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連載 : ”ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負

2021/04/13

“ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負 vol.6 七咲友梨×田中輝美×日野昌暢「ローカル発 新しいメディア、どうつくる?」『みんなでつくる中国山地』(中国山地編集舎)刊行記念 後編

日野昌暢

(写真:左から時計回りに 七咲友梨さん、田中輝美さん、日野昌暢。以下敬称略)

小規模分散で目指す"持続可能な社会”

七咲:小規模分散型という話があるじゃないですか。これについて輝美さん軽く教えていただけませんか。

田中:大規模で、グローバルでという流れを完全に否定するわけではないけど、それに持続可能性があるのかというのはコロナや気候変動の中で問われていることの1つじゃないかなと思います。

中国山地の小規模で分散しているのは一見効率が悪いけど、そこに全部地元があってそこでみんなの暮らしが成り立っていて、そういうあり方こそが持続可能性があって、100年続く地域の種になるのではないかということもテーマの中の1つです。

日野:めちゃくちゃ分かりますよ。実際それをやっぱ誰かが形にしていって、幸せになっていくしかないですよね。

新しい仲間に合えるメディア

日野:島根は人が減りすぎちゃって、新しく来た人を歓迎せざる負えないみたいな話がありましたよね。

田中:そうそう。

日野:いまだに富が残っていて踏ん張れるところは、よそ者が来たら「誰だお前、骨をうずめる気はあんのか」みたいなね。それを言っていられる場所がなくなったから、新しい人が入ってきて幸せを作り始めたんだと思うんですよね。

田中:だからRPGゲームみたいなものだと言っていて、島根とかは草っ原なわけですよ。

七咲:あはは

田中:新しい勇者きたー! みたいな。武器いるか? とか食べ物は足りているか? とかになるわけですよ。

だけど都会とかまだ余力がある地域は他にも勇者がいっぱいいるから「なんだと? 戦いに来たのか!」みたいな、どっちが上なのかわからないマウンティング合戦が始まるんです。

でも「草原だから新しい勇者きた! わっしょい!」みたいな、そんな感じに思っていただければ楽しさもわかっていただけるかなと

日野:そういう場合に何かマッチングされていくというか、求められている場所を見つけられる仕組みみたいなのがあればなぁ。

これはね、僕は『Qualities』でも考えていることでもあるんですけど、ウェブメディアとしてビジネスモデルをちゃんと作んないと継続していけないです。でも、とりあえずスポンサーをつけたり、自治体をつけるというのはやめようと思ったんですよね。そこで実際はUターンのいい人材を取りたいんだけど、なかなかその採用活動が難しいってところに人材マッチングするっていうことをビジネスモデルにしています。

『Qualities』をやっているとたくさんの方々を取材することになるんです。そうすると面白い会社をうんと掘り起こすことになるので、とっても素晴らしい会社さんをいっぱい知っている状態がもうすでに生まれています。

その人たちを横で繋げていくとコミュニティのハブになって、その先は中国山地の人の話と同じです。そうすると新しい事業体を生み出したりできるなと思っています。

メディアは報じるだけではなくて、その先に生まれるコミュニティを社会実装できる事業体を作るとか、そういう可能性が持てるものなので、そんな風にしていきたいと思っているんですよね。

田中:その未来像を目指す姿というのは、私とか七咲さんが思っているのと結構同じだなと。『みんなでつくる中国山地』の「みんなでつくる」には2つ意味があって、1つはメディアをたくさんの書き手で書くという狭義の意味もあるし、さらに広い意味では地域でつながっていって、それぞれの暮らしから地域をつくっていこうというところの2つがある。

そのためにメディアの視点からいうと、やっぱり本だけ出していてもしんどいじゃないですか。毎回毎回どれだけ売れるのかなあって。だからそれを一緒に支えてくれるコミュニティをつくるために会員制度をつくっているんですよ。会員は1年目だから何とか100人拝み倒して頼もうと思っていたら、今現在で160人も入ってくださってすごく感動しています。

日野:その話をした方がいいですね。

田中:みんなノルマみたいな感じで表を作っていたんですけど、もう告知から1週間で100人突破して、じわじわ増えて160人突破しました。こんなに手ごたえがあるメディア初めてで、すごく楽しい。

