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連載 : ”ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負

2020/12/11

“ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負 vol.4 藤代裕之×青柳美里×日野昌暢 「アフターソーシャル時代のローカルからの情報発信法とは?」『アフターソーシャルメディア』(日経BP)刊行記念 前編

日野昌暢

博報堂ケトルの“ローカルおじさん”こと日野昌暢が、本質的な地域活性を考え、実践する方々を本屋B&Bのオンラインイベントにお招きしたローカルシリーズ十番勝負の4戦目です。記事は法政大学藤代裕之研究室の学生がまとめています。

ゲストは『地域ではたらく「風の人」という新しい選択』という著書でも知られる、法政大学教授の藤代裕之さん。フェイクニュースやローカルジャーナリズムをテーマに研究されている藤代さんの新刊『アフターソーシャルメディア〜多すぎる情報といかに付き合うか』は、メディア関係者が気づいていないメディア環境の状況変化を明らかにした1冊です。

情報過多時代にこれまでの情報発信方法では、地域へも、若い人へも、情報が届きにくい環境となっています。そこには、メディアに求めることへの意識に世代間での大きな隔たりがあり、この“ズレ”の存在を理解しないとこれからの情報発信はうまくいかないという実情が藤代さんらの研究から見えてきています。そうした環境の中で、情報発信側も受け取り側もどうしたらいいのかを考えます。

日本の各地域からの情報発信にソーシャルメディアを使いたいと考えている方、情報過多の社会に指針が欲しい方、「ジャーナリズム」「メディア論」に興味のある方や、SNSおじさんにも必見です。


藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
1973年徳島県生まれ。広島大学文学部哲学科卒業、立教大学21世紀社会デザイン研究科前期課程修了。1996年徳島新聞社に入社。社会部で司法・警察、地方部で地方自治などを取材。文化部で、中高生向け紙面のリニューアルを担当。2005年goo(NTTレゾナント)。gooラボ、新サービス開発などを担当。専門は、 ジャーナリズム論、ソーシャルメディア論。ゼミテーマは、ソーシャルメディア時代の「伝え方」の研究と実 践。著書に『ネットメディア覇権戦争偽ニュースはなぜ生まれたか』(光文社)、編著に『ソーシャルメディア論 つながりを再設計する』(青弓社)『地域ではたらく「風の人」という選択』(ハーベスト出版、第 29回地方出版文化功労賞・島根本大賞2016)など。
https://www.fujisiro.net

青柳美里(あおやぎ・みさと)
法政大学社会学部メディア社会学科3年。藤代裕之研究室所属。東京都出身。使っているSNSはTwitter、Instagram、TikTok、Facebook。どれも見る専。Twitterのトレンド機能をニュース代わりにしている。


(写真左:博報堂ケトル 日野昌暢、中央:法政大学 藤代裕之さん、右:法政大学 青柳美里 以下敬称略)

日野:今回は藤代さんの研究室に所属する法政大学3年生、青柳美里さんも一緒に、「多すぎる情報といかに付き合うか」という同書のキーテーマと、「ローカルからの情報発信のこれから」とを重ね合わせてトークをしていきたいと思います。

そして本日は本屋B&Bからお送りしようと思います。今日のイベントは、藤代さんたちが合同で書かれた『アフターソーシャルメディア』についてお話ししたいと思います。

(『アフターソーシャルメディア 多すぎる情報といかに付き合うか』 NHK放送文化研究所・博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所・法政大学大学院 メディア環境設計研究所の共著で、2020年6月に出版されています。
情報過多時代を生きる人々のメディア接触を、量的・質的調査から分析し、「ビジネスパーソンと大学生の情報接触スタイルのズレ」を明らかにした本です。)

スマホ上には東京からの情報しかない

日野:僕自身は、地域活性をマイテーマに活動しています。ローカル発Webメディア『Qualities』を6月に立ち上げて、編集長をやっています。九州をテリトリーに「いいヒト・いいコト・いいシゴト」を掲げてます。ローカルWebメディアは(経営的に)成立しにくいですが、民間の力でマネタイズをしながら、九州で頑張っている人たちに光を当てていこうとしています。

