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連載 : ”ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負

2021/05/21

“ローカルおじさん”の地域活性のホント十番勝負vol.8 徳谷柿次郎×嶋浩一郎×日野昌暢「PRパーソン必見! 地域活性へのパブリック・リレーションズの活かし方」後編

日野昌暢

(写真中央:『ジモコロ』編集長 徳谷柿次郎さん、写真右:博報堂ケトル 嶋浩一郎、写真左:博報堂ケトル 日野昌暢 以下敬称略)

中編では、長期的なPRとカルチャーを発信することが、地域が自力で走っていくために必要であることを話しました。後編では、そうした地域の情報を発信するウェブメディアのこれからのあり方について考えていきます。

長野県の新しいメディアを作る

徳谷:今、個人で始まった仕事があって、嶋さんと共通の知り合いで「長野の星」と僕が呼んでる藤原君と一緒に、長野県のメディアを3月に立ちあげるんですよ。(※長野で暮らし、働くことを考える 移住総合WEBメディア「SuuHaa(スーハー)」)

嶋:素敵。

徳谷:それは「移住」が主なテーマなんですけど、長野県の行政の中で縦割りの、それぞれの役割の中でいろんなメディアを立ち上げすぎて、もはや移住したい人はどこを見ればいいのか分からなくなってるから、それを統合しようとしています。
地域の情報は、空き家情報、創業支援とか、仕事、暮らしのインタビュー記事とかいっぱいあるじゃないですか。メディアを立ち上げても、そういう情報のバナーを貼って県が作った縦割りのメディアの先に飛ばしても意味がないと思います。
県のメディアは税金がなくなると急に閉じたりしちゃうので、今回は長野県で県民の半数以上が購読している信濃毎日新聞さんに新規事業のビジネスとして間に入ってもらっています。県の仕事として立ち上げた後は、信濃毎日新聞さんが事業を持ってくれて、そこで僕の会社が編集で入るという座組ですね。

嶋:これは移住しようとする人がどんな気持ちでウェブサイトにアクセスするかが大事なんですけど、それだけやってると想定の範囲内になっちゃうところもあるから、「こんなところから移住勧めてくれんの!?」までいけると本当はすごくいいと思います。

徳谷:全く関係ないところからみたいな?

嶋:そこまでできるといいと思います。ウェブはどこからでも入ってこれるから。
僕、「ファネル」っていうやつあまり好きじゃないんですよ。「これを見た人はきっとここをクリックしてここにきて、クリック率は何%で、ここに来るはずだ!」みたいな。「お前は神か!?」と思って。

徳谷:確かに、なぜ人間の欲望が分かるんだということですね。

嶋:もっと違うやり方あるんじゃないかと思います。もちろんデジタルでの確率を上げるビジネスも大事。精度を上げていくことで、その人達のビジネスはクライアントの役に立ってるんです。でも人間ってもっと複雑に考えるから、あっちいったりこっちいったりしながら考える。そういう思考に寄り添えるようなウェブの構造ができるとかっこいいなと。

徳谷:なるほど。全然違うところから人の欲望をキャッチしていくということですね。

 

誰でもメディアを作れるが、続けていくのは難しい

日野:行政で作るということは、税金で作るということで、それは自治体の資産になってしまうので民間に渡すことが難しいんですよね。最初から民間に渡すことを設計していればできるけど、急には変えられないから。2015年くらいからの地方創生の時に乱立したメディアは、もう誰にも渡せないから消しちゃうみたいなことがあります。

嶋:インターネットができて、誰でも自由にメディアが作れるじゃないですか。オウンドメディアという言葉ができたように、企業でも自治体でも個人でもメディアができるような時代になったのは本当にその通りだと思うんだけど、でもメディアってそんな簡単にできないからなと思うわけですよ。ネットができてオウンドメディアができることになって、すごくそれが身近なものになったし、そうなったらいいなと思うけど、安易にメディアを立ち上げると火傷するよと。

徳谷:いやー、そうですね。

日野:すぐに立ちあげることはできるけど、続けていくことが難しい

嶋:あと行政の方々は、反対意見があるのを嫌うじゃないですか。ネットのメディアはそれが明確になるし、反対意見があって当然の状況の中で、編集している人たちがそれに心折れちゃうこともあるしね。そういうことも含めて、どこまで覚悟して作れるかはすごく大事ですよね。

カルチャーを作れるウェブメディアはなかなかない

徳谷:ウェブメディアを作りまくるお仕事してるんですけど、やっぱり紙の雑誌の特集への憧れがすごくあるんですよ。ウェブメディアは「点」でしか紹介できないことへの難しさがあるので。読んでもらってナンボで、PVとかKPIとかでしか判断できない中でも『ジモコロ』は頑張っているつもりなんですけどね。

