SHARE THIS PAGE

ようこそ
カテゴリ
会社情報
閉じる
連載 : ”ローカルおじさん”の地域活性のホント 十番勝負

2021/05/21

“ローカルおじさん”の地域活性のホント十番勝負vol.8 徳谷柿次郎×嶋浩一郎×日野昌暢「PRパーソン必見! 地域活性へのパブリック・リレーションズの活かし方」前編

日野昌暢

博報堂ケトルの“ローカルおじさん”こと日野昌暢が、本質的な地域活性を考え、実践する方々を本屋B&Bのイベントにお招きしたローカルシリーズ十番勝負の8戦目です。記事は法政大学藤代裕之研究室の学生がまとめています。

ゲストは株式会社Huuuuの代表取締役で、ウェブメディア『ジモコロ』の編集長や『Gyoppy!』監修などを通して、47都道府県を編集する、徳谷柿次郎さん。そして「欲望することば~社会記号とマーケティング」などの著書(松井剛 一橋大学教授と共著)もあり、2011年からPRのプロになる人気ゼミを開講しているB&Bの嶋浩一郎とともに、「PR(パブリック・リレーションズ)思考の必要性」について考えます。

PRの力を必要としている地域にとっても、コロナ禍だからこそ何かしたいと考えるPRパーソンにとっても、新しい力を必要とする地域のローカルプレイヤーにとっても、大きなヒントになるに違いありません。


徳谷柿次郎(とくたに・かきじろう)
1982年生まれ。大阪府出身。東京と長野の二拠点生活中。全国47都道府県のローカル領域を編集しているギルドチームHuuuu inc.の代表取締役。どこでも地元メディア『ジモコロ』、小さな声を届けるウェブマガジン『BAMP』の編集長、海の豊かさを守ろう『Gyoppy!』の監修、TBS系列のニュース番組『Dooo』の司会、長野市善光寺近くでお店「やってこ!シンカイ」のオーナー、雑誌『ソトコト』でも毎月コラムを連載。趣味はヒップホップと民俗学。

嶋浩一郎(しま・こういちろう)
1993年博報堂入社。コーポレートコミュニケーション局で企業の情報戦略にたずさわる。2001年朝日新聞社出向、『seven』編集ディレクター。2002~2004年博報堂刊『広告』編集長。2004年本屋大賞立ち上げに参画。2006年既存の手法に縛られない課題解決を目指しクリエイティブエージェンシー博報堂ケトルを設立。主な仕事、資生堂、KDDI、J-WAVEなど。2012年東京下北沢にブックコーディネーターの内沼晋太郎と本屋B&B開業。


日野:ローカルおじさんの地域活性のホント十番勝負の第8戦は2人のゲストをお迎えしています。

(写真中央:『ジモコロ』編集長 徳谷柿次郎さん、写真右:博報堂ケトル 嶋浩一郎、写真左:博報堂ケトル 日野昌暢 以下敬称略)

日野:1人は私が所属している博報堂ケトルの創業者であり、B&Bの創設者でもある嶋浩一郎さんです。よろしくお願いします。

一同:よろしくお願いします。

日野:僕は地方によく行くんですけど、ケトルの名刺出した時は大体、「嶋さんにいつもお世話になってます」と言われます。嶋さんが地方に行ってるらしいという話は聞くんだけど、そこで何してるかはよく分からないので、今日はその辺も聞いてみたいなと思います。
嶋さんは本屋大賞というアワードを最初に企画した人なんですよ。「自分だったら違う本を直木賞に選ぶんだけどなあ」という本屋さんの不満を耳にした時に、本屋さんが選ぶ本の賞を作ればいいじゃないかと思いついて。そうやって世の中にある価値を、編集やPRのスキルを使って新しい価値に上書きしていくというような仕事を通じ、日本PR業界の第一人者として活躍している弊社の嶋です。

徳谷:めちゃめちゃハードル上がりましたね。

日野:今日はPR業界以外の人も聞いているので、嶋さんのことを分かってる前提で話していくと、見てる人がきょとんとしちゃうと思うので、あえてちょっと詳しめに喋りました。

