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連載 : Kettleのお仕事

2021/05/26

Kettleのお仕事特別企画 鳥羽周作さん×皆川壮一郎 対談! <前編> 「世の中をワクワクさせる“食のワンストップクリエイティブチーム”とは?」

ケトルキッチン編集部

代々木上原のモダンフレンチレストラン「sio」をはじめ、5つの飲食店を運営している鳥羽周作さんが、2021年4月26日、食のクリエイティブカンパニー「シズる株式会社」を設立しました。また、とても素敵なご縁によりクリエイティブパートナーとして、博報堂ケトルがジョインさせていただくことになりました。「おいしいをつくる力」と「クリエイティブをつくる力」、お互いの強みをかけあわせる形での新しいチームメイクです。

そこで今回、鳥羽さんと博報堂ケトルのクリエイティブディレクター 皆川壮一郎の対談を実施。鳥羽さんと旧知の仲であり、本プロジェクトの立役者でもある皆川、二人がシズる×ケトルの特別なチャレンジについて、本音で語り合いました。

ひとりでやることに限界を感じていた。チームが欲しかった

ー「シズる株式会社」設立という新しいチャレンジを決めた理由を教えてください。

鳥羽周作さん(以下、鳥羽):かねてから、飲食業界で自分たちが何をしていくべきかっていうことと、「sio」で取り組んできた「幸せの分母を増やす」ということを今後どのようにやっていくか? ということを考えてました。

「sio」がミシュランを獲っていろんな店舗を展開、幸せの分母が増えていく中で、コロナに直面して。次、もう一個上のチャレンジをするときに何をやるんだってなった。慣れてきちゃってた部分をさらに広げるためには、もっとストレスがかかることをやんなきゃいけないなって思って。その時に、レストランを自分で一からつくるんじゃなくて、誰かと一緒につくっていくというチャレンジをしたいと思ったのが最初のきっかけです。それで、そうちゃん(皆川)に話をしました。

僕自身がひとりでやることに飽きてきてたし、枯渇していた部分、限界を感じていたっていうのがいちばん大きいかな。だから新しいチームをつくった。あと、誰にも左右されない会社をつくりたいというのがありましたね。本当に心を許せる人とフラットに、自分たちのやりたいスタンスでできる会社をつくりたいと思ったときに、そうちゃんが話を聞いてくれた…。それがいちばんの理由だったかな。

皆川壮一郎(以下、皆川):鳥羽くんと僕はもともと友達ではあったんです。僕らが、ただ洋服が好きなだけで知り合った当時、鳥羽くんはカフェに勤めていて。30歳になる前くらいだったかな? すごいよく覚えているんですけど、カフェで鳥羽くんがハンバーガーを作ってくれて。たぶんカフェって回転とか考えないといけないから、キッチリ決まったレシピがあるはずなんだけど。鳥羽くんのこだわりがすごくて、そのレシピをまったく無視して、いつもすごい丁寧にハンバーガーのバンズを焼いてくれてた。明らかに時間かかりすぎで…(笑)。でもその味が、すげえおいしくて。だから、料理がおいしいし、料理の才能があるんだなというのはもともと知っていたんですけど(料理がおいしいというだけでも素晴らしいのに)ここ数年の鳥羽くんの活躍は、すごいし驚きました。

まず、コロナ渦における、オーナーシェフとしての世の中への向き合い方、自分たちでデリバリーを始めたというのもそうだし。レシピはお店の財産だから、本来は門外不出のものなのに、「#おうちでsio」で代表的なレシピを次々公開しちゃって…。大丈夫かなって思ってた(笑)。そこから「朝ディナー」。僕もはじめて聞いたときに「ディナー=夕飯じゃない?」と捉えていたけど、ちゃんと調べたら「ディナー=一日の中で主となる食事」というのが正しい意味だった。そのいい“違和感”も見越した上でのネーミングもさすがだった。そして、3回目の緊急事態宣言で、今度はお酒を提供できなくなっちゃって、 即座に「ノンアルコールのレシピをシェアする」という取り組み。これ全部、野生の勘でやっているにしては、PR発想すぎるな…と。

僕たちはPRを得意としている会社だけど、鳥羽くんのこの才能というか、センスって正直天才的だなと思ったし、リスペクトしていました。これはもう、僕たちが神輿担いで、もっと盛り上げていくべき存在だなって。声を掛けてもらったときに、そう思いました。

(写真:鳥羽周作さん)

 

鳥羽:こんなにハマるとは思わなかったよね?