日野:今日の話と関連すると思うんですけど、スマホで見ている情報は、概ね東京から出てきているものなんです。Webメディアやインフルエンサーが東京にものすごく集中しているので、地域の人たちもスマホで見ている情報は東京発ということが結構あります。

『Qualities』では、東京側の人たちが読んでも違和感のないような地域の情報を編集して「面白いプレイヤーを遠くの人たちから見つけてもらう」ということをやりたいなと思っています。あと、東京から九州に戻りたいなと思っている人たちはたくさんいるんですけど、みんな情報や面白い人たちを見つけられずにいるんです。『Qualities』がそれを見つける場所になってほしいなと思っています。

西のおじさんと増える東京出身学生

日野:主役の藤代さんの前にですね。法政大学社会学部メディア社会学科3年生の青柳美里さんです。こんばんは。

青柳:こんばんは。よろしくお願いします!

日野:青柳さんは東京都出身なんですね。

青柳:そうですね。21年くらい、ずっと東京の真ん中ら辺に住んでいます。

日野:東京出身の人は「田舎があるのが羨ましいんだ」みたいなことがあるというじゃないですか。

青柳:はい、すごく羨ましいです。地元トークとかしてみたいとずっと思ってました。

日野:それは東京の人によく言われるんです。以前藤代さんと一緒に、ローカルジャーナリズム論(法政大学で行われた3日間の集中講義。ローカルでメディアの仕事をしている方々をゲストに迎えた)という特別講座をさせていただきました。法政大学の学生さんは東京出身の方が7割ぐらいですかね?

藤代:7割です。

日野:人口が東京に寄ってきて、東京で生まれ育つ人も増えてきているということなのかな。そしてその代表選手である東京生まれ東京育ち、僕より歳が半分の青柳さんに、今日は若者代表の声をいただきたいです。そして、藤代さん。

藤代:藤代です、こんばんは。よろしくお願いします。今日のテーマとして情報過多:情報が多いということ、情報過疎:情報がすごく少ないということ。この2つが実はローカル発信の壁になっているよという話をしようと思います。

日野:気になる! いい課題設定です。

藤代:まず自己紹介させてもらいます。僕は元々四国の徳島出身です。なので日野さんが福岡出身で、僕が徳島出身。

日野:なるほど、こちらは西勢。

藤代:それに対して青柳さんが東京出身だということですね。もともと徳島で、大学は広島です。そこからUターンして徳島新聞で10年くらい記者として働いていました。それから東京に出て来て15年くらい。青柳さんよりも東京新参者ということになります。

青柳:先生は東京では私の後輩ということになりますね。

藤代:そうですね(笑)

日野:あ、青柳さんはそういう感じではっきり来るんですね。

藤代:ハハハ。ピリッとしているのが青柳さんのいいところなんです。それで、ソーシャルメディア面白いなと思って、2013年から法政大学に来て研究とか教育を担当しています。うちの大学は学生の7割が東京や千葉、神奈川出身なので、夏休みに友達の実家に遊びに行って、海で泳いだり、スイカ食べたり、という地方の良い経験をしてないなと思ったんですね。それはもったいないなと思って、ゼミの夏合宿は毎年地方に行っています。

先生やおかんの話は聞き流してしまう

藤代:それで今日の話、2つありましたね。情報過多と情報過疎。その前に、まず情報を伝えることは皆さん結構やっているじゃないですか。まさに日野さんが編集長を務める『Qualities』も。
でも、情報を伝えるためには受け手を知る必要があるじゃないですか。コミュニケーションなんで、受け手のことを知らずに一方的に情報を伝える人ってうざくないですか。

日野:うん。誰に伝わって、その人がどういう気持ちなのかというのを分かった上で、お話を伝えなきゃいけない。そうしないと空気読めないとか言われちゃいますよね。

藤代:情報を押し込まれると、引いちゃうじゃないですか。で、今は発信側の話ばっかりで受け手側の話がないよね、と。

「バズる」とか「オウンドメディアの作り方」とか、「インフルエンサーの活用術」とか。それはいいんだけど、それで受け手側の人の事は分かっているんですか? というと、実はそういう本がないんですよ。

日野:なんでないんですかね?