嶋:脱PVを目指してほしいと思っています。ぶっちゃけPVだけ目指しているとカルチャー作れないので

徳谷:そうですよねえ。

嶋:『ほぼ日』とか『北欧、暮らしの道具店』『News Picks』とかは1つの価値観を持って
カルチャーが作れているウェブサイトだと思いますね。

嶋:ここに共通している人たちは、意外と雑誌編集的な感覚でウェブサイトを作っているわけですよ。それって、雑誌はカルチャーを作れるけど、ネットは顕在化した欲望に情報を当てていくのが得意なんです。「この人スポーツカーのページを見てるな」と分かるから、「その人にスポーツカーの広告当てちゃおう」ってバンバン当てて行ける。さっき言ったファネルの話と近いんですけど、「この人はこれに興味持ってるからこれを当てよう」というのができるけど、全くスポーツカーに興味のない人に「スポーツカーのある生活いいでしょ?」っていうのを啓発できるネットのメディアは残念ながら少ないと思う。
でも雑誌は、興味がない人に「紅茶のある生活どうですか」とか「移住するのはどうですか」とか、今までとは違うライフスタイルとかカルチャーを提示するのが得意なところがあります。
雑誌とか番組は限られたページ数とか時間の中に情報を入れなきゃいけなくて、セレクトされた情報だけ残るから価値観が出るんですよね。
ウェブはもちろん編集してる人もいるだろうけど、基本境界線がないから全部入ってるごった煮状態になっていて。あと、そもそも働いてる人がカルチャーを作ることがいいことだと教育されていなくて、PVとることがいいことだと教育されているからそれを目指しちゃうわけですよね。
でも、『BRUTUS』は餃子の特集を作る時に、餃子の新しい価値観を打ち立てようと思って、「今の餃子はこうだよね」という「彼らなりの見立て」をちゃんと世の中に広めようと思うから、そこにカルチャーがあるんですよね。
だからカルチャーをウェブで作るっていうのを、ぜひ柿次郎さんにやってほしいんだよね。すごくそういうスピリットを持っている方だと思うので。

徳谷:ありがとうございます。本当にそこを目指したいと思います。
『ジモコロ』はちっちゃい単位の中での『ジモコロ』らしさを大事にはしているんですけど、そうは言ってもクライアントがいるオウンドメディアなんです。『バーグハンバーグバーグ』と半分ずつ記事を作っていて、僕が作っているチームの記事の『ジモコロ』の色と、『バーグハンバーグバーグ』が作る記事の色が両方共存しています。
なので、最終的には自分でお金を投資して主導権をもって自分の好きなメディアを立ち上げないと、ウェブメディアでカルチャーを形作るのは結構難しいなと思います。

(出典:ジモコロ ウェブサイトより)

便利さやPVではなく、世界観を作る

嶋:セレクトされた情報の中に価値観とか世界観が見出せるから、「この雑誌好き」とか「この番組好き」とかになるわけで。ネットは全部の情報をアグリゲーションしちゃうから、世界観が存在しないというか、いろんな情報が入っているコンビニエントなものになっちゃうんだよね。コンビニエントなものは、便利だと思うけどラブは生まれない
コンビニエントとラブは全然違う概念で、情報をセレクトしてもらった人はそのものを好きになるんです。好きになってもらった方が、「移住しよう」とか「この人の言うことを聞いてみよう」とか思ってくれるんですね。
さっき「ローカル発のウェブメディアは、別にローカルって強調しなくていい」と言ったけど、PVに依存したりKPIを掲げるよりも、どんだけ世界観を作れたかにしていったほうがめちゃくちゃいいと思いますけどね。

面白いものは自分で見つける

嶋:イベントの視聴者さんからの質問で、「地方でも東京でも面白い人に出会うのは結構難しいんじゃないかなと思うのですが、どうやって見つけられますか」と。これについては反省もあるんですよ。

徳谷:反省から入るのいいですね(笑)。

嶋:広告をやっていての反省は、例えば映画の広告を作る時に「これは泣ける映画です」とかいって、すべてのコンテンツに事前に効果効能を提示しちゃう世の中になってる。
ご飯食べに行く前に、ネットでその店は何が食べられるのか、レビューは何点なのかとか調べますよね。映画見るのも、本を読むのも、クチコミメディアで全て確認してから行くみたいなことになっちゃってるし、地方に行く時もそうですよね。