徳谷:しっかりされてますね。

日野:で、このいい相づちを打ってくれてる方が徳谷柿次郎さんです。いやー、相づち力高いですよね。

徳谷:いやいや、全然(笑)。

日野:柿次郎さんと喋ってると、なんか嬉しくなっちゃうんですよね。なぜならば相づちが上手だから。

嶋:全部を肯定してくれるような。

徳谷:『ジモコロ』という地元のメディアの編集長を5年やらせてもらってるんですけど、取材をする上で相づちをしないとおじさんは喋ってくれないので。

嶋:相づちはおじさん対応力から生まれたと。

徳谷:そうですね。「本当に僕はあなたに興味がありますよ」としています。それも本心なので。

日野:取材でどんどん気持ちよく喋っていただいて引き出していくのは、メディアの編集者として大事ですよね。
柿次郎さんが作っている『ジモコロ』はウェブメディアですよね。

徳谷:はい。こっちは記念で作った、紙のフリーペーパーです。

 

(出典:ジモコロの記事 2017年7月11日より)

日野:僕も相当地方をウロウロしてるけど、多分この3人の中では柿次郎さんが一番全国をウロウロしていますよね。そんな徳谷さんです。

徳谷:徳谷柿次郎です。よろしくお願いします。

まずはビールで乾杯

嶋:今日は東京の下北沢にあるB&Bという本屋から中継しています。B&Bは「Book&Beer」で、普段はビールが飲める本屋なので、今回ビールを飲みながら話させていただこうと思います。

徳谷:乾杯! いただきます(一気にビールを飲む)。

日野:すごいグビグビと……(笑)。初めて本物のグビグビという音を聞きました。

日野:柿次郎さんと十番勝負の中で絶対ご一緒したいなと思っていまして。で、柿次郎さんに誰とやりたいですかと聞いたら、嶋さんと会ったことがないということだったんですね。

徳谷:そうなんですよ。

日野:嶋さんと話してみたいと思ったのはなんでですか?

徳谷: 1つは「なぜ会えないんだろう?」というところですね。「もしかして嫌われてるんじゃないかな?」みたいな(笑)。今年の3月にお会いできそうな機会があったんですけど、コロナとかの影響で会えなくて。これはもうこちらから「会わせてください!」と言ったほうが早いんじゃないかなと思いました。

日野:これも、ご縁ですね。僕も嶋さんとこういうところで喋るの実は初めてなのでちょっと緊張してるんですけど、楽しみにしています。

PRと広告の違い

日野:地域の仕事をいろいろやらせてもらっているんですが、予算が東京の仕事のようにふんだんにあるわけではないので、広告をバンバンうつのではなくPRの手法や考え方を使って地域の資産を編集して、それをみんなが面白いと思ってやるということが大事だなと思いながらやっています。今日は、その辺の話を嶋さんにいろいろ教えてもらったり、柿次郎さんがやっていることの中から発見をもらったりできればと思います。ところで、世の中の人は「伝える」という意味でPRも広告も同じだと思っているんですよね。でも広告業界の中で言うと、その2つは明快に違うんですよね。嶋さん、PRと広告の違いを……。

嶋:それでは、日野の理解を、まず。

日野:広告はお金を払ってメディアの枠を買い、その枠の中で言いたいことが伝わるように、素材を作って乗っけます。PRは、メディアの方々に情報を案内して、「面白いね」とか、「これは伝えるべきだ」と思ってもらい、メディアの方々がそれぞれの編集方針に従って、記事や映像にして取り上げていくものです。PRはメディアに対してお金払わないんですね。

徳谷:はあ、なるほど。

日野:なので、メディアの人たちに必要な情報だと思ってもらえれば、全国の番組で紹介してもらえたりするわけなんです。広告だけがいいとか、PRだけがいいというわけではなくて、達成したい課題解決の中で、広告的手法とPR的手法をそれぞれ考えてやっていくことができると作戦の幅が広がります。嶋さん、合ってますか?

嶋:合ってますよ。つまり広告は、簡単に言えば土地を買うんですね。新聞で言えば1ページ、それを僕らは15段と言いますけど、そしてテレビで言えば15秒とか。そこを買えば、基本的に自分の言いたいメッセージを描いた広告を掲載できる。
PRは、新聞記者やテレビのディレクターに会って、「こんな面白いことがあるんです」と言っても、話を聞くメディアの人間は載せる筋合いはそもそもはないわけ。「メディアの人が面白いと思ったら、視聴者や読者に伝える価値があると思ったら放送したり、載せたりする」という大きな違いがあります。
これは見てる人にとっては、情報の受け止め方の信頼度が違う。短時間に大量に情報を流すためには広告ってすごくいいと思うんですけど、「今日あの会社の広告流れないかなー」と思って朝から待っている人はなかなかいないでしょ。

