2025/07/25
ヤングライオンズPR部門 2025日本代表、帰国後インタビュー!「世界の壁」、実際どうでした?
村山佳奈女

今年もまだまだ、各方面で語られているカンヌライオンズの話題。その会期中に「ヤングライオンズコンペティション(通称ヤングカンヌ)」という、若手クリエイター限定のコンペティションがあることをご存知ですか。国を代表するU30の若者たちが各部門の企画力を競い合う、いわば登竜門。毎年多くの若者がチャレンジするものの、とくにカンヌ本戦での情報は、国内ではまだまだ少ないのが実情。そこで、博報堂ケトル クリエイティブディレクター・村山佳奈女が、ここ数年日本代表予選PR部門で審査員を務めている縁で、今年のPR部門日本代表のお二人に現地での様子を根掘り葉掘り聞かせていただきました!
<ゲストプロフィール>
藤木 良祐 / インターネット広告事業本部 ブランドクリエイティブ部門 クリエイティブプランナー
2019年、新卒で大手広告代理店に入社。その後、2020年にサイバーエージェントへ転職。ブランドクリエイティブ部門でクリエイティブプランナーとして活躍中。
西谷 崇 / インターネット広告事業本部 ブランドクリエイティブ部門 クリエイティブプランナー
2019年、新卒でサイバーエージェントに入社。子会社の(株)CyberZにてアプリのバナーや動画制作を担当。その後、よりブランド領域での活躍を目指し、現職となるブランドクリエイティブ部門へ異動。藤木と同じチームでプランナーとして活躍中。
過去最多応募のヤングカンヌPR部門でGOLD受賞!日本代表になるまでの軌跡
https://www.cyberagent.co.jp/way/list/detail/id=31398

本戦では惜しくも受賞ならず!帰国直後の日本代表2名を直撃
村山 ゴルァ!なに負けとんねん!
西谷 ひ〜、すいません!
藤木 切腹します。
村山 まったく、君たちを推したわたしのメンツが……というのはすいませんまじで嘘です。とにかくホントにお疲れ様でした!今日はカンヌ現地で、お二人がどんな案で戦ったかなどなど聞かせてもらえたら。
<国内予選にまつわるコンテンツ>
これを聴けばヤングカンヌ日本代表に選ばれる!?PR部門国内予選の裏側
村山 まずは、今年のお題を教えてください!
西谷 今年のヤングライオンズPR部門、出場したのは31カ国。オリエンは「ミツバチを増やしたい」というシンプルなものでした。ミツバチが滅亡すると、人類も4年で滅亡するらしいんです。ミツバチには花と受粉の媒介者としての役割があります。ミツバチがいなくなると植物や果物が育たず、動物や人間の食べ物がなくなってしまう。
そういう背景で、ミツバチを増やそうと活動しているのが「Re:wild」という団体の「Bee:wild」。彼らの、今回のターゲットは全世界の市長たち。各都市の市長に、もっと花を植えさせて、町をミツバチにとっての楽園に変える。市長にその動きをしてもらうPRキャンペーンを考えてください、と。
(※補足:農産物の約3/4は、ミツバチなどの花粉媒介者による受粉に依存している。ミツバチは、世界農作物の1/3以上の受粉を担っている)
村山 おもしろい〜、そしてめっちゃむずい!ミツバチ、ぜんぜん街にいてほしくなさすぎる。
藤木 はい、そのあたりも悩んで僕たちが出したのが、「Your Manifesto PLAN-Bee」という企画です。