日野:ハズレがない状況を作ろうとしているんですよね。

嶋:そうしちゃうのはもちろん分かりますよ。この限られた時間の中で、絶対いい店に行きたいとか。でもね、その発想を一回捨てた方がいい。
本とか映画は、基本読んでも全く役に立たないかもしれないという無の境地で読んだら、意外に面白かった時に急に得したように思えてくる感じがある。
ネットの集合知に頼ることは、不特定多数の知らない人たちの思考性に自分を委ねることにもなるわけじゃないですか。でもそんな事して面白い?
何かを発見するのが一番面白くて、発見するためにはいろんなリスクも伴うし、不味い店もどうでもいい映画も見なきゃいけないけど、自分で見つけることのほうが価値があると思ったほうがいい。

徳谷:レバニラTシャツみたいなものも自分で見つけられるようになった方がいいということですね。

嶋:集合知は1つのものとして使えるんですけど、自分の嗅覚で行くということと、他人の評価にあまり依存しないこと。あと損しても怒らないことが大事ですね。全部得したいと思って人の評価に頼ると、この循環が起きるので。

自分が好きなものを言い続ける

徳谷:そうですね、僕もよくそういう質問をされるんです。よく言うのは、自分には代表作があるというか、たまたま『ジモコロ』というメディアの肩書きがあって、変なおじさんをずっと取材していると「この人は変なおじさんが好きな人なんだ」みたいなキャラクターができるんですね。その結果としていろいろな店に案内されるんです。
でも、「自分はこういう人ですよ」と表わすのは別にブログでもいいんですよ。常に実態と他者の認知はズレているものなので。

日野:自分が好きなことを明快に言っておくのはすごい大事ですよね。

徳谷:そう!

日野:俺、大学生の時に隣の席の奴が「俺は時計が好きだってずっと言うことにしてる。そうすると、みんな時計をプレゼントしてくれるんだよね」と言っていたことがあって。人に何かをあげたいと思うことがあるわけで、その時「あいつはこれが好きだから教えてあげよう」みたいなこともありますよね。「柿次郎君は変なおじさん好きだよね、教えてあげよう」みたいな。

嶋:あともう1個あるとしたら、失敗することもあるけど、自分の気に入る店に辿り着いたり気に入る人に会えたりしたら、そこから芋づる式に聞きまくるっていう。

徳谷:はいはい。そうですよね。

日野:僕は街の人に「面白い人いますか?」とか「頑張ってる人いますか?」と聞きます。まあ、30万人くらいの街とかだとそんなにたくさん出てこないです。でもみんな一定の十数人ぐらいの人のことを言うなあと思って、その人たちがやられていることとかを見て面白いなと思ったりして、少しずつ仲間をつくっていきます。

嶋:あともしかしたら一番大事なのは、クライアントがいない仕事をクライアントがいないのに、とにかくやること。

日野:それはめちゃくちゃ大事ですね。僕ら広告代理店はクライアントありきの動きをするからね。

嶋:「面白い人いませんか」と聞く時点でもう仕事になってるから、あんまりやらないんですよね。勝手に1人の旅人としてどこかにたどり着いて、気に入った店があると「パンどこで買ってるんですか」とか、「喫茶店いいとこないですかね」とか聞いて。喫茶店に当たるとまた次へと、わらしべ長者的に聞いていくのはある。

PVと広告収入の仕組み

嶋:またちょっとシビアな質問が来ました。
「そもそも地域人口が少ないので、ローカルメディアを運営して3年経ちますが、PVじゃないところを目指しつつ、広告収入を得るためにはやっぱりPV数が必要です。これはどうすればいいんでしょうか」と。
広告収入は本当にね、広告市場の制度の問題なんですよ。PVはすごく民主的で分かりやすかったから、1990年代に日本の企業やウェブメディアがPVで換金するというのを決めたんだけど。
そもそもその前にアメリカで同じような現象が起きてて、当時eコマース(インターネット上で行う契約や決済)も同時に起きてきていたので、PVをどれだけ抱え込んで自分のサイトに流入させるかに価値があったということなんです。まあ、もちろん視聴率や部数という時代がもうその前にあったわけですけど。

徳谷:必然の流れですね。

嶋:でもテレビ番組だと、番組を丸ごと1つのスポンサーが提供する仕組みがある。
僕は「このウェブメディアいいね。応援したいから協賛金を出します」とか、そういう方向に向かう時代は来ると思ってるし、そういう志を持ってる。ローカルメディアという領域だけじゃなくて、雑誌とかがウェブに移行していく時にそうなった方が絶対素敵だと思うわけですよ。

