SHARE THIS PAGE

ようこそ
カテゴリ
会社情報
閉じる
連載 : ”ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負

2022/06/08

“ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負 番外編 指出一正×田中輝美×日野昌暢 「関係人口2021 〜今こそ関係人口を語り尽くす」 『関係人口の社会学』(大阪大学出版会)&『みんなでつくる中国山地2021 第2号』(中国山地編集舎)W刊行記念 後編

日野昌暢

関係人口を社会学の見地から定義し、その役割を論じた本邦初の「関係人口の研究書」であるローカルジャーナリスト田中輝美さんの『関係人口の社会学』と、同じく田中さんが手掛ける「暮らしが買えると思うなよ!」という挑戦的なキャッチコピーがつけられた『みんなでつくろう中国山地2021 第2号』。
「関係人口」が国の地方創生のキーワードとなっている今。このW刊行を記念し、田中さんと関係人口っていう言葉の提唱者の一人でもある『ソトコト』編集長の指出一正さんをゲストにお迎えし、拡張し続ける「関係人口」の最前線、そして課題について語っていただいたイベントレポート後編をお届けします。

 


指出一正×田中輝美×日野昌暢「関係人口2021 〜今こそ関係人口を語り尽くす」前編はこちら▼

“ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負 番外編 指出一正×田中輝美×日野昌暢「関係人口2021 〜今こそ関係人口を語り尽くす」前編

 

(写真左上から時計回りに 指出一正さん、日野昌暢、田中輝美さん 以下敬称略)

 

 

日野:じゃあちょっと質問いきましょうか。

「最新号の表紙の『暮らしが買えると思うなよ!』はいまだ都市部に住む身として正直一見ドキッとしました。でも多分、この言葉にはいろいろ込められていると思うんですが、その辺をお聞きできますか」ということで、『中国山地』の話も交えながら、後半やっていければと思います。

田中:『みんなでつくる中国山地』はキーワードとして創刊号が地元、第二号は暮らしを考えて行ったんですけど、これから私たちがどんな暮らしをしていくかを考えたときに、消費するだけじゃなくて少しでも作るとか作る人たちを応援する、そういう作り手が大事にされる社会がこれから続くんじゃないかと私もみんなも思ってて。
でも「つくる暮らし」って書いた途端にあんまり手に取ってもらえないような気がして、当たり前すぎるっていうかね。じゃあそれをどう表現するか、誰の何のための第二号なのかみたいなことを延々議論して、ポロッと「暮らしが買えると思うなってことですよね」みたいなのが出てきて、それだよそれ! みたいな感じで盛り上がってつけたんですけど。
でもやっぱりすごく最後まで議論があって。買うという行為も大事だから否定したくないっていうのもあり、それで前後に言い訳というか丁寧に説明する文章をつけて「自戒も込めて」と書いたんですけど、都市に対してという意味じゃなくて自分たちも安易に買ったり消費したりっていうことがあったんじゃないか。最後決め手になったのは、これは中国山地にある出版社だから言えるんじゃないかってことですね。
ここ“でも”できるものづくりと、ここ“だから”できるものづくりと両方あるのかなと、今地域を見るときに。私たちは中国山地“だから”できるものを作りたいと思ってて、“でも”できるというよりは“だから”できる。実際やってる人もヒントもたくさんあるのでそこはもう思い切って私たち“だから”できることを言おうっていうことで踏み込んで大激論しましたね。どう受け取られるかすごい心配でしたが、特に商売やってる方からすごく共感すると言われました。

 

 

日野:今ね、行き過ぎた資本主義これでいいのかの雰囲気みたいなものもありますし、Z世代の方々の大量生産大量消費に対する嫌悪感みたいなことだとか、生き方、暮らしの作り方の議論はいろんなところで巻き起こってる。指出さんいかがでしょうか。