藤木 「プランB」とミツバチのBeeをかけて、「プランBee」。市長選挙とその市長のマニフェストをハックする企画です。ミツバチのためにというと人々は動かないけど、犯罪や災害のために植えようというメッセージに変えました。例えば、花を植えて犯罪率を下げよう、市民の健康のために花を植えようって言われたらちがうんじゃないかと。
西谷 調べていたら、街に花が増えると犯罪抑止力になる、植物が増えるとうつ病が軽減されるという研究データがあったんです。これらは、市長がマニフェストとして掲げる要素になりえるじゃないかと考えました。
村山 このブックは、たとえば都知事選で、小池百合子のマニフェストの横に「都庁にプロジェクションマッピングをするよりも花を植えよう」って右側に書かれてるっていうイメージかしら。
一般市民には権力者に文句を言いたい欲望があって、「それよりもこれをやれ〜」って言うためのツールとして機能させるみたいなことかな。おもしろい!
藤木 はい。市長選に出馬する人たちに「あなたが掲げたマニフェストよりかんたんな、いい代替プランB、こういうプランBeeもあるよ」という本を作って、市長候補にも、選挙を見てる有権者にも配って、ソーシャル上でも有権者に問いかけて巻き込んでいく。
市長って有権者に選ばれてるから、市長だけじゃなく世論や有権者を巻き込まないといけないよねみたいな話をしてて。
選挙の時って壮大すぎるマニフェストを掲げがち、でも実際に選ばれたら実現してないって世界中のあるあるだし。有権者としてストレスだったりもするし、まあ市長もそういうことをやってしまいがちだよねみたいなところをインサイトとして捉えました。
提出後、会場でばったり会った尾上さん(マテリアル・尾上玲円奈さん)に企画を共有したら、「すごくいいね!」と言っていただけて。アイディアには自信を持てました。

村山 プレゼンテーション〜審査の場はどうでした?
西谷 プレゼンテーションが……曖昧な手応えというか、伝わりきらなかったなと。
藤木 そうなんです、1個だけ悔いが残ってるのは、質疑応答の最後の質問だけ全然聞き取れなかったこと。そしたら審査員が「あ、うん、まあいいや。僕はこのアイディア好きだよ、違う質問にするわ」となってしまい。
代表に選ばれてからの半年間、毎日4時間プログリット行って勉強したんですけどね……!
西谷 人生で初めて「24回払い」を選択しました、プログリット。
村山 プログリット〜〜〜!あれは高い。
藤木 プレゼン後、審査員からフィードバックをもらえたんです。クライテリアは、クリエイティブアイディア、ストラテジー戦略、エグゼキューションの3つ。まず「アイディアと戦略のところは言うことなかった、すごく良かった。ゴールド、シルバー、ブロンズには全然負けてなかった」と。「ただ、エグゼキューション、実行可能性をもっと感じさせてほしかった」と言われました……。
シンプル&おもしろ最強説。ゴールドを受賞したPR企画
藤木 ゴールドを受賞したのはMENA(Middle East & North Africa 中東と北アフリカの連合)チームです。

藤木 一言で言うと、「Beeがいなくなる」っていう事実を、メディアの記事やスピーチのテキストから「B」の文字を取り除いて表現する、そしてそのオチとして「ミツバチがいなくなると人類が大変なことに」と気づかせる企画です。
インサイトとしては、「人は、なくなって初めてその重要性に気づく」ということ。キービジュアルにもなっているアイディアは、新聞の1面から「B」の文字をなくしたスピーチ原稿です。これが、世界中の市長たちが集まるグローバルネットワークのスピーチ大会で読まれるものになってます。
西谷 すごくシンプルなのと、おそらく僕らの予想だと……プレゼンがめちゃくちゃ面白かったんじゃないかと。企画書の前段にスピーチ原稿が書いてあって。この「B」のない原稿、読み上げたら絶対ウケるだろうなと。
僕らは、市長がやる理由をがんばって探さないと、市長もやらない。だから有権者たちが動く理由を探して……って考えてたんですけど、この企画はほとんどそこに触れず、市長がやってくれる前提で話が進んでる。そこはちょっと悔しいんですけど。

