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連載 : ”ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負

2022/06/08

“ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負 番外編 指出一正×田中輝美×日野昌暢 「関係人口2021 〜今こそ関係人口を語り尽くす」 『関係人口の社会学』(大阪大学出版会)&『みんなでつくる中国山地2021 第2号』(中国山地編集舎)W刊行記念 前編

日野昌暢

関係人口を社会学の見地から定義し、その役割を論じた本邦初の「関係人口の研究書」であるローカルジャーナリスト田中輝美さんの『関係人口の社会学』と、同じく田中さんが手掛ける「暮らしが買えると思うなよ!」という挑戦的なキャッチコピーがつけられた『みんなでつくろう中国山地2021 第2号』。
「関係人口」が国の地方創生のキーワードとなっている今。このW刊行を記念し、田中さんと関係人口っていう言葉の提唱者の一人でもある『ソトコト』編集長の指出一正さんをゲストにお迎えし、拡張し続ける「関係人口」の最前線、そして課題についてたっぷりと語っていただきます。

 

(写真左上から時計回りに 指出一正さん、日野昌暢、田中輝美さん 以下敬称略)

 


指出一正(さしで・かずまさ)
ソトコト』編集長。1969年群馬県生まれ。官公庁や自治体の委員、メディアの監修等を多数務める。奈良県「SUSTANABLE DESIGN SCHOOL」メイン講師。内閣官房「水循環の推進に関する有識者会議」委員。2025年大阪・関西万博日本館クリエイター。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。趣味はフライフィッシング。

田中輝美(たなか・てるみ)
ローカルジャーナリスト。島根県浜田市出身・在住。山陰中央新報記者を経て、2014年独立。フリーランスのローカルジャーナリストとして、島根を拠点に地域のニュースを記録している。著書に『関係人口をつくる』(木楽舎)『関係人口の社会学』(大阪大学出版会)など。100年発行をすることを掲げた新しいかたちの年間誌『みんなでつくる中国山地』を2020年、仲間と創刊した。博士(人間科学)。

日野昌暢(ひの・まさのぶ)
博報堂ケトル チーフプロデューサー、ローカル発Webメディア『Qualities』編集長。1975年福岡県生まれ。2000年博報堂入社。2014年よりケトル加入。「預かったご予算を着実な効果にしてお戻しする」という強い想いとともに、商品開発、店頭プロモーションから、PR、マスメディアにわたる幅広い経験を活かした統合プロデュースを手がける。支社勤務経験もあるため、ローカルプロモーションを得意とする通称“ローカルおじさん”。


日野:今日は、第一人者二人をお迎えして、地方創生のキーワードとなった関係人口がこれからどうなっていくのか、関係人口という言葉の周りの課題を、ざっくばらんにお話していければと思います。博報堂ケトルという会社でプロデューサーをやっている日野と申します。
僕も関係人口に関わっているので少しだけ紹介させてください。出身の九州を取材テリトリーにした『Qualities』というウェブメディアをやっています。指出さんの故郷でもある群馬県高崎市で「絶メシリスト」という企画のプロデュースもやっていました。広島で観光の仕事もやっていて、広島を世界一おいしく牡蠣が食べられる街にしたい! というプロジェクト「牡蠣食う研」に携わったり、人口あたりのスナックの数が一番多いと言われている宮崎では、スナックのプロデュースなんかもしています。プライベートでは、首都圏在住の福岡好きのコミュニティ「リトルフクオカ」というのもやっています。よろしくお願いいたします。
私自身も、関係人口という概念に当てはまる一人なわけですが、この「関係人口」が、国の中でどう扱われているのか、様々な地域の現場でどうなっているのか、指出さんや輝美さんにお話をお伺いしていければと思います。まずは自己紹介をお願いします。