皆川:そうね。打ち合わせしててもなんか社内の人としゃべっているような感覚があって(笑)。たまに、「PRのセンスがめちゃくちゃある、しかも料理上手い人」と間違えちゃうときがあって。逆だなって…って(笑)。料理人であることを忘れるくらい視野が広いし、世の中の文脈とか流れをすごい敏感に感じ取ってる。 

自分に不慣れなものを馴染ませるように乳化させる

皆川:話がズレちゃうんだけど、どこでこのPRセンスを身につけたのかな? ってすごい気になって。

鳥羽:「sio」がオープンして今3年目なんですけど、いろいろやっていくなかで会社の課題だとか、もっと売上がある方がいいよねとか、スタッフみんなを雇用するために勉強しなきゃいけないなと思ってて。最初、ただインスタグラムをやっていたのが、なんか法則があるのがみえてきたり。ツイッターは、初めはぜんぜん(フォロワー数)多くなかったけど、やりはじめたら「こういう感じで書くとフォロワー増えるけど、なんかこれって違うな」とか、いろいろ解像度が上がってきた。ちょっと実験的にやったことに「いいね!」がいっぱいついたな、とか知見が溜まってきて、それが確信に変わって…。

スタッフの折田からはよく、「才能を食べる」と言われます。人に会っていい話を聞いたら、次の日からすぐに取り入れるみたいな。自分に不慣れなものを馴染ませるように乳化させて、それをアウトプットしていくということをやっていくうちに、刺さるようになっていました。

皆川:料理をしながら、勉強するの大変じゃなかった?

鳥羽:今もけっこう勉強してて、最近だと夜中営業が終わってから。めちゃくちゃ勉強して解像度をあげるようにしているんだけど、それってやっぱりお客さまに対する愛情というか。何を求めているのかっていうのがめちゃくちゃ深いから。そうちゃんもクライアントワークするときにめっちゃ潜るじゃん。僕はじっと潜るというよりも体を動かしながら、トライアンドエラーしながら常に考えている。経験や実戦の中から一個一個が糧になってて、この状況のときはこうだしこの状況のときはこうだし、みたいなことが肌感でわかってアウトプットがなんとなく最近できるように。

皆川:どういうふうに世の中に打ち出していくかとか、世の中の流れを掴むとか、鳥羽くんのこの側面、才能がどこから生まれて来たのかっていうのがわかってよかった。みなさんにも知ってほしかった。

 

(写真:皆川壮一郎)

大事にしたいのは、おいしいを届けきること

皆川:もうひとついいなと思っているのが、「クライアントワークが得意である」ということに鳥羽くんはすごく誇りをもっていて。以前「鳥羽くんが今作りたい料理、何?」ってたずねたときに、「ない」と言うんですよ。「そんなシェフ、いる??」って思って(笑)。そうしたら「お客さまが今食べたい物が、僕が今作りたい料理」って言い切ったんです。それって、まさにクライアントワークだもん。

鳥羽:色が出ちゃったら、よくない。色は結局最後、アウトプットで出ちゃうんだけど、その過程においては色が出ない方がいい。お客さまが求めているものをおいしくするだけだから、お客さまが望むなら、マックや松屋のアレンジレシピをやるのもまったく抵抗ないし。「自分は5万円の料理しかやりたくない」って思っちゃうと、できることが少ない。

