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連載 : ”ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負

2021/04/21

”ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負 vol.9 早川鉄兵×對馬佳菜子×堀江昌史×日野昌暢「好きなことをずっと続けていくための戦略とは 〜滋賀篇〜」『白鳥になった王子』(能美舎)刊行記念 後編

日野昌暢

(写真左上:堀江昌史さん、左下:早川鉄兵さん、右下:對馬佳菜子さん、右上:日野昌暢。以下敬称略)

仏像とともにあるもの

日野:続いて観音ガールこと對馬さん。観音ガールとは何かという話から、どうやって生活しているのか、などについてお願いします。

對馬:もともと東京で生まれで長浜に3年前に来ました。仏像が好きになったきっかけは、仏像自体が何百年という時代を生きていることに強いインスピレーションを受けたからです。この仏像は信長も知ってるし、源頼朝とか平清盛もみんな知ってるんだな、みたいに思っていたら「仏像と対話する」ということは単なる美術鑑賞じゃなくて、「昔の人との対話する」ということなのかな、と思い始めて仏像にはまりました。

ずっと昔に家族と行った奈良の仏像が好きだったんですが、仏像好きのネットコミュニティで「他を知らないのに奈良が一番とか言うなよ。とりあえず長浜に行ってみて、そこの仏像とそこにいる人たちを見てからどこがいいとか言った方がいいよ」と言われたんです。

実際に行ってみると、もちろん仏像そのものもいいんですけど、仏像を守っている方々が本当に温かくてですね、今ではこんな感じです。

對馬:年齢こそ離れていますが、仏像が好きという思いは同じです。

對馬:それから、これ本当は阿弥陀さんなんですけど、地域の人には「観音さん」と呼ばれてとても大事にされている仏像で、特に滋賀県内や湖北はただ仏像がいいというよりも仏像と一緒に暮らしている人たちもいるからいいんだなと思っています。

暮らしの中にある仏像

對馬:高月町のとあるお寺のお堂には、仏像のそばに水の入ったバケツが置かれています。

日野:なんですか? これ。

對馬:湿度管理兼、防火対策用のバケツです。今となっては文化財用の消火器もありますが、未だにこのバケツを置いています。

日野:仏像が燃えるほどの火が出ている時に、このバケツで対処できるとはどうしても思えないんですけど(笑)。

對馬:そうですね。江戸時代くらいから変わっていないと思います。

それからこの写真は「仏像避難用の白い布」と書いてありますけど、この地域には戦国時代に賤ケ岳合戦の戦火に巻き込まれた時に、地域の方がさらしで仏像を包んで背中におぶって逃げた話があるんですね。未だに戦国時代と同じ対策がなされているのが驚きでした。

こうしたことから分かるのは、東京に住んでいた人間にとって「歴史=古い昔の全然関係ないこと」みたいな感じですけど、滋賀県や湖北の方にとって、「今は歴史の延長線にすぎないもの」だと。本当に歴史が暮らしの中にそのままあり、これは面白い! と惚れました。

最大限の時間を仏像に費やすために

對馬:これは御開帳している時のお祭りの様子ですけど、ここから「地域にとって仏像はどういう存在なのか」を地域おこし協力隊の間に探り、今はそれを踏まえて「仏像がこれからどうあるべきなのか」や「どういう風に仏像の面白さを伝えたらいいのか」をずっと考えています。

協力隊は2020年の夏で終えているので、それ以降は仕事としてやっています。最初は仕事として仏像や観音文化を考えようとは思っていませんでしたが、活動する中で「仏像を守り伝えていく」ということをいろんな人に考えてもらうために、ただ好きなことをプライベートでやるだけでは時間が限られてしまうので、それを仕事にして最大限の時間を仏像の為に割く方が絶対いいと思ったので仕事にしました。

地域に入っていくための戦略

日野:好きなことを仕事にしながら生活をしていく中で、御三方が移住者として地域に入って行ったり、自分の立場を地域で作ったりする時に意識されていたことはありますか?

早川:この前ちょうどそのことについて家族と話していて、体育会系の人はおそらく地域に入りやすいよね、と話していました。

對馬・堀江:あははは(笑)。

早川:「先輩の言うこと絶対じゃん」みたいな。それが正しいか正しくないかは分からないけど、對馬さんが言ったようにバケツが本当に最善かどうかは置いといて、バケツでやってきたことの方が尊重されるのが地方なので、素直に最初は受け入れるべきなんです。そうしてまずは地域の先輩から習い、そのうち自分があれこれを任せられるくらいになったら「バケツじゃ、やっぱりちょっと……。今文化財にも使える消火器があるんですけど、どうですか?」という提案ができると思います。その順番を間違えると、「もうお前の話は聞きたくない」となってしまうんじゃないですかね。

日野:滋賀の人でもそういう風になりますか?

