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連載 : プロデューサー道

2020/05/27

“ローカルからの情報発信”をプロデュースする

日野昌暢

博報堂ケトルのプロデューサーである、ローカルおじさんこと日野昌暢の日々を綴る連載「プロデューサー道」の第6回です。今回は”ローカルからの情報発信”の話をしようと思います。

前回の記事の最後に、アフターコロナには、地方創生予算で何千億円もかけても生まれなかった東京一極集中からの逆流が起こるのか!?などと書きました。都心に住むことにメリットがなくなった人や、リモートワークでできちゃうと気づいた人たちの中の一定数が、2011年の震災の後のように脱東京の行動を起こし始めるのは間違いないと思います。

数年前から、東京圏に住む人たちの約半数は地方暮らしに興味を持っているという調査結果をたびたび目にします。でも、先に書いたような行動を起こせる人の総数は少ないのも事実です。一番のボトルネックは「仕事」。東京は自分のスキルを活かせる仕事も、その情報もたくさんあるから人が集まっているわけですが、ローカルでそれを探そうとすると、なかなかたどりつけません。そういう面白い仕事や、面白いことをやっている人を、域外の人に向けて取材・編集しているメディアがほとんどないので、情報は断片的かつ不足しているんです。

でも、実際にはローカルをうろうろしていると、ローカルだからできる面白いこと、働き方、生き方をされている方々はたくさんいらっしゃる。僕がそれに改めて気づかされたのは、2015年に福岡市役所のローカルWebメディア “#FUKUOKA(ハッシュフクオカ)”の制作に携わった時です。

昨今、地方最強都市とも言われる福岡市ですが、地方創生という言葉ができ始めた2015年の時点で、すでに勢いのある街として東京でも耳にしていました。しかし、なぜ福岡に勢いがあるのか?という問いは、誰に聞いても「なんでかね〜」という感じでもありました。

福岡の良さは、東京にあるものはほとんど手に入って、食べ物が美味しくて、空港も近いし、車で1時間も走れば海も山も温泉もたくさん!というような話で語られがちでした。それも大事な要素ですが、少し、取材をしてみると福岡という街の中で、街を盛り上げるために、とか東京には負けないぞと、面白い仕事を生み出している人たちの存在や、東京には伝わってこない情報が見えてきて、東京で過ごしている編集チームから見ても、興味深いことがたくさんありました。でも、ネットで検索してもそういうことは出てこなかったんですね。

名物がうどんだとか、温泉だとかではっきりしていれば、それに絞ってプロモーションをする手はありますが、福岡市はちょっといいことが、たくさんある街だったんです。 #FUKUOKAは、そういう”ちょっといいこと”を、ちゃんと取材して、域外の人の興味に沿った”外から目線”の編集で、Webにアーカイブする活動でした。そうすることによって、福岡のことを知りたい人や、福岡に関わりたい人が、確かな情報にたどり着くような情報環境を作ろうということです。

メディアが実際に立ち上がると、街で頑張っていた人たちにとって、情報発信装置がないことは思っていた以上に課題となっていたようで、たくさんの反響をいただきました。そして、情報アーカイブは目論見通りに機能して、#FUKUOKAで記事化した情報が、福岡がなぜ勢いがあるのかを調べていたテレビ番組や書籍の企画で検索されて、使われていった実感もありました。

福岡で一次取材をしっかりやるメディアを運用したこの経験は、高崎市や広島県で私が取り組んだ仕事でも、活かされていくことになります。ローカルからの情報発信は、過密になりすぎた首都圏に暮らす人たちがローカルへの移住だったり、関係人口になったりすることに興味が上がっている今、改めて大事になってきますが、そういったメディアを運用する時は、一定の”外から目線”が必要になります。そして、本当は自治体の予算でやるのではなく、継続性が担保できるように民間企業によって収支が取れる形で運用されることもまた重要なのです。継続できるローカル発Webメディアの成立は、とっても難しい課題ですが、誰かがなんとかしなければならない社会課題だと僕は思っています。

写真は、#FUKUOKAで取材させていただいた方々やライターさんたちとの最初で最後の懇親会の様子です

日野昌暢
1975年福岡県福岡市生まれ。2000年 九州芸術工科大学 芸術工学府 生活環境専攻修了。同年4月に博報堂入社。14年間の営業職を経て2014年よりケトルに加入。

「預かったご予算を着実な効果にしてお戻しする」という強い想いとともに、何が社会を良くするのか?を考えるデザイン発想で、事業企画や商品開発から、PR、プロモーション、マスメディアでの広告などまで、幅広い経験を活かした統合プロデュースを手がける。

また「本質的な地域活性」をマイテーマに、“外から目線”で地域資産を再編集し、地域のプレイヤーの“関わりしろ”を作りながら、事業、プロジェクト、プロダクトを共創し、開発して、情報発信を行っていくことを得意とする通称”ローカルおじさん”。

2020年には九州を取材テリトリーにしたローカル発Webメディア Qualities(クオリティーズ)を企画プロデュースし、創刊編集長。観光庁や文化庁の採択事業者へのコーチングなども多数行っている。

主な受賞歴に、2度のACC TOKYO CREATIVE AWARD グランプリ(2018,2022)、グッドデザイン賞BEST100(2022)、Spikes Asia ゴールド(2019)、カンヌライオンズ ブロンズ(2013,2019)、ADFEST ゴールド(2019)など。
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