日野:単純に中国山地というエリアが広いからそこに関わっている人の総数が多いからなのかな。

田中:聞いていると、新しい仲間に出会えるのが楽しいとみんな言っていますね。

日野:そうですよね。

関わりしろだらけ

田中:地域で役割を見つけられて、その役割が自分の喜びでもあるというのはすごく手ごたえがあって楽しいですね。だからそういう生き方ができる若い人のお手伝いが出来たらいいなと思います。

あと「関わりしろ」だらけだってことも言っています。だから会員への発送も会員にお願いしたんですよ。最初だから何十冊と送らなければいけないんだけど、スタッフ全然いないし、「会員の皆さん発送祭りに参加しませんか」って。

日野:発送祭りね。

田中:そう。何でも「祭り」つけちゃえ! みたいな。単なる発送作業じゃつまらないから、フェスか祭りをつけることにしていました。会員も“みんなで送る中国山地”ですからねと言ってくれて。

日野:いいですね。そうやって送った思い出なんて一生消えないですからね。「一緒に送りましたね、創刊号」と言ったら何より楽しい思い出ですよね。

田中:お願いして、呼びかけていけば答えてくれる方がいて、楽しかったと言ってくれて、そうやって関わりしろがたくさんあるところにやりたい人が来てくれているんだと思います。そういうプラットフォームになりつつあるのかなとは思いますね。

みんなで見に行きたい黄泉の国の入り口

視聴者コメント:「100年続けていくとすると、新しいもの、暮らしのディティールだけでなく、山陰の地層を深く知ることも大事だと思います。出雲神話と弥生遺跡、和泉八雲、黄泉の国の入り口、妖怪など最強のテーマや郷土をディープに研究している方々のコンテンツや先人による文化の蓄積をもっと紹介してほしいです。語り継ぐ人がいない時に消えていってしまう恐れのある永続するべき価値だと思います」

田中:私たちもそういう歴史も大事にしたいと思っています。

七咲:この指とまれ方式で、会員になってくださった方々の中で、こういうところを掘っていきたいんだけど、仲間集まれみたいな感じでなにか生まれてくるんじゃないかと。

田中:そうね。島根を研究したい人に手を挙げてもらって、その人にオンライン講義で話をしてもらって、みんな集まってきて、実際の現場を見に行ってみようか。

黄泉の国の入り口とかあるから、見に行ってみよう、とゼミ活動みたいになり、会員同士が楽しくつながれたらいいというのは会員制度にした1つの狙いですね。

日野:よ、黄泉の国の入り口があるんですか?

田中:そう、あるんですよ。すごいでしょ。どやー!

七咲:知らなかった…。行きたい!

日野;なにか洞窟があるんですか?

田中:うーん、ぶっちゃけ普通の岩…? でも感じる人は感じるのかもしれないけど、そういう不思議スポット。ここが黄泉の国の入口だって誰かがいい出すわけじゃないですか。それがずっと2000年に渡って、100年どころじゃなく伝わっていることに感動で震えます

自分で自分の暮らしを作る

日野:中国山地は広いから決められないことが前提なんですが、本当におすすめですよというのを何か1つずつ紹介するなら、どうですか?

七咲:私がちゃんと長く滞在して撮りたいなと思ったのは岡山のパーマカルチャーをやっているカイルさん。アメリカ人で左官をやっているんです。

カイルさんが見た中で、左官技術は日本が1番だという結論になったらしいです。パーマカルチャーセンターというのを岡山の山奥でやっていらっしゃって、そこで家づくりとかのワークショップが行われています。実は源流は日本の里山文化だったというのをカイルさんから聞いてびっくりして。

田中:自分で自分の暮らしを本当につくっている感じですよね。築200年の古民家に住んでいると言っていましたよ。

ゲストハウスを宿り木に

日野:なるほど。輝美さんのおすすめはたくさんありすぎるから、1個に触れることがセンシティブですかね。

田中:どんな観点でいこうかな。地域の入り口に出会いたい人へのおすすめとしては、全国でも有名なゲストハウスが山口の萩にあるんですよね。

日野:山口も、萩も中国山地の中に入るんですね。

田中:そうなんです。そこに『ruco』というゲストハウスの走りみたいなところがあります。あと岡山の西粟倉村、ローカルベンチャー40社くらいが相次いでいたところに『元湯』という素敵なゲストハウスがあります。

日野:西粟倉については、5、6年前からいろんな話を聞いていて。地域通貨の話とかいろいろあって行きたいんだけど、1人でふらっと行くと誰にも話しかけられずに帰っちゃうみたいなね。でもゲストハウスとかいいかもしれないですね。

