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連載 : ”ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負

2021/06/01

“ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負 vol.10 岩木みさき×阿部博隆×井伊友博×青木良之×五味仁×日野昌暢「出来上がりは千差万別! 地域の食文化に適したみそが出来るまで」『みその教科書』(エクスナレッジ)刊行記念 後編

日野昌暢

(写真左上から時計回りに 日野昌暢、阿部博隆さん、井伊友博さん、岩木みさきさん、青木良之さん、五味仁さん 以下敬称略)

中編ではそれぞれの蔵のみその食べ方や違いについてみていきました。後編は若たちがみそへのこだわりなどについて質問しあいます。

みそ造りの過程を垣間見る

日野:残り30分になってきましたが、質問のしあいをもう1個ぐらいしたいなと思うんですけどもどうでしょう。

五味:1回に仕込む量を聞きたいですね。

日野:それどういう視点で気になるんですか? 五味さんは。

五味:どんな道具使っているのかなというのと、うちも今の仕込んでいるサイズよりちょっとちっちゃい木桶を買おうと思っていて、自分の将来やりたいことに合わせて似たぐらいのサイズだったら相談したいなと思っています。

日野:ぜひどうですかみなさん。

五味:ぼくが言ってもいいですか?

日野:どうぞ。

五味:250キロの米麹と250キロ麦麹を作って、で大豆が500キロ入るので、1回の仕込みの出来上がりは大体2トンぐらいなんですよ。麦みそと豆みそのお二方は全量を麹にするからまた違った大変さがあると思うんですけど。

日野:いかがですか。

井伊:うちはですね、原料の麦、はだか麦が210キロです。で塩と麦、水も含んで出来上がりが350キロぐらいになります。

日野:ありがとうございます。阿部さんはどうですか?

阿部:うちはですね、だいたい1回の仕込みで4トンぐらい。ちょうど工場の写真あるんで共有します。

日野:ぜひお願いします。

阿部:うちはちょっとこういう感じの。

五味:すげえ、すげえ立派。

日野:近代的ですね。

阿部:左側から大豆が流れて、真ん中が麹で、右側から塩が流れてきて、それがある程度の量がたまったらこの下にたまって、そこからさっきのFRPの容器に入れていきます。

阿部:これが大豆の蒸し器ですね。

阿部:これが麹を作る麹室なんですけど、昔はこのトロムメル型装置って言って、回転しながら米を洗ったりとか、蒸したりするというのが全部この1つの機械で出来るものなんですけど、こういうものを使って作っています。

日野:すごく近代的でしたね。

五味:どんぐらい作れるんですか?

阿部:1回の仕込みで4トン。

五味:米麹は何トンできるんですか?

阿部:今の麹で、回転の中に2トンぐらいまでは入れられますね。

五味:写真で見るより大きいですね。

阿部:そうですかね。昔はさっき映像であった、井伊さんの蔵のような升を使うとか、そういうものもあったんですけど、今はもう工場変えてから、少人数でも仕込みができるということをコンセプトにうちの会長がいろいろ考えてやっています。

五味:ありがとうございます。

日野:青木さんはどうですか?

青木:うちは2トンくらいですかね。全部麹なので、約2トンが全て麹になります。で、麹室で良い菌を育てる部屋は井伊さんの動画にもあったように、麹蓋が部屋みたいなプールのようなところで縦長の部屋で、とこ床式室(とこゆかしきむろ)と言うんですけど、そこで1度に2トンほど。

岩木:これですねみその教科書のこういう。

 

青木:そうです、そうです。

家でみそはできるのか

日野:自宅で豆みそを仕込めますか? という質問が来ていますけど、先程の話でいくと仕込めますということですよね。

岩木:仕込めますね。青木さんからも良かったら。

青木:はいそうですね。麹とお塩とお水、重しみたいなものを買っていただければ。

日野:一般的に豆麹というものが売っているんですか?