徳谷:テレビとか新聞とかのでっかい資本の中で作ったメディアの広告モデルを、2、3人の最小単位でやっているのがウェブメディアで、同じ土俵で測ってるからそういう悲劇が起きるなと思っていて。
売るロジックと作るロジックが本来バラバラじゃないですか。さっきの質問をくれた人は、多分売るロジックと作るロジックの両方を持とうとしてるから難しいというか。そもそも金稼ぐのは結構無理ゲーなので、一回捨ててその上で自分自身は何が好きかとか、どう続けるかとかを考えればいいのになと思います。

日野:僕が『Qualities』を作った時は、PV稼ぐのは絶対無理だと思っていて、その中で九州のローカルウェブメディアとしてディープな内容を出していくと決めていたので、ビジネスモデルを人材のマッチングにしてるんですよね。
人材マッチングのビジネスは、転職する人の年収の35%が成功報酬で払われるんですよ。仮に1000万円の年収の人を転職させたら350万円入ってきて、そうしたら結構記事作れるじゃないですか。実際35%はローカルの企業にとって重すぎるので、もっと全然軽くしているんですけど。
柿次郎さんが言ったように、続けていくための仕組みをもう一回組み直した方がいいかもしれないですね。

 

東京の価値観を知る必要はあるのか

日野:まだ質問ありますね。

嶋:はい、きてますね。「コロナでよかったのは、地元にいたら知ることができない、今回のようなお話が聞けること。東京圏の価値観、視点を知るにはどうすればいいんでしょう」という質問です。

日野:東京圏の価値観ね。それが一番難しいかもしれないな。

嶋:自分が面白いと思ったものを言った方がいいとしか言いようがないんですけどね。

徳谷:アハハ。

日野:東京が一番寄せ集めだからね。

徳谷:そう、この時代において、みんな自分がどうするかを最初から考えてないことが多くないですか?他者がどう言ってるから、会社がこう言ってるからではなくて、自分がどう思っているかをもっと言えばいいのに。

嶋:何かを損したくないとか、そのために事前に集合知で情報を得るとか、反応されないのが怖いとか。でも反応されないのが当たり前、ハズレもあるのが当然。みんなそこに期待値が異常に高すぎるよね。

徳谷:逆に東京圏を知りたかったら、もっと辺境の地に行けば東京がより見えるかもしれないですし、自分なりのものの尺度を持ててないんだとしたら、違う尺度を持ったほうがいいと思いますけどね。

 

地域の人と同じ立場に立つこと

嶋:柿次郎さんは今後どういう活動したいんですか?

徳谷:ウェブメディアの仕事は増えてるんですけど、自分がどんどんちっちゃく削れている感覚があるので、極力留めたいです。その中で自分がどう生きるかを、ウェブメディアじゃないもので、もっと実体のあるものに対して時間を使いたいなと正直思っています。

嶋:柿次郎さんがやっているお店に、僕は全く誰にも聞かずに行きましたよ。

徳谷:ええ! 行ってるんですか!

嶋:うん。『シンカイ金物店』っていうよく分からないお店。

 

(出典:シンカイ金物店 Instagramより)

嶋:そこで Tシャツも買いました。

徳谷:初めて知りました。えぇ、暗躍している……。

日野:たどり着く人はたどり着くってことですね。

徳谷:もともと120年の古民家なんで、以前にいろんな人がその土地で徳を積んでいる建物です。ただまあ、僕自身があそこでお金を稼げてないですし、ウェブメディアのない店舗を通して、おじいちゃんおばあちゃん、若者、地方から来る人がちょっと立ち寄れるスポットを作って定点観測を楽しんでいる状態ですね。
誰かに聞いてお店をやろうと思ったんじゃなくて、お店をやらないと長野でお店やってる人と同じ言葉を喋れないなと思っただけなんですよ。そしたらいろんなことが見えてきました。分からないからこそ人に聞くのもいいですけど、飛び込んでリスクをとって、いかに自分の責任の中でやりきるかというとこでしか分らないんじゃないんですかね。

日野:ほんとそうなんですよね。僕も同じ理由で、実業がやりたいなと思っています。やらないと街の人たちと対等に話せない。ふらっとやってきてお金をもらうとか、そうじゃないほうがいいなあと思って。

嶋:やればいいじゃないですか。

日野:やります!
こういうふうに言ってくれるので、「ローカルおじさん」と呼ばれるようになった僕が生まれてきたということですね。

何よりも、自分が思うことを発信する

徳谷:僕は他者に対して価値を可視化させて提案するのが面白いんですけど、その前に自分自身が何を面白いかをちゃんと確保しないとできないと思ってます。
最後に聞きたいのは、いろんな役割がどんどん大きくなっていきながらも、嶋さんが自分の中で今一番大事にしてることはなんですか?