徳谷:確かに、一回も思ったことないですね。

嶋:でも、「今日は伊集院光のラジオを聞かなきゃ」と待ち望んで聞く人はいっぱいいるし。「『BRUTUS』は俺の好きな情報載ってるから読まなきゃ」とか。マーケティングの世界でレリバンシーって言うんですけど、能動的な関係性みたいな事ですね。だからテレビCM流れてる時の注目度と、『BRUTUS』を読む時の前のめり度は……。

徳谷:全然違いますね。

嶋:地方の場合は、自治体のみなさんとかが発信したい情報が、広告とPRどっちの方が一生懸命見てくれるかと言うと、PRの方が効くよねというふうに考えることができる。

PRの本当の意味

嶋:いろんなローカルの魅力を発信したいからこそ、あえて苦言的に言わせてもらうけども。

日野:いいですね、苦言。

嶋:PRというのはメディアにこちらの情報を取り上げてもらうということ、つまり「パブリシティ」だと思われてる方がすごくいっぱいいて。「メディアに紹介されました」とはしゃいでる方が多い。それは、確かにPRの1つの手法なんですが……。

日野:うんうん。

嶋:でもPRの本当の意味は「パブリック・リレーションズ」で、合意形成を作る仕事なんです。それは何かと言うと、今までにない概念とかを定着させるのが本来のパブリック・リレーションズの仕事なわけです。例えば旅行に行く時、「旅館やホテルに泊まるのは当たり前だよね」というのが今までの既成概念だとしたら「いや、民泊っていうのがあっていいじゃない」という新しい概念が現れる。最初は変なものだと思われちゃうかもしれないけど、それをみんなに浸透していくような活動をするのが本来のパブリック・リレーションズです。
その定着の仕方の1つがパブリシティという技術で、影響力があるマスメディアの人たちに紹介してもらったり、番組にしてもらったりするのがPRの出口の1つということですね。

日野:企業がお金払って広告を出しているのとは違って、例えば「これが第3のビールです」と1個のジャンルであることをメディアが発信していくことによって、その存在が認知されて変われるようになっていく状況を作るのがPRの本来の目的であるということですね。

嶋:何が苦言かというと、本来のPRは新しい概念を伝えなきゃいけない。それはまだ価値が分からない、「これ何?」という、不思議なものを紹介してもいいんです。地方の観光行政に関わっている人たちに対してどうなんだろうなと思うのは、みんな既に評価が固まっているものを発信することを目指すんですよね。
手法とかやり方とか、地方を活性化するための活動はいろいろあるじゃないですか。でも、例えばゆるキャラが流行ると、全国あらゆる自治体がゆるキャラ作ったりして。前の年に、おもしろ動画が流行ると「私の市も動画を作りました」みたいな。

徳谷:いやあ、そうっすね。

日野:前例主義ですからね。

嶋:最初に作ったところは、今までまだ誰も見たことなくて評価が固まってないけどそれに挑戦した。で、それが面白かったからみんなが「いいね、それ」と言うわけで。
僕らもサラリーマンだから、失敗したくないから新しいことをやりたがらない人もいるのは分かりますよ。ただ、世の中の価値が定着してないものとか、よく分からないけど面白いものはローカルにめちゃくちゃいっぱいあるのに、誰かがどこかで価値を定めてくれるまで発信をしないという感じですね。

徳谷:確かに、順番待ちしてる感じがありますね。「早く見つけてよー」みたいな。

 

地域の面白いことの見つけ方

日野:柿次郎さんの『ジモコロ』は、「こんな所にこんな面白いことやってるおじさんがいる!」と突っ込んでいって、その人の人生とか考えてることにフォーカスして、編集して出していると思うんですけど、いつもどうやってネタを見つけてるんですか?