田中:そうそう。そういう感じで入っていくと多分教えてもらえるから、ゲストハウスがある地域は入り口としてはいいかもしれないですね。

日野:最近大学生とかも、ゲストハウスやりたいんだと言う人結構いますもんね。

田中:うん。やっぱりふるさと難民だからね。みんなつながりをつくりたい。でも、いきなり日野さんみたいに「こんにちは」って、話しかけにいけない人たちの宿り木なんですよ

そういうのを地域に作るのが大事だなと思いますし、私も地域に講演に行くときにゲストハウスがあったら大事にした方がいいですよと言っています。若者はそこに行きますから。

日野:なるほど、なるほど。

100年かけていい地域を作る

日野:100年というのをタイトルの1番頭に持ってきているけど、100年に込めた想いに関してのお二人のコメントはどうでしょう。

田中:そうですね。これは代表として一緒にやっている藤山浩さんの1番の想いなんですけど、「いまだけ」「自分だけ」というところが今の社会にあるんじゃないか。そうではなくて、自分の次の世代のことも含めた地域社会づくりという視座を100年くらい伸ばす必要性があると言っておられることが1つ。

もう1つは60年かけて過疎になってきたわけで、急激に戻すのも自然の摂理に反して反動が来るから、地域づくりも100年くらいかけてゆっくり理想の地域をつくる。それくらいのスピードがいいんだということ

それが結構衝撃で…。ついつい焦りがちなところを人々の営みとか暮らしをつくっていくというのは100年くらいかけていい地域をつくっていくんだという覚悟の現れというかそれぐらいの思いであり、100年見据えた視座も必要だよっていう2つの意味がこもっているということなんです。それでやるときに仲間が調べてくれて、100年をうたっているものって世の中にほとんどないんですよ。

日野:まあね。100年続くものってそうそうないですもんね。

田中:1つ珍しくあったのが『Jリーグ百年構想』なんですよ。

日野:ああ、そういわれてみればそうかも。

田中:あれサッカーのことは書いていなくて、社会のことが書いてあるんですよ。だからすごく面白いなと思いました。あとは西粟倉の『百年の森林構想』というのくらいしかなかったんですよね。それもあってそれくらい意気込んでいくのもありかなと。書き手も今一生懸命育てているし、もうそういう人たちには私たち先に死ぬから、あとよろしくねと言っています。

日野:はっはっは。

田中:お前らがやるんだー! って。あと30年くらいは頑張れるけど。

日野:ちょっと極端かもしれないけど、そのぐらいの視座にした方がみんなで何のためにやっているのかが共有しやすいですよね。

伝わるのは自分の心が動かされたもの

視聴者質問:「七咲さんに質問です。最近写真を始めてパチパチ撮っていますがファインダーを通して中国山地にアプローチするコツというか、心持ちやアドバイスがあれば教えていただきたいです」

七咲:もう心赴くままに撮るのがいいと思います。感動する前に撮るぐらい。

日野:感動する前に撮るぐらいってどういうことですか?

七咲:すごいと思ったらもうその瞬間終っているので、もう撮るしかないです。衝動に任せて。

日野:すごいと思って撮るんじゃなくて、すごいと思う暇があったらシャッターを押すと。

七咲:そうですね。

田中:ここはすごいんじゃないかと思って撮るってこと?

七咲:なんとなく匂ってきた瞬間に撮るというか。撮りながらすごいと気が付いたり、撮りながらいいところを発見したりして、それをまとめるというのもいいと思います。そうすることで自分の見え方がはっきりしてくるので。

田中・日野:ああー。なるほど。

田中:それってトレーニングで何とかなるのかな? 私最初にすごいと思ってから、だいぶたってから撮らなきゃと思うんだけど。

日野:普通そうですよね。

七咲:なんですかね。もったいないと思うからじゃないですかね。撮らなきゃもったいないって思っているから撮っている感じですね。

田中:ローカルジャーナリストの人に私が1番言ったのは、「これが地域の人が面白いんじゃないかじゃなくて、自分が心を動かされてモノを書いてくれ」というのはすっごく言ったんですよね。自分ニュースでいいんだと。自分の心の動きは難しいけど、他人軸ではなく自分のものさしが表現の根源な気がするな。それは写真もそうなのかな。

七咲:それが結局伝わりますよね。

田中:そう思う。自分の心が動いてないものは人の心も動かせないよと思う。

日野:最後にいい話になりましたね。

田中:あはっはっは! 日野さん思わない? クリエイティブってそうじゃない?