もう流域関係人口しかない

指出:はい。完全に宣伝です。今、関係人口に関するプロジェクトを本当にたくさんやらせていただいています。これから始まるのでは、万博未来編集部というのを作ります。大阪や奈良二府四県の編集長をお招きして、クリエイターの皆さんと若い人で地域の未来を編集するレッスンをするので、ぜひあの興味ある方は参加してください。
それから、流域関係人口というのに非常に興味を持っています。もう流域しかないだろうなと思ってるんですよね。高知市の流域を編集するということで、「エディットKAGAMIGAWA」っていうオンライン型の関係人口を作る講座をやっていて、高知市の鏡川に関わる関係人口の募集をしているので、ぜひ受けていただけるとうれしいです。ゆくゆくは防災とか共助につながるような形で川をテーマに、これからやっていきますということですかね。
あと、スナックのマスターをやっていて、奈良県に三店舗オープンしました。これはプロジェクトで、スナックの看板が吉野町の役場に保管されています。例えば、天川村だったら天川村の役場で、貸出カードで図書館の本を借りるようにスナックの看板を誰もが借りることができます。みんながママとかマスターとかで主体的に関わるような仕組みとして、スナックをオープンさせました。常時僕がいるわけではなく、このスナックを地元の人や地域に関わりたい人たちが自由に使えるようなコミュニティスナックをやってます。「奈良 奥大和MIND TRAIL」で検索していただくと、これ出てきます。

 

 

 

日野:そしたら主役の輝美さん、お願いします。

田中:改めまして、田中輝美です。日野さんと指出さんのお話を聞いて、地域発のメディアの話だったり、スナックだったり、共通項がいっぱい見つかったと思っています。
「地域に暮らすからこそ伝えられることがある」をテーマに地方に住みながら活動しています。ローカルジャーナリストという名前を初めてお聞きになった方もおられるかなと思いますが、それもそのはずで、山陰中央新報という地元新聞社から独立するときに自分で作りました。母校で関係人口の研究をして博士をとり、この春に地元浜田市にある島根県立大学地域政策学部に着任しました。
関係人口という言葉自体は、現場ではもう少し前からあったと思うんですけど、文献上確認できるのが2016年で、指出さんの『僕らは地方に幸せを見つける』と、高橋博之さんの『都市と地方をかきまぜる』、この二つの本の中で関係人口が言及されています。
すごく面白い概念だなと可能性を感じて、2017年に『関係人口をつくる』という本を書いたのが初めです。このときはまだ関係人口って言葉自体が本当に世の中にもまだ出てなくて、私としてももっと知りたいって思って書きました。指出さんも関わっておられる「しまコトアカデミー」という実践を通しての関係人口が作られていく、生まれていく様子を書いています。
これを書いた後に、もっとちゃんと勉強して学術的にも書きたい思いが高まり、大学院に進学して博士論文として書いたのが『関係人口の社会学』です。現場から生まれた言葉ということもあり、学術的な定義が定まってないことだったり、言葉が一時期ブームみたいになり各地で使われたのは良かったところもあるんですけど、どんな役割なのかが見えにくく、過度な期待とか混乱とかもあったので、その辺を整理したいというのもあり、地域再生にどんな役割を果たすのかと、学術的な定義、この二つを研究して書いたのがこの本になります。

 

 

もう一つの『みんなでつくる中国山地』は、出版社自体私たち仲間で立ち上げて作った年刊誌です。2020年に創刊号、2021年に「暮らしが買えると思うなよ!」って結構刺激的なキャッチコピーをつけたりして、年に1冊続けています。
100年というのは、今だけとか自分だけとかいう視点を超えて考え直す必要があるんじゃないかなということや、みんなで地域をつくっていくときに焦らないっていうことを言いたいというか。60年かけて過疎の地域が疲弊してきて、すぐ移住者を入れて戻したいみたいな焦りもあるかもしれないんですけど、焦らずに一歩一歩自分たちでできることをやっていこう、100年ぐらいの視座を持って行きたいねっていうことで 、100年。
あとでもまあ結局は、面白そうじゃん100年やるって掲げるのってみたいな、それぐらいの感じでやっています(笑)。「みんなでつくる」は書き手がたくさんいるのが一番の魅力で、私自身のワクワクとか面白いだけじゃなくて、地域のプレイヤーの方それぞれの地域で感じているワクワクとか面白さを書いてもらうっていうのをすごく大事にしてやっています。

 

関係人口は都市の生きづらさの課題解決として始まった

日野:輝美さんと3年半前ぐらいにイベントをやらせていただいたときに、「関係人口はまだ少し曖昧な部分があるんですよ」とおっしゃってたのをすごい覚えてます。

その後、総務省とかがいわゆる地方創生の政策の中で関係人口という言葉を正式に使うようになってきたというのが大きな転機としてあって。うれしかった半面、やっぱりブームみたいになっちゃうと消費されてしまったりだとか、意味が違う使い方をされ始めたりとか、悩みと喜びとかいろいろあったと思うんですけど、そのあたり指出さん、輝美さんなにか思うことはありますでしょうか。