岩木:スーパーにはあんまり売ってないんですけど、それこそ武豊と呼ばれる地域で売っていたり、麹屋さんで豆麹を作っているところもあるので、そこでは買えます。

豆みそ作りたい方に関しては、全麹仕込みと、大豆に麹を足して塩をやる普通のいわゆるおみそですね。一般的なおみそを作るときの大豆と塩麹を使う場合があるんですけど、家庭でやる場合はこっちの3点でやった方が失敗しないと思います。

岩木:蔵元さん達がやるのは全麹仕込み。こっちのパターンでやると1年だとちょっと分解しきらなかったり、旨味がのりづらかったりするので、ベースは大豆にしていただいて塩と豆麹を使ってもらった方が失敗はないと思いますね。1年ぐらいでも食べられますよ。

日野:ありがとうございます。この辺も是非みさきさんのWebサイトで見てみてください。

 

みそ時間のススメ

日野:もう終盤になってきました。あと 1つそれぞれの方の食へのこだわりやこれからの時代に気持ちが明るくなる話題があれば、お聞きできればなと思います。明るいと言えば五味さんですかね。

五味:おー(笑)。そうですね。なかなか今は会いづらい時代ですけど、うちはみそを造る材料を売るのが今シーズンは忙しくさせてもらってるので、家に居る時間を活かして、ちょっと手間のかかるものとかを家族でやってもらったら家の中で楽しめるんじゃないかなあとは思っています。

日野:まさにそうですね。4つのみそを毎日ちょっと試すみたいなことって、働いている僕らからすると週末にせいぜいできるかなくらいな感じだけど、ステイホームでずっといるので、それが出来るから楽しいなーと思っています。

ラフが一番最先端!?

日野:こだわりで言うとですね、袋でやれば良いと書いてあるじゃないですか。その話も少ししてもらってもいいですか。それこだわりの話だと思う。

五味:せっかく送ってもらった諸先輩方のみそって、全部上を切らないとならないから、このまま保存できないんですよ。このままだとこうなっちゃう(別の封付きの袋に入れる)から、香りが飛ばないように。

日野:うちも嫁から怒られました。これ上空いたままでいいのかって。言われてゴムで締めないとなと思って。

五味:スーパーに卸す時にいつもバイヤーさんに怒られるんですけど、輪ゴムで止めているだけなので。みんなを信じましょうということで、輪ゴムで留まってるんだけど、添加物入れてないから膨らむんですよ。

 

 

日野:うんうん。

五味:膨らんできたら店で少し開ければ空気逃げるし。売っているものを開けるのもどうかと思うんですけど、このラフさが1番最先端じゃないかなと思っています。

日野:いいですね。五味さんのところだけ封をせずにポンと置いておくだけで、空気に触れないみたいだねってことがあったので、なるほどそういうことだったんですね。そしたら阿部さんどうですか。こだわりの部分と、なんかちょっと明るい話。

次なるみそと伝える活動

阿部: 僕はどっちかというといいおみそを造るということもそうなんですけど、そのみそを色々加工して、それを若い人たちに伝える活動を日々考えているので、新しい商品をまたいろいろ考えていきたいなと思いました。

日野:今日は紹介されてないですけど、そのおみそを使ってラーメン。安養寺みそラーメンみたいに作られたりだとか、粉末のやつとかありますよね。

阿部:ありますね。「カケルミソ」というんですけど、もともとおみそはすぐ使いたいけど、だいたい冷蔵庫に入ってたりとか、ちょっと場所を移動しないと使えない。ただあの食卓にいつもあるお塩とかお醤油は味が足りない時にすぐパパっとやりますよね。それをこうみそで何かできないかなと言って。

フリーズドライにして、粉末状にしたおみそを造り始めて、テレビとかでも紹介していただいたんですけど、これからもアンテナを張り巡らして、新しいおみその価値観を発信できたらなと思っています。

日野:このカケルミソは、いろんなものをかけて美味しいでしょうけども、何がいいですか?