指出:『中国山地』全部読ませていただいて、良かったです、非常に。どうしても行政の区分、何々県とか何々市とかで地域を捉えがちなんですけど、これは中国山地という柔らかい区分じゃないですか。僕は登山とか釣りが好きなので、山陽とか山脈とか流域みたいなことのほうが実は生き物として自然なんじゃないかなと思うわけですよ。だから、中国山地という括りの中ではお互いのコミュニケーションみたいなものが、行政区分よりは滑らかにいくんじゃないかなっていうのを、『みんなでつくる中国山地』っていう編集部が生まれたのも非常に必然的だったなと思って、めちゃめちゃ応援してるっていうか、大ファンです。

日野:『中国山地』をやって気づいたことを話していただけますか。

田中:今、情報が県境で分断されていて、県境を超えると隣町のことでもまったく知らない状況が生まれていて。書き手の人が地域で面白い情報持ってきてくれるときに大体いうのが、「うちの県でめっちゃ有名人ですけどいいですか」って。ですけど、ひと山超えたら知らないし、それすごい面白いからもう書いてよっていって。これだけ分断されてるんだっていうのをすごく感じます。

広島から言うと山の奥の問題だし、岡山から見てもそうだし島根の日本海側から見てもそうだし、なんかそう常に都市から見ての中山間地域問題、奥地問題みたいな感じになってるんですけど、同じ風土とか歴史とか文化を持っていて、同じ課題とソリューションを持ってるんで、すぐ応用できるんですよね。そこを悩んでるならこうやったらいいよっていうのは、都市の人よりもぐっと分かってもらえる。

逆に中国山地に暮らす私たちの視点で新たにエリアを設定してやってみたことで仲間が見つかったと喜ぶ人もたくさんいて、県境による分断が浮かび上がったところはありましたね

日野:なるほど。何人ぐらいで作ってるんですか。

田中:狼煙号は6人ぐらいで作って大変だったんですけど、今書き手だけでも40人ぐらい参加してくれてて、全員で50人ぐらいいるんじゃないかなと思います。

 

流域関係人口は、新しい関係人口

日野:僕も九州というテリトリーで『Qualities』をやっていて、そこに行政は全く絡めてないのは、九州という広域エリアを一つの価値にしようということもあって。東京に居るけど九州に関わりたいっていう人たちが、自分が九州に戻るとどういう生き方ができるか分からないけど、そういうふうにできたらいいなというイメージを持つきっかけになったり、いろいろまぜ合わせるためのツールとしてうまく機能していくといいなあと思ってて、その手ごたえは感じてます。
九州でだと筑後川が大分県とか福岡県を流れてるんですけど、山で木を作り、山から降ろしてきて木材にして流通させる日田みたいな産地の町があって、その下流に家具を作る大川という町があってとかで、県域は関係なく、お互いに作用をし合って出来上がっていたみたいな歴史や構造は、仲間になれる素地があるんじゃないか。指出さんの流域経済圏、流域関係人口はとても興味深いし、どういうふうになってるのかなとお聞きしたいなと思ったんですけども。

指出:ありがとうございます。地域の中で、あんまり区分にとらわれない形でのコミュニケーションみたいなものの方が本当はいいんだろうなと思ってる中で、2012年ぐらいから山形県の最上川のエリアの若い皆さんにお会いする機会を得て、一緒にこの10年間くらい取材に伺うこともあったりプロジェクト一緒にさせて頂くこともあり、それを見ていると流域関係人口というのは、新しい関係人口の一つだったと思ったんですよね。

そもそも川がゴシップを上流に下流に渡していた時代があるわけですよね。あの人がどうだとか何とかだみたいな。情報だけじゃなくて物資や技術も川沿いに来ていたっていうことを考えると、日本ってものすごい量の流域があるんですね。世界でも有数なぐらい川があるっていう国なので、流域上でコミュニケーション再構を考えるのがいいのではないかなと。