そして、「届けきる」ということをうちの会社は大事にしているから、アウトプットして終わりじゃなくて、それがお客さまにいかにちゃんと刺さるかということまで考えています。相手のことを考えて「届けきる」というところは、もしかしたら学校の先生をやっていたときに大事にしていた部分かもしれない。お客さまに本当に届けないといけないという気持ちがコロナを経てさらに強くなったんですよね。昨年の序盤、まさにステイホームが叫ばれ始めた時に、ツイッターでレシピを投稿したら、めちゃくちゃバズったんですけど、でももっと伝わりやすくしないといけないし、もっと背景とかみえるようにしないといけないし、そこからめちゃくちゃ努力するようになった。もっと相手のことを考えるようになったのがこの1年だったのかなと思います。PR目線になったんですよ(笑)。

皆川:ますます鳥羽くんがシェフであること忘れちゃうな。あと、そもそもこういうキャラだったっけ(笑)?

鳥羽:修行しているときは、「世の中をよくしよう」とか思ってないし、ミシュランを獲ることしか考えてなくて。ただその過程においてもいつも僕のまわりには誰かがいて、支えてくれてる人がいて、応援してくれている人がいたときに、もうちょっと自分としてみんなにいいことしたいなっていうか、まわりにいい人がいるからがっかりされたくないなっていうのがいちばん。「お前なんか、そんなんなんだ…」って思われたくないなっていう。だんだん自分の方向性がみえてきて、水野学さんが「くまモン」をつくって、世の中のポップをつくったということの偉大さを知り、自分の子どもの保育園のお母さんに「『sio』は高くて食べにいけない」と言われたのが重なって。僕がやっている料理って、日本の1%くらいしか食べてもらえてないなと思い知って、これじゃいかんなと。世の中のポップを作らなくてはいけないと思った。水野学さんの影響は大きいかな。

“食のクリエイティブカンパニー”という唯一無二の存在を言い当てていた言葉

ー社名「シズる株式会社」に込めた意味とは?

 

皆川:社名は鳥羽くんがつけたんですよね。しっくりくる社名がなかなかなくて。

鳥羽:最初は違う名前を考えてたんですけど。合宿でそうちゃんやみんなと考えてたときに、食だから「シズる」よくない? って思いついて。みんなが「いいね」ってなって、「そうだ、世の中をシズらせようよ」って。それで社名が生まれたっていう。流れなんですけど。前提部分の「自分たちがやりたいことをやる」「自分たちがワクワクするかどうかを大事にする」っていうのは決めていました。お客さまを喜ばせるという意味での「シズる」と、自分たちがシズっているのかということの両方が一致して。それに、クリエイティブっぽかった。クリエイターみんなが知っている言葉だから。

皆川:もともと僕たちは、ブランド「nonnative」が好きで知り合って。今日もね…(笑)。
(※本日のお二人のファッションにご注目を!)

オーセンティックで普遍的でベーシックなものが好きなので、当初は社名もそういうのかなって思ってて。最初は「おいしい」とか「うまい」って社名とかがいいのかなとか思ってたんですけど。普遍的で、なおかつどこにもない社名って難しいじゃないですか。それでいて僕ららしくて、ワクワクもして。「シズる」と言われたとき、たしかに言葉を知っているけど、手垢ついてない、ワクワクするし。単に食の会社でも、クリエイティブの会社でもない、“食のクリエイティブカンパニー”という唯一無二の存在を言い当てていたっていうのが、最終的な決め手。

鳥羽:会社のメンバーの間でも「シズる」はもともと使っている言葉で土壌があったし、パンとハマりましたね。

皆川:そう。いろんな視点から「シズる」はすごいよくて。

鳥羽さん:僕ら自身がこの名前に超ワクワクしたっていう。この名前が生まれた時の高揚感が何にも代え難くて。その時間を共有したメンバーがめちゃくちゃ幸福感に包まれるじゃないですか。あのときまさに会社ができた瞬間だったし、たくさんの人を幸せにできるなって思いましたね。