早川:なると思います。都会は分かりやすくて、何か買いたいとか何かサービスを受けたければ、お金を出せばそれに見合ったサービスを受けられます。でも、田舎の人は「お前には売りたくない」と普通に言うんですよ。

日野:買うと言ってるのに、お前には売りたくないと。

早川:そうです。「わしゃお前が嫌いだから売りたくない」。でもその逆で、「わしゃお前が好きだからこれ持っていけ」ということもあるんですけどね。

對馬・堀江:ありますね(笑)。

早川:結局のところ信頼や人が一番重要なんです。でも改めて考えると、人間という生き物の根本はそこではないかと。大きなコミュニティじゃないので、それぞれの個性がとても分かるんですよ。「あのおじさんに今日も文句言われた」ということが続くと分かってくるんです。

「あのおじさんは何を言っても文句を言うから、文句を言わせておくのがコミュニケーションだ」ということが。それで、文句を言われたらラッキーというか、ちゃんと会話ができたと自分が受け止められれば、みんなと仲良くなれます。

日野:あー、なんかとても深いですね。

早川:「怒られに行く」というコミュニケーションの取り方というか、当然ながら期待してなければと任せないですし、その場合は任せないから怒らないんですよ。だけど信頼の先には任せたい思いがあり、だから怒るんです。ゆえにうるさく言われてなんぼじゃないかな。

体育会系じゃない人はどうする?

日野:もともと私は体育会系なので「なるほどな」と思うんですけど、世の中の大半の人は結構体育会系じゃなくて、今の話だと体育会系じゃない人たちがガラガラっとシャッターを下ろしそうなんですけど。

對馬:そうですね(笑)。私は体育会系じゃないんですけど、でも話すことが苦手な子と仲が良くて、相手の話が終わるまでしっかり聞いたり、逆にこっちがまず全てをさらけ出すことで相手に「話そうかな」と思ってもらえるように意識していました。

それをさっきのバケツの話で言うと、いきなり「こうしたほうがいいんじゃないですか」と言うと、向こうの人からしたら自分たちが今までやってきたことを否定されることになりかねないんです。そういう意味で相手がどう感じるのかをどれだけ汲み取って話せるか、相手と向き合えるかが大事です。

その意味で体育会系じゃない人も、「この感じ、向こうが空気的に今日はあんまり良くなさそうだから、ほどほどにおとなしくとりあえず過ごして、また別の日に行こう」とか、温度感を感じ取る力があれば全然いけると思います。

移住者であることを忘れない

日野:なるほど。堀江さんどうですか?

堀江:私は移住者として今の集落に住んでいるんですけれども、その立場を忘れないようにしていて、いつでも私は移住者というコスプレで村人に会っています。自分の役割や立ち場を忘れてしまうと村人の生活を脅かす存在になってしまい、結果として追い出されてしまいかねないです。

もちろん早川さんが言っていたように、話を受け入れる順番や話を持って行く人の順番もとても大切で、それを間違っただけで上手くいかないこともあります。他にもさっきの話にもあった「バケツを仏像の横に置いておく」ということも傍からみれば正解じゃないかもしれないですけど、でも正解を求めることがその生活の良さではなくて、みんながしたい生活ができることが正解で、村の正解と社会の正解が同じではないんだと思うんです。

日野:なるほど、深いなあ。あのバケツを置いた方もこんなにバケツの是非に関して議論されているとも思ってないでしょうね(笑)。

一同:ははは(笑)。

心地よく、好きなことをやるために

日野:僕が滋賀に行った時に堀江さんが「私は好きなことをしたい」と何度も言っていたんです。

これと似た話に僕が以前参加した別のイベントで「地域の役割を担うことによって、自分の興味無いことに時間が取られてしまっては本末転倒ではないか」という意見がありました。最終的には「それは違うかもしれない」と議論にもなったんですけど、結論は出なかったんです。これについて堀江さんはどう考えますか?

堀江:それはまたバケツの話に戻ってしまうんですけど、集落には婦人会がまだあり、地域の役員をしたり、駐車場の掃除に出て行ったり、公民館の窓ガラスを新聞紙で拭いたりいろいろしています。大切なのは村の人たちに移住者として受け入れてもらうだけでなく、村の人たちの心地よさを保つ努力を自分がすることによって自分の生活が心地よくなるんですね。村の人たちが移住者である私たち家族のことを、移住者で嫌な存在だと扱えば、私たちの暮らしは心地良くなくなってしまいます。だから自分たちの心地良さを保つために、まずは村の人たちの心地良さを保つことが大切なんです。

日野:うーん、なるほどね。今、地域と幸せに暮らしている皆さんが持っているその感覚は、とても大事なのでしょうね。

地域と関わることも含めて田舎

日野:御三方は今から移住しようとしている人にお伝えしたいことは何かありますか?