例えば、最上川は置賜盆地っていう山形の南部に端を発して始まるんですけど、置賜のエリアで実はまちまちにコミュニティがあって、それぞれがローカルプレイヤー、ローカルヒロインとかローカルヒーローみたいな方々がいて、お互いに何かあるときには自分たちの個性を大事にしながらも一緒に何かをやるみたいな。
北部の最上エリアでは、新庄市とか鮭川村とか真室川とか、それぞれにそれぞれの町のことを理解した若い人たちがイベントをやったりリトルプレスを作ったりとか、農業で新しいイノベーションを起こしたりとかやっていながら、全体がまとまるのではなくて、お互いが何かあるときには合流するっていう共同の形を流域でやっていて。

で、これは流域関係人口だ、みたいな話をしたら、まず筑後川の方がものすごく同意してくれたんですよね。もう筑後川はまさにそうですよって。例えば、江の川もそうだと思うし、吉野川もそうだし、九頭竜川もそうだし、長良川もそうだし。それぞれのところに実はかっこいいプレイヤーが領域にいて。さっき輝美さんが言語化していただいて、僕はワクワクしたんですけど、隣の町の情報が入ってこないって非常にデメリットになってるじゃないですか。『ソトコト』を通してなんて、何とも皮肉なわけですよ。なんでわざわざ『ソトコト』を通して隣町のことを知らなきゃいけない。編集長でありながら僕もそう思うわけですよ。

流域とか山域みたいなところでコミュニティが作られていれば、エコーのように、もっと増幅する形で街の濃度があげられるし、その地域の良さの濃度があげられるってのは、中国山地を読みながら、これが一つの答えなのか、一つの流れなのかなと思いました

僕は流域で地域を見るっていうのが好きなのでやっていますけど、たぶん手法は同じだと思います、輝美さんと日野さんと。

 

 


日野:なんか愛でる気持ちっていうんですかね。川が流れてたらみんなその川が現風景になっていて、隣の町のものであっても自分たちとの共有資産であると感じることができたときに、その共有資産と感じられるものの種類が多いほど、新しい価値の作り方が多様に出来ていくことになると思って、その輪の広がりを九州で見たいなって思っているんですよね。

田中:広島市内の人に説明するときに「広島の街は中国山地の砂が溜まってできている、たたらの鉄穴流し(かんなながし)でできてますから、一緒ですよ、仲間ですよ」みたいな話もするんですけど、中国山地みたいなエリアの設定と同じように、流域の設定というのもすごく文化の共通性があって、都市と地方の役割が違うけどそこの役割を川でつないでいるっていうのが面白い考え方だなあと。中国山地も山地だけの話と思われがちなんで、流域でもつながりを広げていきたいなと思っているところです。

日野:そうですね。広域にすることによって、実は自治体絡めづらくなるっていうか。民間主体で続けていくためには事業性を考えなきゃいけないし、稼がないと続けていけないんで。資産の再編集しながら、稼ぎ方を発明して価値を再定義していけると理想形ですけどね。メディアってそんな儲かんないじゃないですか。輝美さん赤字が黒字かで言うと黒字ではあるんですか、中国山地。

田中:うーんと、とんとんとんっていうか。

日野:『Qualities』もとんとんなんですよ。パートナーがすごく頑張ってくれていて。でも、とんとんにできてるの結構すごくないですか。ローカルメディアをとんとんにしている時点で褒めてほしいなあ。

 

その場所に根付くローカルメディアが生まれ始めている

日野:ローカルメディアは地方創生ブームのとき、2015年くらにいっぱい立ち上がったけど、5年ぐらい経って続けていけなくなって閉じるところがバーっと見え始めたのが、2、3年前ぐらい。やっぱり厳しいのかと思いながら、本当にローカルってウェブメディア存在出来ないのとか、新聞社がどんどん厳しくなっていく中で誰が地域の情報を紡いでいくのみたいなことに関して、僕はのりかかった船だから、なんとか成立させたいと思ってやっているので、紙とウェブの違いはあるけれども『中国山地』は仲間だと思っています。