藤代:それはね、みんな発信することにしか興味がないからです。だけど多くの人は話を聞いちゃいないんです。例えば先生の話とか、おかんの話とか。

日野:はいはい、おかんの話は聞き流していますね。

藤代:奥さんの話聞き流して怒られたり。「さっき言ったでしょ!」って。

日野:はい、よく言われます。

青柳:真面目に聞いてくださいね。

日野:ハハハ。なんであれは聞き流しちゃうんでしょうね?

藤代:そうそう、真面目に聞いてくださいと言われても難しいんですよ、今の時代。それが次に話していく情報過多という話ですね。

情報が多すぎる時に欲しいサービス

藤代:ではここで1つクイズをしましょう。まず、皆さんに情報が多いと思っているかどうか聞きましょうか。ちょっと情報が多すぎるんじゃないかと思っている人は手を上げてみてもらいましょうか。

(参加者がウェビナーの機能で手をあげる)

藤代:おお、5対3くらいですね。こんな時に、人はどんなサービスを選ぶのかというクイズがこの本の最初に書いてあるんですね。AのサービスとBのサービス、皆さんどっちが欲しいですか?

藤代:日野さんはどっちが欲しいですか?

日野:僕はAでしかないなと思って。Bはよく分かんないなと思いました。Facebookとかあるし、共有したらいいんじゃない? とか思っちゃって、共有することにあまり不便を感じてないのかなと思いました。やっぱり情報が多いので、ちゃんとした情報とか僕が欲しい情報が入ってきてほしいなと思いましたね。

青柳:なるほど。私は心からの満足を味わう時はBだなと思います。友達と共有する時に、SNSでシェアすればいいわけじゃなくて、その話が盛り上がるのかとか、相手がそれに興味があるのかということをちゃんと意識しなきゃいけなくて

日野:書いてあったそれ! この本に!

青柳:この話してつまんないと思われたくないし、相手が面白いと思うことを共有できるサービスはないかなと思います。

日野:みんな気を遣って生きているんですねー。

藤代:うん、これ普通に考えたらAなんですよ。情報が多すぎる時に欲しいサービスは「情報を的確に選択するサービス」に決まっているわけです。でも、これはAでもBでもどっちもありで、それを選ぶ人がどういう情報の接触態度をとっているかが大事ですね。

今青柳さんが言ってくれたように、なんでこんなに毎日のようにシェアとかいいねとか押しまくっているのにさらに大事な情報をきちんと共有したいと思うのか。実はそこで「ん?」ってなってほしいんですよ。

日野:僕、実はいまだに「ん?」ってなってます。

藤代:発信に関する本がすごいいっぱいあるけど、受信に関する本が全然ないということに似ていて、みんな、発信したら届くと思っているんですよ。だけどそんなことはないよということがこの本に書かれてます。どっちも正解でどっちにも意味があるので、それを紐解いていこうと思います。

情報過多時代の到来

藤代:これは博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所(以下、メ環研)の統計で、1日あたり何分くらいメディアを見ているかというと、400分です。

日野:ほぼ7時間。起きている時間半分ぐらいということですね。

青柳:私スマホのスクリーンタイム6時間とかです。

日野:iPhoneだけで6時間!? それは問題ですねー。あ、でもスマホで勉強とかもするのか。

藤代:そうですね。そういう時に問題だって言う時点でもう。

日野:おじさんかー。

藤代:美味しいったらありゃしないコメントでした。絶対言いたくなるんですよ、「スクリー ンタイム長すぎてやばいじゃん」と。あとお子さんいらっしゃるお母さんとか「YouTubeとか見まくっててなんなのよー」と言うんですけど、説明を聞いた後は首がもげるくらい同意するんです。それくらい状況は変わっているんですね。

いつスマホを使っている?

藤代:日野さんはどこでスマホを使いますか。

日野:トイレには必ず持って行っちゃいますね。トイレの時間もったいないじゃないですか。

藤代:トイレ派ね? 青柳さんはどうですか。

青柳:トイレでも見てます。

藤代:これ面白いことに、トイレ派は男性と若い女性。30代を超えてくると少なくなるんですよ。それと、家事の合間に女性がすごく見ているんです。

日野:あー、家事やってるから。

藤代:そうそう、まず家事をやっている時間が男性と女性で違うので。家事中にレシピサイトを見てたり、お湯が沸いている合間とかにYouTubeで短い動画を見て楽しんでるんです。青柳さんめっちゃ笑ってますけど、見てるんですか。

青柳:洗濯物ハンガーにかける間に、洗濯機の上のところにスマホ置いてYouTubeを流しています。

藤代:そういう感じです。だから400分行くのは当然だろうと。寝る前も、「やめなさい」とか言っている人いますけど、そう言ってる世代の人も案外見てます。歯磨きしながら見ている人が2割もいるんです。

日野:その間に歯磨き終わりそうですけどね。

青柳:え! 歯磨きしながら見ないんですか?