嶋:今日の質問を見てて思ったことは、「東京の価値観ってなんですか」とか、自分が見つけたことに自信が持てない人が多いと思ったんです。

徳谷:なるほど。

嶋:多分みんな、薄々気付いてると思うんですよ。実はこっちの方が面白いんじゃないかなとか、これとこれをセットにしたら価値になるんじゃないかって。縄文人とかナンシー関とか、棟方志功とかの繋げ方は強引だけど、でもそれを聞いて面白いと思ってくれる人がいるわけで、自分の思ってることを個人発でやった方がいい
みんながいいと言ってるものはもはや消費されているものだから、そうじゃないものを見つけなくてどうするのかと。価値はいろんなところに埋もれてるんでね。

日野:嶋さんが社長を離れる時に、ケトルの中で言った最後の言葉があったんですよ。「優秀だけど欲望がないやつよりも、優秀じゃないけど欲望があるやつの方がいい仕事をする」と。
それはそうだなとすごく思って、どんなに優秀でも、「これがやりたい」とか「この未来が見たい」とか、そこがないと推進力もないし、こなすだけになっちゃうので。そうじゃなくて自分がこれやりたいからやってんだという人は、優秀か優秀じゃないかの前に一生懸命やってるんですね。

徳谷:勝手に動いてることがありますよね。

嶋:自分の発見に自信を持ったほうがいいと思うんです。

徳谷:嶋さんも自分の発見の話をこの2時間ずっとしてましたから。

日野:そうだね。

徳谷:自分オバケ(笑)。

一同:ハッハッハ。

徳谷:だけど、それめちゃくちゃ大事だと思います。僕も会社員から離れたからそういうことを言ってるだけですけどね。日本人全員が自分のことを喋り始めたらそれはそれで大変なことになると思うので、適度な悩みを持ちながら自分でやり続けるしかないような気がしますよね。

日野:とにかくローカルにはめちゃくちゃ面白い人たちもいっぱいいますし、それを自分発でウロウロしていれば。

徳谷:ちょっと行った所の文房具屋さんのおじさんと3時間喋り込んだら面白かったりして。

日野:ですよね。絶メシリストのおじさんとか、みんなただの食堂のおじさんなのに、話をよくよく聞いてみたらもうめちゃくちゃおもしろいみたいな、そういうことでしかないんですよね。

今日は十番勝負の第8戦ということで、嶋浩一郎さんと『ジモコロ』の徳谷柿次郎さんでした。みなさんありがとうございました!

あとがき

話を聞きながらムッとしました。自分が好きなことを言ってハッハッハと笑うことの方が絶対に楽しくて幸せだと分かっていても怖いと感じていて、それは「素直に言って良いんだよ」という言葉を真に受けて勇気を出して言ったら否定されたり、自己責任だと突き放されたりした経験が積み重なっているからです。自由に何でも選べるように見せかけて実は選べない社会で、誰かの意図を先回りしてきたから、誰かの基準ではなく自分の好きなものを発信し続けたらいいという話を聞いて、お三方がうらやましくて腹が立ったのだと分かりました。
(法政大学藤代研究室 青柳美里)

 

日野昌暢
1975年福岡県福岡市生まれ。2000年 九州芸術工科大学 芸術工学府 生活環境専攻修了。同年4月に博報堂入社。14年間の営業職を経て2014年よりケトルに加入。

「預かったご予算を着実な効果にしてお戻しする」という強い想いとともに、何が社会を良くするのか?を考えるデザイン発想で、事業企画や商品開発から、PR、プロモーション、マスメディアでの広告などまで、幅広い経験を活かした統合プロデュースを手がける。

また「本質的な地域活性」をマイテーマに、“外から目線”で地域資産を再編集し、地域のプレイヤーの“関わりしろ”を作りながら、事業、プロジェクト、プロダクトを共創し、開発して、情報発信を行っていくことを得意とする通称”ローカルおじさん”。

2020年には九州を取材テリトリーにしたローカル発Webメディア Qualities(クオリティーズ)を企画プロデュースし、創刊編集長。観光庁や文化庁の採択事業者へのコーチングなども多数行っている。

主な受賞歴に、2度のACC TOKYO CREATIVE AWARD グランプリ(2018,2022)、グッドデザイン賞BEST100(2022)、Spikes Asia ゴールド(2019)、カンヌライオンズ ブロンズ(2013,2019)、ADFEST ゴールド(2019)など。
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