田中:ありがとうございます。指出さんにもぜひメディア運営の面白さと厳しさについて伺ってみたいです。

指出:いやもう、つらいことばかりですよね。夜中の2時に脂汗をかきながら目覚める日々みたいなのがここ3年間くらい自分が経営者になってから感じています。僕は大学生の時から紙メディアをやっていたんで、紙というのが自分の中のデフォルトになりがちなんですけど、紙が載せられるものとウェブが載せられるものは求められているものも違う場合も多かったりするから、そこで何かできないかなと思っています。
かっこいいなとか気分がワクワクするものは紙媒体が届きやすかったりするから、『中国山地』のドキッとする言葉も入れてやっている方法は非常にかっこいいやり方だなーって思っています。
『Qualities』とか、ローカルの力強い骨太のメディアは、結構ウェブメディアとしてはこれから残っていくんじゃないかな。一回わっと出てちょっと大人しくなってるけど、また今新しくローカルメディアって育ってたりするんですよ。例えば『喫茶ランドリー』の田中元子さんや大西さんと、『HAGISO(ハギソウ)』の宮崎さんたちが、これから新しいローカルメディアを作ろうとしてるんですよね。かなり本気の形でその場所に根付くものが生まれ始めていると感じています。

だから、ローカルメディアのテーマがふわっとしたものが好まれているときは淘汰されがちなんですけど、伝えたいものがはっきりしている編集人、編集ディレクターとかがやるものはぶれてないから生き残るし、ちゃんと増幅していくんじゃないですかね

日野:地方創生でお金をたくさん全国にばらまいて何が起こったかに関しては、厳しい見方をしなきゃいけないのは、『関係人口の社会学』の中でも書いてあったと思うんですけど。一方であれがあったからこそ起きたチャレンジの中からわずかではあるけど、生き残ってきているものとか育っているものは確実に存在しているし、10年単位で見ていかないと本当に骨太なものってできていかないから、そこをバックアップするような動きを自分としてもやっていきたいですし、楽しみだなと思うところもすごいありますね。

指出:輝美さんは百冊続けるとおっしゃられましたけど、日野さんの目標はどんな感じですか。

日野:そうですね。粛々と九州の面白い人たちをお届けし続けるということと、それが新しいコミュニティになっていくということ。で、生まれたコミュニティから事業が生まれて、ちゃんと稼ぎを生み出して地域内経済というものを作っていくということですかね。

『Qualities』のビジネスモデルは人材マッチングに置いてるんですけども、『Qualities Offer』っていう姉妹サイトがあって、そこにはスポンサーになっていただいている会社さんの紹介、いわゆるタイアップ記事みたいなものと求人情報が載っているんですよね。移住したいとかUターンしたい人がいっぱいいるんだけど情報がない。だからちゃんとした情報を置いてマッチングするという機能を置いて、『Qualities』と『Qualities Offer』を見て、「よし、じゃあ九州に戻ろう」と思って帰ってきてくれる人数が増えるみたいなことが起こせたらいいなと。まだまだ道半ばなんで、それがある程度のボリュームになっていくっていうことを目指したいなと思っています。

田中:実は中国山地も求人情報載せてくれって言われるんですよ。やっぱりキラーコンテンツが大事なんだなと思うし、『ソトコト』も『イタ』っていう求人サイトやっておられますよね。

指出:そうです、そうです、はい。『イタ』作りました。今『イタ』をバージョンアップさせていて来年にはオープンすると思うんですけども、今おっしゃられたような地域のニーズに合わせた形でやっていこうと思ってますね。『イタ』は、やっぱり依頼があるんですよ、いろんな場所から。わりとぶっきらぼうな感じで作ったんですけど。あんまり地域の情報とかないんですよ。コピーだけで来てもらうみたいなやつでやったんですが、100人の応募はないんだけども、ぴったりの人が3人ぐらい応募してきてくれて助かるみたいなことをいってくれると嬉しいですよね。それでいいじゃんみたいな。