阿部:さっきのジャガイモつながりでフライドポテト。フライドポテトを買ってきて、袋の中にじゃあーっと開けて、それをバーっとやってしゃかしゃかポテトにするとポテトにいっぱい粉末がくっついて、すごく美味しいですよ。

日野:ジャガイモとみそは合うということですね。めっちゃ食べてみたいです。長野に行くこともあるんで、是非立ち寄れればなと思います。じゃあ青木さんどうでしょうか。

みそは香りで決まる

青木:1番大事にしていることは麹造りですね。大豆を蒸して、菌をつけて。3日間菌を育てる部屋があるんですけど、そこでいい菌を作って 、2年後3年後の味が決まると思って、やっていますので。父の真似事をしながら修業しています。

日野:どういう麹が良い麹なんですか。

青木:うちの場合はみそ玉麹というもので、それが親指サイズの麹をわった時にちょっと酸味がかった香りと、見た目ちょっと白く菌がくい混んで、菌がついているというのがすごくいい麹です。

日野:やっぱり、香りが大事なんですね。

青木:香り大事です。みそは医者いらずという言葉もあって。

日野:そうらしいですね。医者に金払うんだったらみそ屋に払えということわざがある。さっきみさきさんが拒食症と過食症と肌荒れみたいにいろいろやった中でね、みそとかを大事にすることによっていまピカピカですもんね。

岩木:順調ですよ(笑)ことわざもみそ探訪記のサイトにまとめています。

日野:医者いらずという。

青木:こういう時こそどんなおみそでも良いので、食べましょう

日野:はい。明るい話でも健康の話、いいですね、ありがとうございます。では井伊さん。

製法から素材までとことんこだわる

井伊:はい。うちのこだわり、麹蓋製法と言って。

井伊:これが木のもろ蓋といって、1つ1つで麹を発酵させています。小さい箱1つ1つでやっていく方が本当に隅々まで目が行き届くので、これで造ることで上質な麹ができると思ってやっています。真っ黒なのはカビです。元々は綺麗な杉の木目の木でした。その麹造りがこだわりですね。

日野:全麹みそなんですね。

井伊:はいそうです。で、明るい話題というか、一昨年初めてですね、はだか麦を栽培しました。

日野:はだか麦というのは普通の麦と違うんですか?

井伊:名前の通り穂が外れやすい、裸になりやすいので、はだか麦。大麦の1種なんですけど、阿部さんのように加工品とかを作るというよりも、素材の方を詰めていこうかなと考えていますね。

日野:なるほど。素材の方からということですね。焼酎蔵の方々ともこの十番勝負でオンラインイベントをしたのですが、黒木本店さんという蔵は畑からやっているとおっしゃっていましたね。

井伊:それとこうやってオンラインのイベントでたくさんの人と顔合わせて、新しい一面が見れたことが自分にとって明るい話題になりました。

みそは懐が深い調味料

日野:さて、若の横のつながりを作って、みそ界全体を盛り上げていきたいという強い想いのもとに皆さんに集まっていただいたわけですけども、みさきさん、どうでしたか。

岩木:今日のような回が実現してよかったです。このみその教科書も読んでくださった方がそれをまた誰かに伝えるものになってほしいなという想い、料理家として生産者さんと消費者を紡ぐこと、繋げたいと本を作りました。蔵元さん同士がつながりを深めたり、広げて、みんなで一緒に歩んでいけたらいいなと思いました。

今日おみそ汁を用意していたんですけど、4蔵全部のおみそを入れたおみそ汁なんですね。野菜とか具材も何でもいいし、みそ同士も合わせてもけんかしない、なんて懐が深い食べ物なんだろうと改めて思ったので、ご覧いただいた方も「なるほど」とまた誰かに話して伝えてほしいです。自分が知って楽しかった、よかったももちろんなんですけど、伝えることで若達と一緒につなげることができるので。

造り手同士がつながった先

日野:最後にひと言いただいてもよろしいでしょうか。

五味:横で話ができたのがすごくよかったです。皆さん何代も続いて歴史もあって、今後も続けて行く家業だと思うので、自分のスタイルをこうしていくんだみたいなのが聞けたのが励みになりました