徳谷:現地の人に、「やベーおじさん紹介してください」と言うこともあります。あとは、あちこち地域を移動してる人からの、「この人に会っておいた方がいいよ」というタレコミにただ身を投じれば、目の前に急に強敵が出てくるっていうのが『ジモコロ』のネタ探しかもしれないですね。

日野:メディアなので、編集長柿次郎さんが面白いと思ったものを取り上げていくわけじゃないですか。嶋さんが言っている、メディアが取り上げたくなるような、価値が定まっていないけど新しいことみたいな。

徳谷:はいはい。

日野:僕自身、『Qualities』という九州をテリトリーにしたローカル発ウェブメディアをやっていまして。ビジネスの視点から見て、面白いことやってる人たちの情報って地域経済にとってすごく大事なのに、ビジネス系メディアって全部東京に集中してるので、プレイヤーも東京に集中しちゃうんですよね。それがもどかしいなーと思っていて。
嶋さんの言う通り、地域をウロウロしたら、面白い人がうじゃうじゃいます。そういう人たちを九州という塊の中で取材して、ウェブにアーガイブしていくんです。その人たちがどう面白いかとか、何をしようとしてるのかというのがローカルでも可視化されないと、せっかく面白いものがあるのに知られずに終わっていくので、すごくもったいないなーと思ってやってるんですよね。
だから今はメディア側の気持ちも持ってやっていますし、でも元々広告側なので、メディアに取り上げてもらうためにはどうしたらいいんだろうということも掛け算して考えています。

PRをするための「編集」

徳谷:その点でいうと、僕はパブリック・リレーションズというものをあまり知らなかったのと、多分得意じゃないんですよ。
『ジモコロ』でやっていることは、もともと日本にあったもので、みんながちょっと忘れかけているものを、もう一回スマートフォンで読みやすいものとして掘り起こしてあげているだけというか。

嶋:それ自体が「パブリック・リレーションズした」ということです。

日野:おっ、やってた!

嶋:だってみんな忘れてしまったのを「実は面白いよ」と言うのは、新しい概念を世の中に提示するってことだから。

徳谷:僕、やってたんですね。

日野: PRをやるためには「編集」をしなきゃいけないと思っているんですけど、編集ってもちろん、本や新聞を作るためのプロセスとして、写真とか文章の繋ぎ方を考えるというのもあると思うんです。でも、広義の編集というか、別に文章とか写真、映像じゃなくても、街そのものとかお店の中とかに対しても「編集」という概念はありますよね。

嶋:例えばさ、青森出身の版画家で棟方志功さんがいるじゃないですか。
で、ナンシー関の本を読んでたら、「この人青森県出身なんだ」と思って。青森は棟方志功がいたから、小学校とかで版画を習うんですよ。それでナンシー関は版画が得意になって、中学校の時に消しゴム版画を始めるわけですよ。クラスで掘ってたら人気になって、それからもう病みつきになって消しゴム版画をやり始めたと。
ナンシー関さんはご実家がガラス店で、棟方志功記念館がすぐ近くなんですよ。そういうのを発見すると、青森はとにかく「掘る」ということなんだよねっていう見立てができるんですよ。

徳谷:なるほどなるほど。

嶋:つまり編集作業ですよね。そうするとナンシー関の本を読んだ後に、棟方志功の記念館も行かなきゃいけないとか思っちゃうわけですよね。

日野:ナンシー関がきっかけで、棟方志功にいくわけですね。

嶋:そうして棟方志功の記念館に行くと、その近くに縄文遺跡があるんですよ。その遺跡では縄文人がものすごく木を削ってるんです。木を削ってできた、すごい巨大な建築物があった話を聞いたら、頭の中でどんどん繋がっていって。

日野:「あっナンシー関じゃん!」みたいな。

嶋:ナンシー関から棟方志功から縄文人へと勝手に繋がってね。青森県の人に「青森ってそういう街ですよね」と言うと「そうなの?」ってなりましたけど。でも、それぐらい勝手に見立てをしちゃうとクリエイティブジャンプが生まれる。そういう思考実験が好きですね。

徳谷:あー、それめちゃくちゃ分かります。

日野:そういうの、何かの役に立つんですか?

嶋:立つでしょう!

徳谷:立つと信じてる人の顔ですね(笑)。

関係ないものを結び付け、見立てる

嶋:でもさ、本屋をやってるとそういうことをすごくいっぱい考えるわけ。例えばジャック・バウアーの『Twenty four hours』は24時間の中で起きるドラマじゃない。昔のフランスの、ブルボン王朝時代の演劇の作法としては、三一致の法則というのがあって、モリエールとかの時代の演劇は同じ場所で 24時間以内に起きることしか書いちゃいけなかった。そういえば松本零士の書いた銀河鉄道999の停車時間は、その星の24時間だったなとか思うと、「ドラマは24時間で起こるフェア」とかいうのを考えちゃったり。