田中:やっぱりそこだなあ、次のローカルメディアは。次は求人情報のせよー(笑)。中国山地も。

指出:絶対いいと思いますよ。お互いにめちゃめちゃハッピーだと思います。あれは元々高知の「ほっと平山」という学校を宿泊施設に変えた場所があって、そこで「半日でいいから草刈に来てくれる人がいるだけでめちゃめちゃ助かるんですよね」みたいなことを聞いて、それは関係人口的だなと思ったんですよ。半日だったら地域の仲間になれる、それが楽しい、それをすごく認めてくれる地域が各地にあるのであれば、半日のマッチングをやればいいんじゃないかなと思ったんですよ。それが元々の『イタ』の始まりです。だから非常に短い時間とか、マッチングの仕組みを使う割には半日で関係性が終わるかもしれないんですけど、でもその後は自分たちで関係性を作ればいいからって言う感じです

田中:それに比べて『Qualities』のガチさ加減もまた凄いですけどね。

指出:そう、でもそれがまたいいんです、かっこいい。

 

(サイト『イタ』より)

 

大事なのはどんな地域を作りたいか

日野:質問がきてます。「関係人口という言葉は、とはいえまだまだ一般化していない印象です。より裾野を広げるために今何が課題とお考えでしょうか?」。僕らこの辺にずっと関わっているから関係人口と言ってますけど、聞いたことないですっていう人の方がまだまだ多いですよね。裾野を広げるための課題という事ですが、いかがでしょうか。

指出:僕は、関係人口という言葉を使わないで、地域に関わる人を増やすためにはどうしたらいいのかなあっていうときに、二つの方法を意識していまして。

一つはペットボトルからマイボトルになったような自然な感じで、消費だけじゃなくて関係みたいなものがかっこいいよと思う社会をどうつくるかですよね

公共のサービスが、公共の時代じゃなくなる可能性もあったりするので、自分が地域や社会にどう関われるか、関わること自体が非常に面白いんだろうなとかおしゃれだろうなとか楽しいなってふうに思うような社会基盤をどうみんなで作っていったらいいのかなというところですかね。
で、そうすると地域に関わる人があちこちに増えていて、かっこいいっていう社会認識になっていくと。自分もやってみようかなとか知らず知らずのうちになるだろうなっていうのがあります。

もう一つは、もうすでに関係人口になるかもしれない人は、地域に大勢きてるんですよね。例えば、マウンテンバイク乗ってる人とかトライアスロンが好きな人とかフライフィッシャーとかいっぱいいるんですけど、地域と関わるっていう概念が全然ないままローカルにいって、ローカルから家に帰るを繰り返している。地域で起きていることに触れないまま、すれ違うわけです。その場所で社会課題に向き合っている同世代と出会えてない。この出会えていないものをどう出会わせるかできたら、大勢の人が地域に足を運んでいる土曜、日曜に関係人口的な人達が増えていく可能性があるなとか思ってます。
マインドトレイルの芸術祭はアートが大好きなみんなが紀伊山地に現れて、そこで地域の良さとかアート作品を堪能するというのが第一のステップなんですけど、あの芸術祭は日本の中では、非常に珍しい出自なんです。奈良県庁の文化振興局とかアートに関わる部署じゃなくて、移住交流の推進室が中心となって主催をしているんですよね。だから、観光でアートを見に来る人達を増やしたいのではなくて、地鳴りのような足音で、紀伊山地に関わる人を増やしたいというところからきているので、次のステップとして僕がスナックをやった理由は、アートプロジェクトの一角として、おしゃれなスナックに足を運んだら地元の林業組合の組合長が隣でお酒を飲んでた。何なら明日俺のあの森行ってみるかみたいなところから、関係性が始まったらいいなと思ってそれをやり出したんですよね。
だからそこに居る人とそこに暮らしている人をどうくっつけるか、ぶっつけるか、関わらせるか、斜めの出会いをぶつけるかみたいなことは、各地でやれるんじゃないかなと思いました

日野:輝美さんどうですか。

田中:あえて違う観点でいくと、一つはまあ焦らなくていいってことですね。中国山地が100年掲げているんですけど、そんな一つの言葉が広がったり定着していくのって無理してあんまりいいこともないし、焦んなくていいっていうのが大前提で。