これを機に仲良くやらせてもらって、コロナが収束したら見学交換ごっこみたいなのしたいです。突拍子もないアイデアを思いつくので、友達になって、投げあって、突っ込まれたりとかしたいなと思います。

日野:阿部さんお願いします。

阿部:それぞれ種類の違うおみその蔵など、いろいろ話できたことが1番よかったです。コロナが収束したら集まって、1杯飲みながらそれぞれの蔵を巡り、昔ながらの麹の造り方などを改めて勉強したいと思いました。

日野:青木さんお願いします。

青木:僕はまだ皆さんと違って親父の背中を必死に追いかけて、頑固おやじとばっか話していて。こういうときに大先輩ですけど、同じような方々とお話ができて、いろいろ教えて頂きたいと思いました。またよろしくお願いします。

日野:じゃあ井伊さん。今日、すごく寒い場所ですよね。木桶を映すためにそこからやっていただいたんだと思うんですけど、本当ありがとうございます。一気に絵がいい感じになりました。

井伊:こちらこそありがとうございました。足が寒いです(笑)。企画に呼んでもらって、みその交換をしたんですけど、これがなかったら、僕は他のおみそを食べることはなかったと思います。

本当に自分のところのみそしか食べないんですよ。今回食べてみて、皆さんのみその味も、地方の味も分かったし、これからはいろんなパターンができると思うんです。

おみそってみそ汁しか頭になかったんですけど、ほんの数分でお料理作ったり、この本読ませてもらって洋からエスニックから、中華と色々勉強させてもらうので、おみそでオススメの新しいレシピがあれば、また教えてもらえたらと思います。

日野:岩木さん、一言言いますか。

岩木:4人から今日の会があってよかったと聞けたことが本当によかったです。是非これからも皆さんと一緒に歩ませていただければと思っています。本当にありがとうございました。

日野:ありがとうございました。ここでお別れになりますが、阿部さん、青木さん、五味さん、井伊さん。またどこかでリアルにお会いしましょう

一同:ぜひぜひ!

 

あとがき

ラジオをやっていたり、元スキーヤーだったり、小説の人物設定でもなかなか無さそうなくらいユニークなみそ蔵の「若」達。他の蔵のみそを食べたら普通はお世辞を言うのに「苦手」だと直球で伝えたり、珍しいポイントは自分から話さなかったり。個人的にツッコミどころばかりの十番勝負最後の一戦でしたが、そんな「若」達が造るみそには「懐の深さ」をはじめ地域ごとの味や香りの違いを楽しめる隙間が沢山あるのだと知ることができました。

(法政大学藤代裕之研究室 齋藤萌音)

日野昌暢
1975年福岡県福岡市生まれ。2000年 九州芸術工科大学 芸術工学府 生活環境専攻修了。同年4月に博報堂入社。14年間の営業職を経て2014年よりケトルに加入。

「預かったご予算を着実な効果にしてお戻しする」という強い想いとともに、何が社会を良くするのか?を考えるデザイン発想で、事業企画や商品開発から、PR、プロモーション、マスメディアでの広告などまで、幅広い経験を活かした統合プロデュースを手がける。

また「本質的な地域活性」をマイテーマに、“外から目線”で地域資産を再編集し、地域のプレイヤーの“関わりしろ”を作りながら、事業、プロジェクト、プロダクトを共創し、開発して、情報発信を行っていくことを得意とする通称”ローカルおじさん”。

2020年には九州を取材テリトリーにしたローカル発Webメディア Qualities(クオリティーズ)を企画プロデュースし、創刊編集長。観光庁や文化庁の採択事業者へのコーチングなども多数行っている。

主な受賞歴に、2度のACC TOKYO CREATIVE AWARD グランプリ(2018,2022)、グッドデザイン賞BEST100(2022)、Spikes Asia ゴールド(2019)、カンヌライオンズ ブロンズ(2013,2019)、ADFEST ゴールド(2019)など。
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