徳谷:あーなるほど、めちゃくちゃ役立ってる。

嶋:意外に関係ないものが結び付けられると、そこに価値を見出す人は必ず現れる

日野:嶋さんはいつもね、すごく関係ないことのストックをしていて、でもそれがすごく大事で。編集というのは、関係ないと思われているものの関連性を組み合わせて、それが1つの形になった時に新しいものが生まれるんですね。

嶋:ナンシー関ファンがこぞって、棟方志功美術館に行くようになったら面白いし、ついでに縄文人の遺跡まで行ってくれたら面白いじゃん。

日野:新しい観光ルートができますよね。

嶋:うん。そういうところに行くたびに、毎回考えますね。その訓練として、本屋に行ったら平積み台があると、今売れてる本がばらばらに置かれているわけじゃない?それらを一言で言い表す言葉を毎回考えたりとか、トンチをやってますよ。

徳谷:その積み上げなんですね。

群馬県高崎市の見せ方を編集する

日野:ちょっと具体例に落とすと、群馬県高崎市で取り組んだ『絶メシリスト』という企画があってですね。高崎市が地域のことをPRしたいというお題があったので、市民の人たちにヒアリングをすると、「うちの地域にはこれといったものは何もないんです」とみんなが言ってたんですね。
何も手がかりがつかめずに、クリエイティブディレクターと一緒に昔からあるソースカツ丼のお店とかホルモン焼きの店に行ったら、そこがすごく美味しくて。こういうお店は東京にはなくなってるよねとか思いながら食べていて、親父さんに「また来ますね」と言ったら、「次に来る時はうちの店はないかもしれないよ~」と言われたんです。
それが『絶メシリスト』という企画に繋がって。いつなくなってしまうか分からないようなお店を、尊いものとして再定義してリストアップして、一挙に見れるようにしたのが『絶メシリスト』。お店の歴史とか食べログには出てこないような食べ物とか、その店の魅力をちゃんと取材して企画にしたところ、すごくみんなが賛同してくれたんです。
高崎にだけそういうお店があっただけじゃなく、日本全国にそういうお店があったので、みんなにとっての共通課題であることを認識させることができて面白い企画になったと思いました。
でもそういうお店はもともとそこにあるんですよ。そのままの姿でいても、見せ方を変えるだけで急に行ってみたい場所に変わるんですね。
そのものが世の中にとって貴重だと思わせるというのが、PRの「意識を変える」というテクノロジーだったりします。

嶋:それはやっぱり、見立てが効いてたんだよね。街の人は「とんかつ屋あるわ」とか「あのカレーあるけど」ってなっても、「ここの店もこの店も、この店も1つのコンセプトでくくれるよね」っていう、線を結ぶみたいなのが見えてないんだよね。だから共通の価値観みたいなものが見えてるといいと思う。

自由な視点で地域を見る

徳谷:そういうのは、目で見たものとか体で感じたことと比例して広がっていくような気がするんです。僕は今、結構あちこち移動できていて、7月以降もGo To トラベルで55泊ぐらいしてるんですけど(※このイベントは2020年12月10日)。
でも街の人は、借金をしてお店をやってたりで、なかなかそこから動けないじゃないですか。そういうところで遊びの視点が、コロナで移動の制限がされた中でもすごく大事になってくるんじゃないかなと思うんです。

嶋:本当にそう思う。もうヨーロッパの主要なメディアとかヨーロッパの哲学者とかは、コロナによって制限されたもののうちの一番大事なものは移動の自由ですと言ってる。移動は人間を自由にするし、自由の象徴ですよね。

徳谷:僕は今、すごく自由に遊び回っているんです。でも、公務員の方とかが、いろんな文脈を自分で見つけて、これとこれが繋がるんじゃないかと気付いてもらうのはすごく難しいと思います。

嶋:うん、それもすごい分かります。もうね、「ちょっと飛躍しすぎていませんか?」という感じで受け取られる。

日野:そうですね。公務員の方とかは特にそうなんですけど、ずっとその地域にお住まいになられている人は、地元にあるものが全部当たり前の存在になってしまっているんですよね。地域の外の人のほうが見つけやすいので、外から目線と内からの目線を掛け合わせていくのが大事だなと思いますね。

呉羽山の見立てを立てる

徳谷:嶋さんは行政の方とかに、嶋さんが話したようなことを伝える時に、どういうふうに語りかけるんですか?