指出:僕は、輝美さんと日野さんとは、異なる立ち位置で関係人口を見てるんだと思うんですね。
上智大学でご一緒した時に、(哲学者)内山節先生が「言葉は生まれないほうがいい場合もある」と言われていたのはすごく勉強になったんですよね。曖昧なものを曖昧なまま残しておくことは、実は結構大事だなということを意識しているところなんですよ。
そう考えると、関係人口を学術的な研究のために定義づけすぎると、そこから外れた人たちが救われないなあっていうのが僕の考えです

あともう一個はさっき日野さんがブームで終わらせたくないっていうふうに言われましたけれど、そもそもやっぱりブームを作る産業やそういう仕事や会社があるという時点でブームは毎回作られていくわけですよ。それを大事にするってどういうことなのかというときに、育てることだと思うんですね
関係人口っていう言葉を国が認めてくれて、いろんなところで関係人口の考え方が広まっていったっていうのは大事なことですけど、あんまり「関係人口ってここまでがそうだよね」みたいなことで、見えないところを無理矢理こじ開けて見せてしまうみたいなことは、言葉は育たないからあんまり好きじゃないなというのが実際のところです。

日野:ありがとうございます。輝美さんはどうですか。

田中:特に高橋さんかな、最初に言われたときは都市の生きづらさの課題解決としての関係人口みたいな側面が強くて、地方と関わることは新しい選択肢、生きづらさの解消につながるところから始まったというのがある。地方に暮らす立場として見たときに、島根のように人が減ってくると地域に住む人だけで全部をやるのは限界があるし難しい。だから外の人たちとどう付き合うのかがテーマになるとずっと思っていました。
国の政策に取り入れられたこともあり、どっちかというと地方創生のツールみたいな位置づけが強くなってしまい、今では講演で都市の課題解決の意味もあるんだということを話すと驚かれたりします。学術的に話すときの共通言語を作りたいなあって思いもあって定義に取り組んだんですが、指出さんもおっしゃるみたいに、定義論争は不毛だなといつも思ってて。
地方創生のツールとして前面に押し出されているよりも、都市の側と地域の側の両方の視点がもう少し入ってくるといいなあっていう。両方がハッピーでウィンウィンが大事だよねということは思ったりしていますね

日野:確実に僕的に言えるのは、輝美さんの本の冒頭で初めてこのコンセプト概念を聞いたときにとてもワクワクしたと書いてあったと思うんですよね。僕も3年前、地方のことを取り組みたいなあと思っているときに、なかなかよそ者として入って行くことに気後れがあって。でも、関係人口の本を読んで、すごく救われたなと。ブームはブームかもしれないけど、変な方向で消費をされるみたいなことになるのは、そうじゃない方がいいし、輝美さんも同じような気持ちを持っていて本にまとめられたのかなと読んでいます。

田中:読んだ方からも、自分もこういうふうに関わっていいんだとわかったと言われることが多かったので、少しでも救われる人がいるんだったらうれしいです。言葉が消費されていくところもあるので、実践も含めて大事に育てていきたいなと思っています。

日野:広告会社でも、マーケティング用語とかの流行があるんです。でも、実は、過去に起こってきた一つ一つの作戦を適切なタイミングで使っていくと、どの手法だって効果的だなあと思うんです。関係人口も、概念が言語化されることで、いい意味で一つの思考の選択肢として定着していくといいなと思っています。

 

東京や都市にもローカルは作れる

日野:継続的に特定の地域に関わるよそ者ということで、この継続性は指出さんも輝美さんもこだわっていると思うんですけども。指出さん、日本全国飛び回って関わられてると思うんですけども、この3、4年ぐらいで、外の人と地域の人たちの交わりとか現場はどうなってるのかをお聞きしたいなと。