早川:よく思うんですけど、都会の人間関係に疲れて田舎でゆっくりしたいみたいなのはちょっと間違っていて、人間関係のコミュニケーションスキルがいるのは田舎の方なんですね。もちろんさっきの自治会とかに参加したくないというのもとても分かります。でも都会ほどシステム化されてないからこそ、人とのコミュニケーションが大切だし、やりたくないことも含めて田舎というパッケージになっているので、そこも楽しめないんだったら、ちょっと考えた方がいいんじゃないかなと思っています。

実際のところ、より田舎を楽しむ方法や知恵なんかは面倒臭いことに関わっている時に得られるような気がしています。私は自治会の消防団をやっていて、そこではおじさんたちからいろいろな話が聞けますし、そういうのも楽しめるなら全然苦じゃないです。

日野:そこにある人の営みにはもちろん面倒くさいことや大変なこともあるし、コミュニケーション力も必要だけど、それもやっているからこそ切り絵の仕事もやっていけているということですよね。

早川:そうですね。自然とともに暮らしてきた猟師さんや農家の方々の話を聞くので、そこで本当にたくさんのことを吸収できています。だから對馬さんみたいに歴史だったり、僕みたいに自然だったりに興味がある人は、自治会的なことに参加するとより視野が広がると思いますね。

堀江:早川さんの言う自然や對馬さんの観音文化、私のやっている食文化。地域にあるものすべてが地域にいる人たちが守ってきたものなんですよね。私たちは結局、そこが好きで移住してきて、それに魅力に感じて住んでいるわけです。だから地域をずっと守ってきた人たちを出会った時からある程度敬う心を持って移住してきているのはみんな同じじゃないですかね。

早川:そうかもね。だから僕らは若干意見としては偏っていますよね。

一同:はっはっは(笑)。

堀江:まあ元々好きだからね(笑)。

ローカルあるあるの回避術

早川:でも結局のところ、面倒臭い時は多々ありますよね。

堀江・對馬:うんうん(笑)。

堀江:面倒臭い時は逆に自分が移住者であることを上手く利用するというか、「私はちょっと分からないから参加できない」みたいに距離感を使うこともあります。

日野:そういえば堀江さんはある技を身につけたと言っていましたよね。

堀江:普通は怒りたくなっちゃうようなことを言われた時には「ええっ!?」とびっくりするんです。

日野:とってもシンプルなソリューションですよね(笑)。

對馬:でもそうだと思います。なんかもう笑うしかないことは何度もあって、それ込みで楽しむというか……。

堀江:うんうん。すぐに怒りにつなげていい場面が分からない時は、驚いておけ! みたいな感じがします。

早川:大げさ気味に謝りに行くと、逆にかわいがってもらえることもありますよ(笑)。
「本当にとんでもないことをしてしまって、ごめんなさい」と言ってみたら、なんや帰りは野菜もらって帰ってきたけど? みたいな。

對馬:ここまで失敗した前提になっていますが、大事なのは自分で線引きをして、これは絶対イヤとか、それならまあ許せるとか判断したうえできちんと伝えることだと思います。

自分を認識してもらうために

日野:続いて、自分がやっていることをどのように地域から発信して、相手に認識してもらっているのか、その時に気を付けていることもあれば教えていただきたいです。

堀江:早川さんは圧倒的に作品の魅力が強いですよね。

早川:でも、手法も大事だと思います。今はSNSにあげたからといって見つけてもらえる時代ではなくなってきた気がするんですけど、とはいえ何か発信し続けていないと絶対に引っかからないし、SNSにあげてることがアーカイブになり、誰かに見てもらえたりもするので、そこはまず最低限しなきゃいけないと思っています。

後は都会でも切り絵作家さんも、観音ガールもどちらも絶対数が少ないことをしているのですが、何か自分の中でとがった部分や個性を出して、なおかつ地方でやっていると見つけてもらいやすいので、その都度こなしていくことが大切かな。

日野:そうですよね。チャンスを活かしていくことの積み重ねしかないんでしょうね。

心からの言葉

日野:今月滋賀を訪れた時に、堀江さんがとにかく楽しそうに滋賀を案内してくれたんです。その時に「好き」という言葉をよく聞いたなと思っていて、それが今回の一番のテーマでしたが最後どうですか?

