザインセンターなどの公共政策、交通とか環境、都市の問題を官民で事業を創出して解決しています。バルセロナでは、グローバルでいろんなものを調達していて、世界のプレイヤーにバルセロナの課題を解決してもらおうとする取り組みがあります。サンフランシスコは、アントレプレナー・イン・レジデンス(起業家が既存の企業に入り、その中で新規事業の立ち上げを行う)ということで、実際に行政がスタートアップのアイディアや取り組みなんかをどんどん取り入れて行政改革していこうとしています。いずれも産官学民が一体となってやっていく例があって、福岡でもぜひやっていこうということです。

東アジアのビジネスハブを目指す

石丸:今申し上げたところを踏まえて、福岡がどういうところをやれるかですね。ポテンシャルがあって、しかもアジアとの近接性といったようなものを考え、2020年をターゲットに、東アジアのビジネスハブを目指そうとしています。まだその途上ではありますけれども、実際に経済をどんどん大きくしていくということを福岡市と共に、FDCの立場で動いていこうと思っています。

FDCとしては、雇用を6万人増やして人口を7万人増やして、経済的なボリュームを2.8兆円増やすということを10年かけてやりましょうという戦略を掲げました。結論から言うと、ちょっとGRP(域内総生産)はタイムラグがありますけれど、基本達成されている状況です。福岡市の成長に伴って、都市圏の成長もしっかりと確保できてきたということです。

そういったマクロの考え方の中で、FDCは特に観光MICE(多くの集客交流が見込まれるビジネスイベント)を中心において、コンテンツとして、それを支える人材やまちづくりというものを支えていきながらスマートに変えていくことを大きな戦略に掲げています。そうしながらコンテンツとかファッションとか教育を強めていったり、あるいはその後生活関連サービスでヘルスケアをやっていくことなどがFDCで実際に動いてきたところですね。

もう1つ特徴的なのは、まちづくりの部分をしっかり作っていかなきゃいけないということです。天神と博多に加え、ウォーターフロントを都心と位置付けて開発をしていこうということで、国際会議場とかMICEの施設を作っていくんです。博多は新幹線なんかも含めた交易拠点ですので、それをつなぐ交通をどうしていこうかといった観点での機能の誘導をしていこうとしています。天神は元々クリエイティブとかコンテンツは大変強いので、まちづくりという意味でもスタートアップなどを生みだしていけないかと思っています。特にここがポイントなんですが、「需要創造」ということをしっかりと意識しながら都心の未来を考えていく中で、新しい価値が創出できるリアルな場所をたくさん実装していくことによってイノベーションを創出していると考えています。

これ(下図参照)はF venturesの両角さんの地図です。市長が2012年にスタートアップ都市宣言されて以降、脈々とスタートアップが創出される環境も出てきている中で、我々としてはそれを支えていく空間や環境、イノベーションアンカーをどんどん実装していくというところです。パッと見て、たくさん福岡起点のスタートアップが増え、良質のコミュニティーが形成されてきているところがありますね。本にも、このような人たちが新しいイノベーション創出につながるプレイヤーとなって取り組みをされているということを紹介させていただきました。

新しいサービスを生み出すための連携態勢

石丸:もう1つポイントだと思っているのは、実証実験とか社会実験をどんどん福岡市FDCで連携をして作って受け入れていくということです。サービスを作る上で、特にスタートアップは場所がないとか、ユーザーをどうやったら獲得できるのか分からないとか、行政との接点を作ることはやっぱり難しいとか、企業と組もうとした時にはなかなか敷居が高くて門前払いされるとか。いろんなお困りごとがあるところを実証実験の実施を絡めて積極的に応援していくことで、新しいサービスを作っていくということです。ヘルスケアのサービスが出てきたり、キャッシュレスのようなものもあったり、一時保育マッチングの事業があったり、いろいろと今後につながるサービスが生み出されています。

もう1つは、福岡市が中心となって、3、4年ぐらいでグローバルの都市連携、要はインバウンド・アウトバウンドのイノベーションをどんどん進めていこうとしています。イノベーションの1つの起点として重要なのはグローバルです。福岡のインバウンドは、福岡市が「Fukuoka Growth Next」というインキュベーション(事業の創出や創業を支援する)施設を作って随分と来るようになりました。今後はこれを、アウトバウンドということでどんどん促進していかなければならないフェーズだと思います。

社会制度の形成

石丸:最後になりますけれども、FDCとして目指しているのは新しい実証実験を経て社会制度の形成に持っていきたいということです。

アジャイルとも言われますが、いち早く試していち早くそれを形にして、それを実装するということを、どんどんスピード上げていきたい。先程の実証実験なんかもそうなんですが、サービスを作ってそれを動かして、どんどん社会実装していく中で、実は制度がハードルになったりとか、ローンチ(新サービスを開始)できないようなことが起きます。その時に、福岡市は特区ですから規制緩和案件なんかをあげていって、むしろサービス・商品から社会制度、歪みを正していくというか、現在に合った形にしていくというようなスパイラルを作っていきたいと思います。

地域の成長に必要なもの

石丸:本の最後に、地域の成長に向けて大事なことは何かを書いています。公共のリーダーシップとして、首長がリーダーシップを取って、覚悟を決めてビジョンの方向づけして、状況によって国とか議会、ステークホルダーと交渉しながら最後に決断をしていくということが重要だなと思います。もう1つ、民間企業のコミットメントということで、公共だけでできないこととかを、民間企業が積極的に参画することでナレッジとリソースが得られたり、事業感覚でプロジェクト回していけたりするんですね。
そのためには、間となる仲介者としての機能が必要なんだろうと思います。両者の通訳をして情報をつないでいくとか、ニーズとかグレーゾーンに適切にアセスメントし、そのマネジメントをしていくような機能などが必要で、今後の他の地域への示唆でもあるのかと考えているところです。

日野:ありがとうございます。度々登場している産学官民の連携、広域連携が、これからの日本のどのエリアでも地域をアップデートしていくために必要だと耳にします。石丸さんたちがやっているFDCや翻訳者みたいな人や、実際に動く人たちが、どこのまちにもいないと聞いています。なぜ福岡だとそういうことができているのか、どうやったら福岡市みたいなことができるのか、ポストコロナの最強都市と言われている福岡のあり方というところに入っていきたいと思います。

日野昌暢
1975年福岡県福岡市生まれ。2000年 九州芸術工科大学 芸術工学府 生活環境専攻修了。同年4月に博報堂入社。14年間の営業職を経て2014年よりケトルに加入。

「預かったご予算を着実な効果にしてお戻しする」という強い想いとともに、何が社会を良くするのか?を考えるデザイン発想で、事業企画や商品開発から、PR、プロモーション、マスメディアでの広告などまで、幅広い経験を活かした統合プロデュースを手がける。

また「本質的な地域活性」をマイテーマに、“外から目線”で地域資産を再編集し、地域のプレイヤーの“関わりしろ”を作りながら、事業、プロジェクト、プロダクトを共創し、開発して、情報発信を行っていくことを得意とする通称”ローカルおじさん”。

2020年には九州を取材テリトリーにしたローカル発Webメディア Qualities(クオリティーズ)を企画プロデュースし、創刊編集長。観光庁や文化庁の採択事業者へのコーチングなども多数行っている。

主な受賞歴に、2度のACC TOKYO CREATIVE AWARD グランプリ(2018,2022)、グッドデザイン賞BEST100(2022)、Spikes Asia ゴールド(2019)、カンヌライオンズ ブロンズ(2013,2019)、ADFEST ゴールド(2019)など。
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