「料理は、クリエイティブで、もっとおいしくなる。」

皆川:「食のワンストップクリエイティブチーム」というのは、ありそうでなかった。僕も今まで食品やお菓子、飲料の仕事をしていて、商品そのものは完成している上で、広告してくださいって依頼がくることが多かった。そのたびに「商品そのものをつくる段階からコンセプトも含めて入れたらいいのに」って感じてました。ただ仮にそうなったとしても、僕は食べることは好きだけど、原材料とかコストとかぜんぜんわかんない。そこで鳥羽くんの存在が本当にありがたかった。「おいしい」のど真ん中をつくれる人と、これを届けきる僕らが最初から並走できていたら最高だなと思って。まさにデコとボコがぴったりハマったたような感じだよね。

鳥羽:まず世の中を見回しても、シェフがPRとかクリエイティブの会社と一緒になるっていうことがなかったから。一貫して入口から出口までを設計して、ロジカルに考えられるから説得力があると思う。あるようでなくて、なかなかやろうと思ってもチームがつくれないと思うんですよね。自分たちで言うのもなんなんですけど、隙がない。

皆川:鳥羽くんと僕たちは言語が同じというか。一般的なシェフの方々は、早い人は18歳くらいからずっと料理の修行をして、それでスーパースターが生まれている。目の前の料理と向き合うのは得意な一方、世の中を見渡したりする時間は少なかったかもしれない。一方で鳥羽くんはJリーグの練習生や学校の先生などを経て30歳まで過ごし、様々な視点から世の中をみてきた。その世の中をみながら、目の前のものをおいしくするという掛け合わせスタイルが新しかった。まさに世の中の流れをみて、つかむことが仕事である、僕たちと波長があった。逆にケトルの中でも料理をしたり、ごはんを食べるのが好きなメンバーが集まっているというのもいいかな。

鳥羽:共通言語ってめちゃくちゃ大事で、僕はものに触れる機会があって、クリエイティブにも興味があったりとか、もともと音楽とかカルチャーも好きだったという部分もあったからすんなり馴染めた。相性がよかったというのが大きいすよね。食がクリエイティブに入っていくってことは、今までけっこうあったかもしれないけど、食の中にクリエイティブを取り入れていくというのは、すごく閉鎖的な保守的な業界だったから、少なかった気がするよね。

皆川:そう。シズルのタグラインである「料理は、クリエイティブで、もっとおいしくなる。」はケトルのコピーライター井手のアイディア。広告業界で、食品やお菓子、飲料のパッケージをつくったり、ブランディングまで携わった人はいたけど、それ以上どっぷり食や料理の仕事に取り組んだ人はあまりいなかったんじゃないかな。

鳥羽:単純に僕がおいしい料理をつくって、それで終わりじゃない。その先の、おいしさをどう届けるかとか、どう広めるかというところまでチームでやれているということは、本当の意味でおいしいをつくっているということだと思うんですよね。世の中に対して基準値をつくるという意味でも。これまで僕が目の前の人たち20人においしいステーキを焼いていたとして、そうじゃないおいしいをやれる大きな可能性がこの会社にはあるっていうのを日々感じています。

(後編につづきます)

 

<プロフィール>
■鳥羽周作さん
Jリーグの練習生、小学校の教員を経て、32歳で料理人へと転身。都内の名店で修行を積み、2016年3月より代々木上原「Gris」のシェフに就任。その後、同店のオーナーシェフとなり、2018年7月より「sio」としてリニューアルオープン。ミシュランガイド東京2020で1つ星獲得。2019年10月丸の内ブリックスクエア内に「o/sio」をオープンするなど、現在5つの飲食店を運営。

https://sizuru.co.jp/

■皆川壮一郎
クリエイティブディレクター
1978年生まれ。営業職、マーケ職などを経て、現職。趣味と実益を兼ね、夜な夜なスマホ片手にSNS界隈をパトロールし、実際にそこから企画のヒントを得ることも。主な受賞歴は、JAAAクリエイターオブザイヤー メダリストなど。

Photo:谷口大輔

ケトルキッチン編集部
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