例えば私が取材してるような島根県の邑南町では、「INAKAイルミ」っていうイルミネーションイベントに地元の人と外から来る人が一緒に作業するんですよね。外から来る人は自分で設置した明かりが灯ったのを喜んで、また一緒に片付けて帰っていく。そういう人たちのことを関係人口という名前で呼んでいるのだと知らない人ももちろんいるんですよ。
だけど、そういう人たちのことが大事だってことはわかってる。すごい本質的だなって思ったのが、イベントをやるかやらないかってコロナで揺れたときに、地元の人が「自分らのためでもあるし、やってきて楽しんでくれる人たちのためにもやらなきゃいけない」って言ったんですよ。関係人口という言葉を知ってるとかじゃなくて、外の人とどういういい関係を築いて自分たちの地域づくりに生かすかっていうことがわかってるんですよね。
手段と目的を間違えがちというか、関係人口を増やすことに重きをおいちゃうんですけど、大事なのは関係人口っていう言葉が広がるかどうかということより、「どんな地域作りたいんだっけ」

関係人口に何の意味があるんですかってたまに相談される事があって、ちょっと突き放したように映るかもしれませんが、敢えてそれだったらやらなくていいと思いますよって私は答えてて。切実に求めている地域もあるんですよ、仲間が欲しいという地域にとって関係人口はすごい助かる。でも地域の中で出来るんだったらそんな無理に関係も作んなくていいし、どんな地域作りたいかのいろんなアプローチの一つとして関係人口があるから、関係人口を増やすとか広げるみたいなことをあまり目的化しない方がいいかな。

日野:印象的なのは輝美さんが前、「中国山地では人口の社会増が始まった」と言っていて。過疎がいくところまでいっちゃったから、誰か来てくれたら来てくれただけでありがとう、と。だからバッと受け入れて、ぜひうちの地域でどんどんチャレンジしてくださいっていう受け入れ余地があったから、チャレンジしたい人たちが集まってきて、その人たちがまた周りから人を寄せてくるみたいな、好循環が起こって話がすごい印象的で。
関係人口を作るという目的化よりは、自然と起こっていったものがそれなんだよって思うといいんじゃないかなと思いました

 

地域活性化の前に、まずは自分が活性化

日野:とても答えてあげたい大学生からの質問がきています。「私は地域の商工会の方と地域活性化について取り組んでいるのですが、地域を盛り上げたいという気持ちが強すぎて自分だけ空回りしてしまうのですが、地域活性化するために意識している、大事なことはありますでしょうか」。はい、指出さんいかがでしょうか。

指出:良い質問ですね。
地域活性化の前に、自分が活性化することをやった方がいいですよ。俺これ好きなんだよね、みたいな。僕だったら日本酒をひたすら飲むとかね。その地域で“俺”が活性化するってのは大事です
自分がご機嫌だったら周りのみんなも居心地がいいわけですよ。だから地域を活性化するぞとか地域を盛り上げたいというと、それが好きな人は集まるけど、大体はそこまでの感じではなく、まずは自分が活性化するみたいなことも結構大事だなと思うんですね。好きなことをやることが結果的には、たまたまそれが地域活性化だったみたいな。俺が活性化したら地域活性化になったみたいな、そんなのが良いと思います。

 

 

日野:そうですね。だからやっぱり自分が好きなことをやっていたら、すごく楽しくて、楽しくて周りの人たちが一緒にやりたがるみたいなことが、結局のところそれが活性になるみたいなのは本当に僕もそうだなと思います。輝美さんどうでしょうかね。