日野:いや思いますよ。『牡蠣食う研』とかもそうですけど、その人たちが絶対いいと思っているものは絶対にいいんですよ。さっきの地方活性が気持ち悪いという話は地方が主語じゃないですか。地方のためにやっているんじゃなくて、主語は地方に住んでいる人ですよねということですよね。

田中:そうそう。自分も含めてね。

日野:その人達が幸せにならないとどうしようもないわけだから。自治体の財政が壊れたら困っちゃうんで頑張らなきゃいけないのはわかるけど、そのために人口増やすのは逆ですよね、みたいなね。住んでいる自分たちがとても楽しくなって、関わりしろがあって、やりたいことができて、ちゃんと稼げるみたいなことが中国山地にあるんですよね。

田中:そう。これをやった原点に、最高と思っているのに全然知られてないなという感じがして、もっと共有したいという想いから始めたのはあります。

会員にならなくても本を読んでくださるだけでも十分だし、別に中国山地を好きになってくれということが言いたいわけではなくて、みなさんそれぞれの自分の地元を見つけて、自分の暮らしとどこで誰と生きていくのかということを幸せにできる地元を見つけて欲しいなと思っています

日野:僕も『Qualities』は九州を題材にしながら、でも結局ローカルで困っていることって同じ構造で困っていたりするので、その地域の資産を使って面白いことをやっている方々を紹介することで、別のエリアの方々も刺激受けて参考にしたりだとか、会いに行ったりとか、一緒に何かやったりだとかしてくれるといいなあと思ってやっています。

人をつなぐこともメディアの役割

田中:視聴者の方からコメントで、「メディアの役割にハッとしました。情報発信だけだと思っていましたが、人と人をつなげて社会をつくることという“社会をつくる”部分に感動しました。本が届くのが楽しみです」ですって。すごくうれしい!

日野:そうなんですよ。そこ僕も本当に大事にしたいと思っていて、形にしたいなとも思っていて、つないでいきたいし、つないだ後のことも。もともとメディアを作るためのプロデューサーなので、その先のほうがどちらかというと得意領域で、メディアはそのきっかけを作れる場所になれるのかなと。そういう風に思っています。

田中:そうそう。権力の批判ばかりしているのがジャーナリズムじゃないぞ、メディアは人をつなぐことも役割だぞと私は思っています。

七咲:中国山地だ、九州だと一応区切っているけれど、各地で同じように考えてやっている人たちがいるし、これから地域を超えてもっとつながりあっていくのもいいなと思いました。

日野:本当にそうなんですよね。ありがとうございました!

あとがき

人口流出、少子高齢化など解決する「べき」「問題」として地域について考えることが多かった私は、今回の十番勝負で「個人の幸せが出発点」という言葉を聞いて、それでいいのかと少しホッとしました。ローカルについて考えるというのは、そこにある暮らしの延長線上にあるものなのだと思いました。帰り道の路地を1本変えたり、入ったことのない最寄りの喫茶店の扉を叩いてみたり。まずは自分の半径10mから、自分が日々豊かに暮らしをつくるためにローカルについて考えていければいいなと思います。
(法政大学藤代研究室 齋藤萌音)

日野昌暢
1975年福岡県福岡市生まれ。2000年 九州芸術工科大学 芸術工学府 生活環境専攻修了。同年4月に博報堂入社。14年間の営業職を経て2014年よりケトルに加入。

「預かったご予算を着実な効果にしてお戻しする」という強い想いとともに、何が社会を良くするのか?を考えるデザイン発想で、事業企画や商品開発から、PR、プロモーション、マスメディアでの広告などまで、幅広い経験を活かした統合プロデュースを手がける。

また「本質的な地域活性」をマイテーマに、“外から目線”で地域資産を再編集し、地域のプレイヤーの“関わりしろ”を作りながら、事業、プロジェクト、プロダクトを共創し、開発して、情報発信を行っていくことを得意とする通称”ローカルおじさん”。

2020年には九州を取材テリトリーにしたローカル発Webメディア Qualities(クオリティーズ)を企画プロデュースし、創刊編集長。観光庁や文化庁の採択事業者へのコーチングなども多数行っている。

主な受賞歴に、2度のACC TOKYO CREATIVE AWARD グランプリ(2018,2022)、グッドデザイン賞BEST100(2022)、Spikes Asia ゴールド(2019)、カンヌライオンズ ブロンズ(2013,2019)、ADFEST ゴールド(2019)など。
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