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連載 : きむらけんたろうの旅先で俺も考えた。

2025/06/26

第42話 カンヌチタニウム審査でゲームチェンジについて考えた。(7)

木村健太郎

カンヌ最終日、午前中はプレスカンファレンスで、夜は授賞式でした。

今回は授賞式でのJudy John(Edelman Global Chief Creative Officer)の審査員長スピーチを書きます。

愛がこもった心を打つ最高のスピーチだったと思います。
(会場の審査員席で盛り上がりながら録った動画から書き起こしてるので、ところどころ聞き取れないところもありましたが)

 

 

 

"はあ、ちょっと待ってください。声が枯れてしまいました。
これはずっと夢だったことなので、この瞬間を存分に味わいたいんです。

ここにいられることは本当に光栄です。
今週審査員に話したのですが、私は、幸運な人間として生きていると感じています。
それは権利や特権を持っているという意味ではありません。
この業界にいて、今日ここにいること、この仕事をしていることに、信じられないほど幸運を感じているのです。
皆さんが今日ここにいることに、同じように幸運を感じてくれていることを願っています。

(拍手)

私はこの業界に入ってきたのは、業界を変え、もしかしたら世界を変えるような作品を作るためでした。
そんな能力を発揮できる仕事はあまり多くありません。
残念ながら、私にはこの他にできる仕事はありません。
たとえば神経科学とかはできません。
だから私はチタニウム審査員長として今ここにいます。

毎晩、審査員長たちがここに上がって「最高の審査員だった」と言うのを聞きますが、それは真実ではありません。
他の部門の審査員の方々には敬意を表しますが、2025年のチタニウム審査員は、文字通り真に最高の審査員です。

史上始めて、この審査員は過去の審査員長経験者のみで構成されています。
その思考のレベル、基準の厳しさ、期待水準は、私が経験したどの審査員よりもはるかに高いものでした。
そして、時には騒がしい場面もありましたが。
チタニウムのショートリストに選ばれた皆さん、おめでとうございます。

(拍手)

皆さんのライブプレゼンテーションは感動的で、心打たれるもので、楽しく、時には胸が締め付けられるようなものでした。
私たちは、そこにかけた努力を知っています。
皆さんは全身全霊を注ぎました。
審査員として、私達はその全ての努力に心から感謝します。
この審査員にショートリストに選ばれるということ自体がまさに偉業なのです。

では、チタニウムについて話しましょう。
チタニウムライオンは、ダン・ワイデンによって考案され、定義されてから、私たちは常にこの定義に立ち返ってきました。
それは、業界を打破した真にゲームチェンジングな仕事を認め、進むべき道を見つめ直すこと。

まさにBMW Filmsは、型を破り、チタニウムのインスピレーションになりました。
その功績に対し、ここにいるデビッド・ルバーズに感謝します。
デビッド、ありがとう。
(彼はBMW Filmsのクリエイティブ・ディレクターであり、クリエイティブ功労者に贈られるSt.Marksの2025年の受賞者。)

(拍手)

この部門にはサブカテゴリーもありません。ロードマップもありません。
チタニウムは社会のバロメーターであり、変化の反映であり、進むべき方向を示すものです。ひとことでいうと、創造性と影響力について、あたかもリアルとインターネットを比べるようなものです。それがどのくらい大変かは想像できるでしょう。
審査員が「もう一度聞くけどチタニウムって一体何?」と聞くたびに、私達は定義を読み返し、再びたずね、作品を見て再びたずねるのです。

私たちにとって、今年のチタニウムを受賞する作品の要件はシンプルでした。
「ファースト・ドミノ」となりうるアイデアを探そう。
業界に変化をもたらし、インスピレーションを与える最初のドミノとなるアイデアを見つけ出すこと。
そして、その最初のドミノが視覚的に明確で、連鎖反応を起こし、私たちを変えるもの。

私たちが表彰したすべてのアイデアは、単なるモーメントではなく、ムーブメントでした。チタニウムのアイデアは1回きりの使い捨てではありません。
もっと人間的なものです。
政策を変え、業界を変え、共創とイノベーションを現代的に刺激し続けるものです。
それは私たちが求めていたものです。

今週はAIに関するクリエイティビティの衰退について多くの議論がありました。
AIについて過剰に議論されていますが、それは私たちが抱える未来であり、受け入れるべきツールです。
しかし、チタニウムの受賞作を見て、クリエイティビティの未来について非常に楽観的になりました。
なぜなら、私たちにはできるけど、AIにはできないことがあるからです。
それは、洞察、互いへの思いやり、そして地球への配慮。それはAIにはできません。
クリエイティビティは、単なる成果物ではなく、ビジネスを変革し問題を解決するための入力になるのです。

今年のチタニウムは、驚くほど創造的で野心的で独創的です。
ここにいる業界の皆さんにお願いがあります。
あなたが好きなアイデアを人間のために作り、そのアイデアを人々にも愛されるようにしてください。
そして、私たちの仕事における創造性の価値がビジネスと社会にインパクトを与えることを証明し、それがビジネスにとって重要だからと皆で語り続ける限り、私たちは強靭でいることができます。

クリエイティビティに関するニュースは死んでいるか過大評価されています。
本当はしなやかに元気で生き生きとしています。

今日、これらのアイデアにその証拠を見ることができるでしょう。
さあ、業界全体に変化をもたらすファースト・ドミノ効果を生み出した4つのアイデアを表彰します。"

(拍手)

 

 

 

(つづく)

 

 

木村健太郎
1992年に博報堂入社後、ストラテジーからクリエイティブ、デジタル、PRまで職種領域を越境したスタイルを確立し、2006年嶋と共同CEOとして博報堂ケトルを設立。マス広告を基軸としたインテグレートキャンペーンから、デジタルやアウトドアを基軸としたイノベーティブなキャンペーンまで共同CEO兼ECDとして幅広いアウトプットを創出する。これまで10のグランプリを含む150を超える国内外の広告賞を受賞し、カンヌライオンズチタニウム部門審査員、アドフェスト審査員長、スパイクスアジア審査員長など30回以上の国際広告賞の審査員経験を持つ。海外での講演も多く、2013年から7回にわたりカンヌライオンズ公式スピーカー。ADWEEKの世界のクリエイティブ100に選ばれる。2017年からケトルに加え、博報堂の海外ビジネスのスタッフ部門を統括する役職を兼任。現在は博報堂のグローバルとクリエイティブの執行役員とインターナショナルチーフクリエイティブオフィサー。コロナ期を除き、年間100日間程度海外を飛び回る生活をしてきた。著書に『ブレイクスルーひらめきはロジックから生まれる』(宣伝会議)がある。
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