田中:(中国)山地の活動も有志の活動だから、関わりしろは悩むんです。無理してもらったら続かないし、その人の喜びとか楽しみがどこにあるのかなーっていうことは私なりにじっと見て、で、この人もしかしてこれが楽しいんじゃないか、これが好きなんじゃないか、ってところを声を掛けてみて、一緒にやってもらうってことをやってて。楽しそうなことをしてる人って本当に楽しそうだから、こっちも楽しいし相手も楽しいし。そうやって楽しいの連鎖をつくっていくと、楽しいものになっていくし。
「地域活性化がしたいです」と言っている人もよく見かけますが、その「地域」に、実は自分が含まれてないんじゃないのっていうのは最近言われてる問題で、眉間にしわ寄せて何とかすべきではないかっていう人のところに集まるかってそんなこともないし、地域づくりっていうのも結構難しく考えられがちなんですけど、その人自身がきちんとその地域に足つけて楽しく暮らしていること自体がもうほぼ地域づくりだから、それ地域活性化だし地域貢献だし
まず自分自身が楽しく健やか暮らす。その集合体が地域。地域っていうのは、ある意味、虚構なんじゃないかなと。人の集合体が地域なので、まず自分楽しい、みんな楽しい結果として地域楽しいっていうことをね、楽しくやりましょう。

日野:次の質問。「地域に関わるきっかけづくりで大切に思われていることがあればぜひ教えてください」と。指出さんいかがでしょうか、きっかけづくり。

指出:はい、僕はですね。二つあって、一つは初めて伺うところでは、自分の名前を言った後に、とにかくめちゃめちゃ楽しみに伺いましたっていうのを心から表しますね。
で、もう一つは、文脈ではないところでつながることは大事ですね。僕の場合はとにかくイワナ釣りばっかりやっているので、源流域の首長の皆さんは早くつながるんですよ。「うちの村に大きいイワナいるからおいでよ」みたいな話になるんで(笑)。そういう、元々の本筋ではないところで、日常の中でその地域の皆さんとの共通項があったりすると、お話は結構進みやすいかなーっていうのは感じてます。僕は釣りに救われたり山登りしてて良かったなというとこですよね。20年ぐらい前からその場所に、無関係人口ですけど通ってたりすると、「あっ来てたんだ」みたいな感じになったりして、それで結構打ち解けたりするところもあるので、皆さんの好きなことはどっか絶対役に立ちますから。好きなことをちゃんともっていることは絶対大事だと思います。

日野:ありがとうございます。僕は、地域の人たちの思いに触れるのが好きなんですよ。だから俺がこういうことやりたいっていうことじゃなくて、地域の人たちがやりたいことを聞いてなんかめちゃくちゃいいですねって思ったら、もうそれを口に出してそれ一緒にやりましょうよっていうふうにいうっていうのが多いかもしれないですね。
長年自分たちの地域をなんとか盛り上げたいと思ってる人たちが考えていることって、すでに面白かったりするんですよね。だからそれを聞いて、じゃあそれどうやったら一緒にやれるか一緒に考えましょうっていう。僕は広告会社でのいろんな経験を持ってるんで、どうしたらできるかを考えるのが得意だからそういう手法なんですけど。でもさっきの指出さんにも近いですけど、やっぱ楽しく話すということがめちゃくちゃ大事ですね、うん。

田中:答えになるか分からないんですけど、私、移住者の人と地域の人たちに「言われたら一番嫌な言葉」アンケートってやったことがあって、取材の中で。で、移住者側での断トツナンバーワンは、「骨を埋める覚悟があるのか」。逆に地域の人に移住者とか外の人に言われて何が嫌かっていうのを聞いたときのナンバーワン、「それっておかしくないですか」。
なんでこんなことできないの? みたいなことも、関わっているとたくさん感じると思うんですけど、それなりに地域のいろんな歴史と経緯と積み重ねがあってそうなってるみたいなのがあって、誰かがパッとアドバイスするようなことって地域では30年前に考えられてたり、分かってるけどできなかったみたいな、いろんな地域のすごい複雑なものがあるんですよね。それを十把一絡に「それっておかしくないですか」っていうのは、リスペクトに欠ける。リスペクトするっていうのはすごいお互い大事なんじゃないかなって思ってて。
最近、関係人口界隈でも、すごいアドバイスしたがるみたいな、上下関係になっちゃうみたいに聞くことがあって、そのときに「コーチじゃなくて、一緒に汗かくっていう仲間が欲しいんだ」と言っていて。リスペクトを忘れずに、もちろんこっちが提供できることもある、向こうから学ぶこともあるみたいな、指出さんに最初に感じた姿勢みたいな、お互い様みたいな。それは人間関係の基本ですよね。そこがあるといいなあって思ってます。