指出:前提として、僕が飛び回っていません。飛び回ることが嫌なので、自分では使わない言葉です。定点でそれぞれの場所にお伺いして、10年かけてそこのみなさんとプロジェクトをやったりとかしていることの方が多いんですよね。スタンプラリーみたいな付き合い方で飛び回っているわけではないので、そこは誤解されたくないなっては正直なところではあります。
関係するっていうのは、どちらかが一方的に関係する訳ではなく都市と地方が互いに作用することがあるんですよね
それぞれの地域同士が行き来する形のものがオンラインであったり対面であったりで、広がっていることが、大事なんだろうと思います。「しまコトアカデミー」を始め、島根県の皆さんには大変にお世話になり、関係人口は島根が作った言葉だと思うんですよね。
それから、どうしても東京からとか中国山地に関わるとかっていう分かりやすい関係人口の図式ばっかりフューチャーされてきたと思うんですけど、そんなことはないんだろうっていうのが僕の答えというか。
実は地域の方が東京の関係人口になるいうことも起きるわけですよ。東京は東京で世界に打って出なきゃいけない街だから、東京と地方比べている場合じゃないんですよね。ローカルがローカルでやっていることと、東京がやるべきことっていうのは少し違うんで
地域のみんなが東京の関係人口になることも大事で、お互いに滲み合っていくみたいなことが何かしらの是正にもなると思いますね。『食べる通信』の高橋さんの『都市と地方かきまぜる』の「かきまぜる」っていうのは、すごく大事なことだなと思っています。

日野:僕のやっている『Qualities』は九州をテリトリーにしていて、福岡という、外と勝負できる街が九州に存在していて、その福岡をやっぱり利用した方が良いし、逆に佐賀とか長崎とかの豊かな九州の土地っていうのを自分たちの仲間として見て、総合的に関係を合わさっていくといいなと思ってて。東京でも、東京なりの地元愛みたいなものが存在しているんで、そういったものに、ローカルの方々が関わってくるみたいなのに意味があるんで、すごい僕は今いい話をしていただいたなと思いました。輝美さんはどうですか。

田中:地方という言葉が中央と地方みたいな、都市と地方みたいな対置で使われがちなんですけど、私も本当はあんまり使いたくない。
やっぱり全部地域だと思うんですよね。地域という言葉は、中央との対置ではなく、東京とか都市にだって地域、ローカルや地元は作れるし、地方にだって勿論ある
インターネットも含めてバーチャルなつながりも出来るので、地方に来たらいいよっていうことが言いたくてやってるわけじゃないし、二項対立の構造を気をつけないといけないなといつも思っております。

 

移住ではなく、ゆるさが生み出すつながり

日野:さっき少し話に出た「しまコトカデミー」と関係人口のことをお話していただくことができるでしょうか。

指出:「しまコトアカデミー」は、(島根県)しまね暮らし推進課の方々から、2012年にこういう講座を行いたいということで始まった講座です。これは日本の地方創生よりも2年早く始まったものなんですが、島根県に移住するだけではなくて島根に関わる人たちを東京で増やしていきたいと、依頼があったものです。関係人口の初期の講座だといえると思います。今いろんな各地で同様の仕組みの講座が増えていると思うんですけれども、しまコトはオリジナルでしょうね。

田中:しまコトのサイトには、「移住しなくても地域を学びたい!かかわりたい!」って書いてあるんですね。それは当時すごい画期的で。みんなが移住定住ばかり考えているころに、そうじゃなくて、それぞれの人生があるんだから個人のライフステージに寄り添っていこうっていう。
島根は昔から過疎の先進地で、前面に立って対策してきたからこそ、移住は個人の人生から見たときに簡単じゃないのも分かるので、焦らずに環境育んでいこう。仮に移住しなくたって、応援してもらうこともあるし、短期的なところにとらわれずに関係を作っていったり、心地いい場所を作ろうみたいなところもあってできて。

最初関係人口という言葉は彼らも思ってなかったですね。そういう関わりの予備軍のような人たち、もっとゆるい感じで考えていて、時代の方が追いついてきたっていう感じで、離れてて故郷には住んでないけども、何か力になりたいとか、貢献したいとか、そういう思いを抱えていると思うんですよね。
地域の人が減り元気がなくて、困った困ったと悩んでたけど、ちょっと外に出てみたら、住んでないけど関わりたいとか知りたいという人たちがたくさんいて、この人達とつながっていけば何かできるかもしれないし、新しいことが生まれるかもしれない。私もここでリアルな関係人口の人たちを発見していったし、指出さんがゆるい場を作って下さっていて、そこがまた良かったんだと思います。
地方が作る場というのは、移住するのかしないのかみたいな詰め詰めのやっぱり場が多いから、ゆるい感じが良かったなと振り返って思いますね

指出さんは言葉の一つ一つがフラットというんですかね。こちらから提供できるものもあるし島根から学べるものもあるしという姿勢はすごい伝わってきましたね。

 

(サイト『しまコトアカデミー』より)

 

 

 