堀江:本当にその通りで、冒頭で紹介したがんになってしまった永田さんが最後亡くなる前日くらいから「私、幸せよ」と言っていたのが心の中に強く残っていて、幸せというのは自分の為に言う言葉じゃないなと気付きました。

「私、幸せ」という言葉には「あなたのケアに心から満足してるよ」と伝えてもらった感じがして、例えば家族に「私、幸せ」と死なれたら残された家族も少しは明るい気持ちになってくれるかなと思うんです。

でも最期には心からそう思ってないと、「私、幸せ」とは言えない気がするので、その言葉を心から言うために、毎日好きなことをしようと思って生きています。

日野:いい話だなあ……。

日野:最後に木ノ本駅でね、堀江さんが「大好きなお惣菜のお店があって、そこのお惣菜をどうしても食べて欲しいです」と。電車あと15分くらいで来るんだけど……と思いながら、それでも「これを食べたほうがいいです! これも絶対食べた方がいいです! これもめちゃめちゃ美味しいです!」と言うんです。

別に飛び切り腕のいいシェフが作ったとかじゃないんですけど「本当においしいんです!」と言われてお勧めされる料理ほどのご馳走はないな、とあの時感じました。とても楽しかったです。

堀江:あはは(笑)。

自分が自分に咲きほこれる場所で

日野:今日は「好きなことをし続けていくための戦略」ということで、最後に堀江さんに話していただいたんですけど、早川さんと對馬さんも一言ずついかがでしょうか。

早川:本当に日々幸せです(笑)。地域に溶け込めると、家族でも友達でも仕事関係でもない新しいコミュニティができて、そういう存在はとても自分を強くしてくれるし、もし仕事で失敗しても、僕のことを別に切り絵作家だからとか、大きな仕事してるからじゃなくて、ただ一人の人間として受け止めてくれる場所があるのは本当に幸せなことだし、強くなってまたここからチャレンジをしていこうと思える場所になっています。堀江さんの言うように上手く地域に入れると、幸せだなと思いながら最後に死ぬことができるんじゃないかなと思います。

日野:ありがとうございます。對馬さんいかがでしょうか?

對馬:私は新しいことにチャレンジすることがとても苦手で、普通に一般職で過ごそうと思っていたんですけど、このままだと「あれやってみたかったな」とか言って死にそうだと夢で見たんですね。
それ以来何をしたいとかじゃなくて、何かをして、やってやったぞ! みたいに思えることをやった方がいいなとある時思いました。失敗とかは結構途中から笑えるようになってくるんですけど、後悔はずっとそのまま壁として残ったままで、次の課題とか次のステップに行けないので、なんか生きるということはそうなのかなと。

堀江:27歳ですよ?(笑)

日野:確かに(笑)。
コメントで「めちゃ面白かったです」というコメントをいただいています。この十番勝負でいろんな地域での実績を残しておられる方をおよびしてお話を伺っているんですけど、今回はこれこそ原点だったと思って、僕も今回このイベントをできてよかったです。

はい。じゃあちょっと名残惜しくもありますが、僕もまた滋賀に是非お伺いしたいなと思います。ありがとうございました!

あとがき

地域にはこれまでの暮らしや営みの積み重ねがあり、そこで受け継がれているものは、地域の人々にとって大切なもの。そうして受け継がれてきたものを尊重し、自分も協働することで地域の一員になり、地域に応援される人になることができる。
しかし、今回語られたことは、ただ応援される人になることや地方で成功するバイブルではなくて、一人の人間として忘れてはいけない、相手を思いやることや誰かと一緒に暮らすために大切な姿勢そのものだなと感じました。
(法政大学藤代研究室 後藤幸樹)

日野昌暢
1975年福岡県福岡市生まれ。2000年 九州芸術工科大学 芸術工学府 生活環境専攻修了。同年4月に博報堂入社。14年間の営業職を経て2014年よりケトルに加入。

「預かったご予算を着実な効果にしてお戻しする」という強い想いとともに、何が社会を良くするのか?を考えるデザイン発想で、事業企画や商品開発から、PR、プロモーション、マスメディアでの広告などまで、幅広い経験を活かした統合プロデュースを手がける。

また「本質的な地域活性」をマイテーマに、“外から目線”で地域資産を再編集し、地域のプレイヤーの“関わりしろ”を作りながら、事業、プロジェクト、プロダクトを共創し、開発して、情報発信を行っていくことを得意とする通称”ローカルおじさん”。

2020年には九州を取材テリトリーにしたローカル発Webメディア Qualities(クオリティーズ)を企画プロデュースし、創刊編集長。観光庁や文化庁の採択事業者へのコーチングなども多数行っている。

主な受賞歴に、2度のACC TOKYO CREATIVE AWARD グランプリ(2018,2022)、グッドデザイン賞BEST100(2022)、Spikes Asia ゴールド(2019)、カンヌライオンズ ブロンズ(2013,2019)、ADFEST ゴールド(2019)など。
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