日野:うん、その地域ずっと暮らしてきて、何かそこでやっていこうということを続けられた方々をまずリスペクトするって本当に大事だなと思いますね。

田中:今、チャットで地域の価値観を翻訳する役割の方も大事だと思いますってきてます。本当その通りで、うまくいっている地域とうまくいってない地域の違いのひとつはやっぱりそういう翻訳する人がいるかどうかですね。お互い知らないだけで不幸がいっぱい起こるし、もうちょっとこの人に挨拶が必要とか、ゴミ出しちゃんとしようねみたいなところとか、逆にあの若者も実は頑張ってるんでみたいな地域の翻訳者があるかどうかっていうのは、すごく違うのでいつもこれ最後に言ってるんですけど、そんな人がいたらいいなあって思ったら、ぜひあなたがなってくださいって。あなたが地域の翻訳者になってくれたら、どんどんまたいい地域になるかなと思うし、ずっと指出さん日野さんも言ってくれてたみたいに、自分が楽しければ地域も楽しくなるぞと思って、一緒に楽しい地域づくりができたらと思います。

日野:最後に指出さんから一言いただけますか。

指出:はい、今日はあの輝美さんと日野さんとこうやってお話しができて、大変に幸せでした。輝美さんと日野さんはこの二人が地域に来たらすごく楽しそうだなとか楽しいだろうなっていう風に思わせてくれる空気をまとっているんですよね。で、誰もが自分の空気をまとえると思うんです。この人と一緒だったら楽しいだろうな、みたいな空気がまとえると、地域に入ってきて面白いとか、みんなも楽しいと思ってくれるんじゃないかなっていうのが、二人といつも話をしてて感じるところです。今日は、あの僕がお二人と関係人口の話をさせていただけるみたいなことがあったので、色々とドキッとするトリッキーな返答もしましたけれども、全部意識的でしたので、ご容赦ください。お二人と、またみなさんとご一緒できたことも、嬉しいです、ありがとうございました。

日野:やあ、やられた(笑)! しかし、時間いっぱいです。焦ってぐっと詰め込んじゃいましたけども、本当にいいお話ができたかなと思います。ありがとうございました。

田中、指出:ありがとうございました。

 

日野昌暢
1975年福岡県福岡市生まれ。2000年 九州芸術工科大学 芸術工学府 生活環境専攻修了。同年4月に博報堂入社。14年間の営業職を経て2014年よりケトルに加入。

「預かったご予算を着実な効果にしてお戻しする」という強い想いとともに、何が社会を良くするのか?を考えるデザイン発想で、事業企画や商品開発から、PR、プロモーション、マスメディアでの広告などまで、幅広い経験を活かした統合プロデュースを手がける。

また「本質的な地域活性」をマイテーマに、“外から目線”で地域資産を再編集し、地域のプレイヤーの“関わりしろ”を作りながら、事業、プロジェクト、プロダクトを共創し、開発して、情報発信を行っていくことを得意とする通称”ローカルおじさん”。

2020年には九州を取材テリトリーにしたローカル発Webメディア Qualities(クオリティーズ)を企画プロデュースし、創刊編集長。観光庁や文化庁の採択事業者へのコーチングなども多数行っている。

主な受賞歴に、2度のACC TOKYO CREATIVE AWARD グランプリ(2018,2022)、グッドデザイン賞BEST100(2022)、Spikes Asia ゴールド(2019)、カンヌライオンズ ブロンズ(2013,2019)、ADFEST ゴールド(2019)など。
  • SHARE THIS PAGE