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連載 : Kettleのお仕事

2020/01/20

B&Bで都市のつながりをテーマにしたトークイベント 孤立する都市とは?

ケトルキッチン編集部

東京・下北沢の本屋B&Bで12月16日、地方を舞台に活躍する人々を招くローカルシリーズ第6弾イベントが、博報堂ケトルプロデューサー・日野昌暢の進行のもと行われました。

今回はゲストに、法政大学・現代福祉学部福祉コミュニティ学科教授の保井美樹さん、「都市や生活の再編集」をテーマに活動しているTOKYObeta代表で編集者・ジャーナリストの江口晋太朗さんの2人が迎えられました。イベントでは、保井さんが編著を担当し、江口さんも共著者として参加している『孤立する都市、つながる街』(日本経済新聞出版社)を紐解きながら、「街とコミュニティの再生論」について語られました。

まず最初のトークテーマは、同書第1部で書かれている「孤立する都市で何ができるか」についてです。

(下写真:進行を務めたケトル日野)

日野は、同書を読んだ際に刺激的な感情を抱いたそう。

日野「この本を最初に開いたとき、『社会から疎外される若者』『支援なき子育て』『孤独な高齢者』などと綴られていて、一見、へヴィーだなと思いました。しかし読み進めると、自由な生き方が認められるようになった都市で、僕のような仕事をしながら生活していると、強者の成功ストーリーのような情報ばかり追いかけちゃったりするけど、その反動で起こっている課題があって、その側面を見ぬままに地域のことを考えると見落とすことがあると感じさせられました」 

これを受けて、保井さんが同書を作ることになったきっかけについて語りはじめました。

保井「はじまりは2年前。全労災から都市のコミュニティを考える研究会を発足してほしいと依頼されたことがきっかけでした。ただ単純に自治会や町内会に入りましょうというメッセージを発するのではなく、都市の今の構造に迫ったうえで、コミュニティの作り方から考えられるような研究会にしたいと思いました。そこで、都市の課題解決の活動の先端にいて実践している人と、コミュニティをつくる側の先端にいる人というあえて両極端からメンバーを集めて『通称:つながり暮らし研究会』を作ったんです。その活動が、この本ができるきっかけとなりました。本の第1部では、福祉や都市計画の専門家として課題解決を実践している人が、現場で本当に起きていることを伝えます。これは迫力あります。

(下写真:小学生の時に地元の商店街を回って商店街費を集めていた原体験を持つ保井さん。現在は、街が形成された後に内側の力でどのようにその街を運営するかというエリアマネジメントの分野で活躍している)

そんな流れから、話題は同書第1部タイトルでもあり今回の本題でもある「孤立する都市で何ができるか」へ。都市では現在さまざまな問題を抱えています。日野がまず、ある一つの問題について取り上げました。

日野「親の介護で離職してずっと介護に携わり、いざ、介護が終わった後に再就職できない人が孤立したり。あと、引きこもりの人は若者だけでなく、40~50代にも多いみたいで、80歳の親が50歳の引きこもりの人の面倒を見ているなんてケースも多いそう」

江口「内閣府の調査でも、引きこもり=若者という前提があり、15〜39歳以下の統計はこれまで取られてきましたが、蓋を開けてみると40歳から64歳までの引きこもりが推計61万人ほどで、実は若年層よりも多いことが初めてわかったんです。これまで見えなかった問題が今後ますます社会課題として広がっていくことにも、私達は向き合っていく必要があると思います」

保井「私は、厚生労働省の会議で、地域共生社会など比較的新しい政策についての議論に参加させていただいています。最近、その会議の中で議論されているのが『断らない相談窓口』の立ち上げです。今出た「80-50問題」のように、これまでの制度の中では受け止めきれない課題も含め、どんな相談にも対応していこうというもので、その姿勢は素晴らしいのですが、相談される方はその問題を解決するために何ができるのかを考えなければなりません。課題を抱え、相談に来た人たちと社会とつなぐには、そもそも多様な社会資源の発掘、受け止められる地域づくりをを進めていかなければなりません」

さらに話題は、「まち保育」や「ゴミ屋敷」の問題について。「ゴミ屋敷」の問題では、ゴミ屋敷の片付けの活動をしている、大阪・豊中市の社会福祉協議会の勝部麗子さんの話題へ。

日野「ゴミ屋敷は攻撃の対象でしかなくて、『あいつの家をどうにかしろ』という風に街の人たちからは思われがち。地域と縁がなくなってしまった人がこういう風になってしまっている傾向がありますが、その人とのコミュニケーションを諦めないというのが勝部麗子さんですね」