楽しくご飯を食べる関係を大事にすること

日野:冒頭に指出さんが言った「ぱちっと定義するとそこから漏れちゃう人がでてきてしまう」みたいなこと。曖昧さの許容というか、意図したゆるさみたいなことが間口を広げることにつなげるとか、いろんな可能性を殺さないことにつなげるとか、そのあたりが一つキーワードになるのかなと思ったんですけど、どう考えているんでしょうか指出さん。

指出:とにかく全てを肯定していくことが大事なんじゃないかなと思っていて。編集者って何かこういうものだよねみたいな断定することも大事なんですけど、わりと僕はあんまり決めないで、それもいいよねとかあれもいいよねって全肯定するのは講座の中で大事にしてますね。ゆったりみんなが気持ちよくなるような空気が作れたらいいかなっていうのは意識しているところです。
だから移住も観光ももちろん大事で、どうしても0か100みたいになってしまう世の中なので、真ん中の1から99をどう認めたらいいかっていうことで、関係人口っていうのはその“真ん中”を認める言葉だなと思って使っている部分ありますよね。なんかだいたいの人はその真ん中なんですよね。普通感みたいなのが僕は大事にしてるかもしれませんね。

日野:しまコトアカデミーも2012年からやってるってことは、もう10回とかやってます?

指出:もう10年やってるんですよ。10年やっていて、で途中から関西講座や広島講座や島根講座が開かれていたので、輝美さんにもメンターをお願いして心強い限りの伴走者役をやっていただいたりして、それぞれの講座はそれぞれのカラーを持ちながらやってるんですよね。だから通り一辺倒が関係人口の講座ですよってよりは、それぞれが結構生もの感でやっていて、それぞれの色があるのが僕またそれがふくよかでいいなと思いながら、しまコト全体に島根県の皆さんとご一緒させてもらってるんですけど。あの10年やるとやっぱ違いますよ。島根県さんが2012年から始められて、こういう講座を継続的にやってらっしゃるっていうのは、非常にこれ注目してもらうといいなと思うんですけど。

日野:本当そうですよね。自治体の、そういう取り組みってどうしても基本は単年度事業みたいな。3年はやるけどその先は「一定の役割を果たした」とか言って終わっちゃうことも多いと思うんですけど、10年続いているっていうのは確かにあんまり聞かないです。

指出:詳しくは輝美さんが書いて下さったものにたくさん載ってると思うんですけど、移住定住が必ずしもゴールではないと言いながら、関係人口の中からコミュニティが生まれて関係性がどんどん育っていくと移住しやすくなるんですよね。いきなりこの場所いいですよって言われて行くよりは、もうちょっと解像度が上がった状態で移り住んだりするので、そこから起業が始まったりっていうことは往々にして起こりやすいのが、島根県のこの仕組みなんですよね。
ガチの移住定住の政策も進んでますけれども、一方で、こうやって仲間を増やすっていうところから仲間が仲間を呼んで、仲間が島根のことを考え始めて、それが10年経つと、卒業生のみんなは自分が暮らしたいとか自分が楽しみたい未来のようなものを島根に持ち帰ったり、島根で広げていったりしてる。だからこれは移住の政策じゃなくてよかったと僕は思うんですよね。未来をつくる政策ですよ、関係人口の政策って。

田中:さっきの話ですごく面白いと思ったのが、関係人口の継続性の話。関係人口を説明するときに、結婚に例えられるという話があって。今までの移住政策っていうのは、テーブルに二人がついた瞬間に結婚届を出して判をつくかつかないかどっちなんだと問いつめて、判つきませんって言ったら、じゃあさよなら、ご飯食べるのもやめちゃうみたいなことだって言われてて。
関係人口は、結婚届とか分からないけど、とりあえず美味しく楽しくご飯を食べましょうっていう関係を大事にすることで、その結果として結婚する、つまり移住するっていうのがあるよねと。
今すぐ決断しろとせまって、シャッター閉めていたのは地域側ではないか。楽しかったら結果として移住するかもしれないけど、そんなこと分かんない段階でせまるという酷なことやりがちだったという側面もあると思います。
日野さんの「リトルフクオカ」でも結果的に移住者がたくさん出たそうですが、結果として楽しい場を作って関係ができて顔が見えてくると、じゃあ引っ越そうかって人が出てくるのは当然だし。
もちろん先のことわかんないから、役割とかプロジェクト型の方が私はいいのかなと思ってるとこがある。プロジェクト終わったら人生のライフステージの中でちょっと離れてふるさと納税だけとかお手紙書いているだけみたいなときもあるかもしれないし、でもまた役割が出たら濃く付き合ったり、そこはグラデーションなので濃ければいいって訳でもないし、そこの寛容性っていうのかな、固めないでも薄く繋がってるみたい。好きの度合いとか継続性みたいなのが求められてもしんどいだろうなと心配してました。