嶋:いやこれね、言い続けるしかないんですよ。

徳谷:ハハハ!

嶋:僕、富山にしょっちゅう行くんですけども、最初に行きたいなと思ったのは、呉羽山です。クレラップを作っている呉羽化学工業のあるところですね。

日野:ああ、クレラップのクレは山の名前だったんですか。

(出典:富山市の観光公式サイトTOYAMA NETより)

嶋:「呉羽山」って、すごい山っぽいでしょ? でも標高80m位。

徳谷:低っ!

日野:高輪台くらいじゃない?

嶋:この山がとんでもないことになってるんですよ。呉羽山の「呉」は「ご」っていう字でしょ。それより東京側が呉東、京都大阪側が呉西っていうんです。で、完全にそこで文化が分かれるんですよ。

徳谷:へえー!

嶋:呉羽山の呉羽丘陵に『サンダーバード』というコンビニがあって。

徳谷:ああ! 聞いたことあります。

(出典:立山サンダーバード Instagramより)

嶋:そこはコンビニなのでどん兵衛とか売ってるんですね。でも日清食品さんは、どん兵衛を西日本の人の舌に合う用と東日本の舌に合う用で味を作り分けてるわけです。だからその両方が、呉東と呉西の真ん中で売ってるんですよ!

(出典:立山サンダーバード Instagramより)

徳谷:呉羽山ありきなんですね、知らなかった。

嶋:だから同じ街なのに文化が違うんです。例えば、呉東の人は、大学受験は東大行くのが最高で、呉西の人は京大行くのが最高みたいな。山を境に謎の境界線があるんです。

徳谷:それ、地下神殿とかあるんじゃないですか? 2000mくらいの(笑)。

嶋:もうこれを聞いたら全てのことが気になっちゃって。調べていくと、高校野球とか将棋とか、いろんな全国大会の西日本大会と東日本大会はだいたい富山で分かれてるんですよ。

日野・徳谷:ええっ!

嶋:あと、富山へ行くのにJRで行くと、途中でJ R東日本からJ R西日本の人に車掌が入れ替わるとか。そうするとこれは、富山自体が越境する場所なんだなあと思って、西と東の文化があいまみれて交わっている所が富山という見立てをして。それで、越境するスピリッツがあると編集者が生まれやすいから、それこそ読売新聞の創業者とか角川書店の創業者とか、R25の創刊編集長も富山出身なんですね。

徳谷:いや面白いですね。

嶋:これは、東西文化の劇的な間にあるからむちゃくちゃ面白い文化が生まれる街なんじゃないですかって見立てちゃうわけですよ。それを3時間くらいかけて説明しても、意外に気付かないんですよ。だから物証をあげていくんです。

徳谷:なるほど、見立ての物資をいっぱい集めてると。

嶋:そう。そうやって見ていくと、意外にどんどん物証があがってくるんですよね。それがまさに編集作業で面白いんですけど。

徳谷:はあー、なるほど。

日野:気付かれてないことが結びついていると分かった時に、意味が出てくるみたいな感じですかね。

(中編に続きます) 

 

日野昌暢
1975年福岡県福岡市生まれ。2000年 九州芸術工科大学 芸術工学府 生活環境専攻修了。同年4月に博報堂入社。14年間の営業職を経て2014年よりケトルに加入。

「預かったご予算を着実な効果にしてお戻しする」という強い想いとともに、何が社会を良くするのか?を考えるデザイン発想で、事業企画や商品開発から、PR、プロモーション、マスメディアでの広告などまで、幅広い経験を活かした統合プロデュースを手がける。

また「本質的な地域活性」をマイテーマに、“外から目線”で地域資産を再編集し、地域のプレイヤーの“関わりしろ”を作りながら、事業、プロジェクト、プロダクトを共創し、開発して、情報発信を行っていくことを得意とする通称”ローカルおじさん”。

2020年には九州を取材テリトリーにしたローカル発Webメディア Qualities(クオリティーズ)を企画プロデュースし、創刊編集長。観光庁や文化庁の採択事業者へのコーチングなども多数行っている。

主な受賞歴に、2度のACC TOKYO CREATIVE AWARD グランプリ(2018,2022)、グッドデザイン賞BEST100(2022)、Spikes Asia ゴールド(2019)、カンヌライオンズ ブロンズ(2013,2019)、ADFEST ゴールド(2019)など。
  • SHARE THIS PAGE