日野:僕は磨き時間が短いのかもしれない。

藤代:きちんと歯磨きしてください(笑)

まあ、みんないろんなところで見ているわけです。見ているところの違いや、年齢が分かってきました。テレビや新聞というのは生活にすごく密着しているわけではなくて、通勤前とかご飯を食べながらだったけども、スマホは24時間一緒にあるわけです。スマホの生活の密着度というのがすごく出ているということですね。

「若者はけしからん!」というおじさんへ

藤代:次はニュースを受動的に見るか、能動的に見るかについて。

日野:この話ねー。

藤代:クロスしているところに注目してください。20代から30代の間にこの能動と受動の境界があって、年齢を重ねるほど自分からニュースを取りに行くという能動的な態度があることが分かっています。今、16歳から19歳の人の半分が受動的です。

日野:受動的とはどういうことなんですか?

青柳:自分のタイムラインに、フォローしている人がリツイートしたニュースとかがポロっと入ってきて、本当に偶然に見る感じです。

日野:TwitterとかFacebookを開いて目に入ったものという取り方ということですね。能動的というのは「よし、ヤフーニュースをチェックするぞ」ということですね。

 

藤代:朝ワイドショーを見ようとチャンネルをまわすとか、テレビをつけるということは能動的なんですよ。新聞を開くとか。

日野:確かに。

藤代:でもソーシャルメディアは連絡ツールでもあるので、ずっと見てるじゃないですか。それから自然と入ってくるものだけで十分だという人たちが10代で半分います。これを見て、おじさんがまた言うわけですね。

日野:「けしからん!」ちょっと俺、これ今言うの我慢してたんですよ。

藤代:言ってくれていいんですよ(笑)

日野:僕らが会社に入った時には、「新聞は取れよ」と先輩に脅されていて。取っているかどうかで姿勢を問われるみたいな。

藤代:僕が新聞記者やっていた15年くらい前に、若者向け誌面を担当していたんですね。それで、「若者が見てくれない」と会社にプレゼンしたんです。そうしたら偉い人が「新聞見ない奴がバカなんだ! そんな奴ほっとけ!」って言ってました。放っておいた結果が今の惨状という感じですね。

日野:……。笑っていいのか分かんないですね。

藤代:情報は届かないということなんですよ。やれバズるだ、やれインフルエンサーだとか、そういうことやっていても、結局全然見てないわけですね。まずはズレている状況を抑えなきゃいけないです。

日野昌暢
1975年福岡県福岡市生まれ。2000年 九州芸術工科大学 芸術工学府 生活環境専攻修了。同年4月に博報堂入社。14年間の営業職を経て2014年よりケトルに加入。

「預かったご予算を着実な効果にしてお戻しする」という強い想いとともに、何が社会を良くするのか?を考えるデザイン発想で、事業企画や商品開発から、PR、プロモーション、マスメディアでの広告などまで、幅広い経験を活かした統合プロデュースを手がける。

また「本質的な地域活性」をマイテーマに、“外から目線”で地域資産を再編集し、地域のプレイヤーの“関わりしろ”を作りながら、事業、プロジェクト、プロダクトを共創し、開発して、情報発信を行っていくことを得意とする通称”ローカルおじさん”。

2020年には九州を取材テリトリーにしたローカル発Webメディア Qualities(クオリティーズ)を企画プロデュースし、創刊編集長。観光庁や文化庁の採択事業者へのコーチングなども多数行っている。

主な受賞歴に、2度のACC TOKYO CREATIVE AWARD グランプリ(2018,2022)、グッドデザイン賞BEST100(2022)、Spikes Asia ゴールド(2019)、カンヌライオンズ ブロンズ(2013,2019)、ADFEST ゴールド(2019)など。
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