日野:僕がいる「リトルフクオカ」っていうコミュニティが、今3,000人いるんですよ、facebookグループで。何の仕事でもなくて、なぜあれはそんなに続くのかっていうのは、東京で色々頑張りながら福岡のことを好きだと思う人たちが福岡最高って言って乾杯! っていう場所にとどめたいなあっていう。もう6年か7年ぐらいやってるんですけど、今だに何かやろうよってなるっていうのは結構ゆるさや曖昧さがいい形で作用しているってのはあるかもしれないですね。

 

(サイト『リトルフクオカ』より)

 

 

指出:輝美さんと一緒に「大分で会いましょう。」の関係人口サミットで、関係人口ってなんだろうっていう話をしたんですけど、その時に大宮透さんがすごくハッとすることを教えてくれて。東日本大震災のときにボランティアで通っているみんなは最初、陸前高田に「通っています」っていう頻度の話をしてたけども、あるタイミングから受け入れる側の三陸のみんなが、また来てくれたんだみたいなこととか、フルネームで名前読んでくれるような関係性になっていったところから、「通う」ではなくて「関わっています」という言葉に変わったんですね。これまでは頻度とか回数とか数値だったのが、心の深さの度合いになってたっていうのは、関係人口が始まった大きい大きい転換点なんじゃないかなと思いました。陸前高田に関わっていますっていうことをあの自信を持って言えるようになったっていうのは僕それを聞いた時にすばらしい言語だなと思ったんですね。

旅ではないし誰か人に会いたいんだけれども、その場所に行くこの行動は何なんだろうか、みたいなことは、実は2004年の中越地震以降どんどん増していったんですよ。で、実際に新潟では『人に出会う旅』っていうのが進んでいったし、島根だったら『AMAワゴン』であったり、人に会うことが面白いっていう若い人たちが増えてったんです。あえて関係人口どこから始まったかって言ったら、中越地震から始まっているかもしれないし、3.11の中で地域に通っている若い人たちが自分と地域との関係性に喜びや自信を持って、関わっているっていうふうに言えるようになったところが一番本当は最初なんじゃないかなって気がしますね

田中:私も若い世代の友人と「旅と移住の間研究会」というのをやっていたときに、「旅は物足りない、でもすぐ移住までとか定住まではできない」と言っているのを聞いて、その間っていうのがすごく大事なんだろうと気付きました。
旅よりも関わるっていうかね。旅っていえば行くっていう概念が強いですけど、そうじゃなくても今はつながったり関わったりできるので。私も今、学生と一緒に地域に関わっていて、地域の人から「学生さん」って呼ばれていたところから名前を呼ばれるように変わる瞬間ってやっぱりあって。本当に求めているのは、顔と名前を覚えてもらってどんどん信頼関係が出来ていく過程で、それこそが楽しいんだろうなと思ってみています。

 

(後半に続きます)

 

日野昌暢
1975年福岡県福岡市生まれ。2000年 九州芸術工科大学 芸術工学府 生活環境専攻修了。同年4月に博報堂入社。14年間の営業職を経て2014年よりケトルに加入。

「預かったご予算を着実な効果にしてお戻しする」という強い想いとともに、何が社会を良くするのか?を考えるデザイン発想で、事業企画や商品開発から、PR、プロモーション、マスメディアでの広告などまで、幅広い経験を活かした統合プロデュースを手がける。

また「本質的な地域活性」をマイテーマに、“外から目線”で地域資産を再編集し、地域のプレイヤーの“関わりしろ”を作りながら、事業、プロジェクト、プロダクトを共創し、開発して、情報発信を行っていくことを得意とする通称”ローカルおじさん”。

2020年には九州を取材テリトリーにしたローカル発Webメディア Qualities(クオリティーズ)を企画プロデュースし、創刊編集長。観光庁や文化庁の採択事業者へのコーチングなども多数行っている。

主な受賞歴に、2度のACC TOKYO CREATIVE AWARD グランプリ(2018,2022)、グッドデザイン賞BEST100(2022)、Spikes Asia ゴールド(2019)、カンヌライオンズ ブロンズ(2013,2019)、ADFEST ゴールド(2019)など。
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