江口「勝部さんは、定年を過ぎた男性や、時間のある年配の女性を巻き込みながら、地域の人たちの居場所作りを丁寧に取り組んでいます。地域と縁がない人をコミュニティの中にうまく入れ込んだりしていきながら、それぞれにとって地域との接点を作りやすい方法を構築されている一人です」

保井「『つながり暮らし研究会』に入っていただいた勝部さんですが、研究会では『地域づくりが大事だ』と度々仰っていました。ご自身でも、福祉サービスにつなぐだけでなく、例えば空き地や公有地を借りて引退後の人たちと農園を作り、その人たちの居場所作りをするなど、つながる地域の仕組み作りに取り組んでおられます」

このように各都市で起きているさまざまな問題。トークの中では、この「つながり」が一つキーワードになりそうで、それをどうつくるのかが課題だと議論が進んでいきました。 

続いてのテーマは、同書2部の第5章、江口さんが執筆した「当事者意識が薄い人々を変えられるか」。話は、鹿児島県の「ブリ奨学金」や江口さんご自身が仕掛けられた銀座の「STAND GINZA /80」などの具体的な取り組みをもとにしながら、地域との当事者意識の醸成やその方法論に話は進んでいきました。

江口「街に対する関心をどう高めるか、自分事をどういう風に作っていくか、誰もが参加しやすい方法論を日々模索しています。例えば僕は福岡出身で今は東京にいますが、住んでいないけれども福岡のことに何か関わりたいとも思います。そうした、その場に住んでいない人も、街の一当事者として関われる余地や方法を考えることが、とてもクリエイティブなことにつながってくると思います」

日野「在京福岡人が集まった、『リトルフクオカ』というコミュニティがあります。最初は5~10人くらいで始まった“飲み会”だったのですが、今では2600人くらいのコミュニティになったんです。そういうゆるい集まりから何かが生まれたりもしますし、当事者意識というのは今住んでいる街に対しても、故郷にも、はたまたどこの街にでも、誰にでも持てるものだと思います」

江口「地元を出て遠くの場所にいても、たとえば地元発のクラウドファンディングを応援したり、地元じゃなくても知人やなにかの縁でつながりができた地域を応援したりと、当事者意識や愛着というのはとても多層的かつ服装的なものなんです。自分なりの当事者意識をどこに持つか、その根底にあるその人自身のありたい生活や生き方を豊かにしていくこと、そしてそれらをつなぐ方法論や仕組みを提案していきたいと考えています」

(下写真:多角的に都市開発、地域再生を提唱する江口さん)

江口さんの話を受けて、イベントに参加した大学生から次のような意見が飛び出ました。

「僕は、生まれも育ちも東京都調布市なのですが、特に特徴がある街でもないし、地方出身者に比べて地元感や連帯感がない感覚です。いざとなった時に戻る場所がないというか……」

これに対して、保井さんと江口さんは、

保井「その感覚はわかりますね。でも、東京は、今日の場所のようなちょっとお酒を飲みながら好きなことについて語り合う場、他にも例えば一緖に音楽を楽しむ場など、小さいコミュニティを作れる可能性がたくさんある街だとも思います。人も空間も豊富という意味では、小さな自分の居場所や人間関係を作りやすいという意味で、地方の街より強いはず。調布でも多摩川でつながりづくりをしている事例など、いろいろありますよ」

江口「街の成り立ちや歴史を探れば、調布にも絶対何かあるはずです。地域の歴史をたどることで、街が持つ文化資源など様々な資源を掘り起こしながら街と向き合ってみれば、考えも変わるかも」

保井「逆にそこにこだわらず、仲間同士で何か調布で始めれば、愛着も湧くかもしれません」

と、イベント参加者も交え、ディスカッションする場面も見られました。

この日はほかにも、江口さんが提唱する、自分の関わりのある街に対する愛着を持つという「シビックプライド」の話や、ひとつの街にずっと住んでいる人やさまざまな街を行き来している人、他の街から移住している人たちの間で趣味や行事ごとなどで共通体験を作ることでコミュニティの多様性や柔軟性を作り出す「コミュニティキャピタル」の考え方など、さまざまなテーマで盛り上がりを見せました。

イベントに参加した約20名は、終始頷いたり驚きを示したり、ときには手を挙げて自身の考えを述べるなどし、会場にいた全員で「地方都市」について考えていったイベントとなりました。

ケトルキッチン編集部
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