村山 確かになー。でもとにかくシンプル。話のわかりやすさと、絵の強さ。二人が予選で選ばれたところにも通じるよね。あと遠い昔、自分が日本代表に選んでもらったときに原野守弘さん(もり・クリエイティブディレクター)から言われたことを思い出しました。「本戦の審査員は、とにかく疲れてる」と(笑)。「本審査でハードなやりとりをしたあと、ヤングの審査はせめておもろいやつがみたい。そして、早く終わらせて飲みに行きたい!と思ってる。そういう気持ちに応えた方がいい」と。この企画は、そこに合致しているのかなと。
「悔いはない」。日本代表に選ばれてからの大きな成長
村山 改めて。本戦に参加した感想をお願いします!
西谷 悔いはないです。この半年間で準備できたものは全部やったし、しかもそれを、たぶん全部出せました。なので、その上で負けるんだったらしゃーないか……というのは正直あります。
藤木 そうだね。世界の壁も、そんなに高くも感じなかった……まあ、メダル獲れてないんですけど(笑)。半年間、何度もやった模擬戦ではずっと不完全燃焼だったんです。でも、本番で初めて2人でうまく合意がとれて出せた。
西谷 半年間、模擬戦を何回も繰り返して見つけたベストなタイムラインは、7.5時間以内のアイディア出し。オリエンもらって30分くらい会話→ストーリー決め。寝てからちょっとストーリー修正して企画書に入る、というもの。
村山 タイムマネジメント&イメトレ完璧だね。
藤木 このやり方が一番いいアイディア出せるんです。そのあとで、出したアイディアを検証〜最終的にどう選ぶかのチェックシートも作ってるので、そこを満たしているものを選ぶ。
西谷 デコンもめちゃやりました、24時間以内の企画出しを共通言語で短縮できるように。会話量をいかに圧縮できるかが大事なので。
藤木 役に立ったよね。今回提出したアイディアも、2人の中で「あのアイディアいいよね」って話してた過去事例のデコンから生まれてます。おかげで、本番当日はバタバタせずにやれてよかった。
西谷 そんな感じで、日本代表に選ばれた後にたくさん努力したので、企画力は選ばれた後の方が成長しましたね。
村山 いい話!選ばれてからの本気の追い込み。最高打点を本番に持っていけたのなら何よりでしたね。

「若手は全員出すべき」社内外はもちろん、世界からも祝福される経験
村山 西谷くんが今年30、藤木くんが29ということで。残念ながら来年、二人は一緒に出られないわけですが……来年もヤングライオンズにチャレンジする若手へ、なにかアドバイスやメッセージがあればお願いします!
西谷 本戦を目指すなら……とにかく、英語!質疑応答は本当にハイレベルすぎたので。それか、本当にシンプルにシンプルにアイディアを削ぎ落とす!
藤木 とにかく、この仕事をしてる若手は全員挑戦した方がいい。僕は、何年も諦めずにやったら日本代表になれて。そしたら会社や職種の垣根を超えて、いろんな方に応援してもらえて……行きの飛行機でも、隣に座ってたドバイの人と話してて「ヤングライオンズの日本代表なんだ」って言ったら「お前、マジか!!頑張れよ!!!」って。こんな、世界中で期待されるコンペってそうそうない。
村山 会社でも反響ありましたか?
藤木 先日会社でカンヌの勉強会を開いて、僕らが学んだことをシェアしてたら、若者だけじゃなく役員からも「聞きたい!」って連絡が来ました。
西谷 部署にも活気が生まれてるのを感じます。あと最近、僕たちがヤングカンヌ獲ったのを見て転職を決めたって方がいて!「最後の決め手になった」って言ってくれたんです。
村山 人の人生変えてるね〜!来年以降、サイバーエージェントの若者たちもたくさんエントリーしてくれそう。最後にお二人からも、来年に向けての抱負をもらえますか。
藤木 西谷はすごい頼りになる人間で、これ以上の相方はいないんです。ただ、一方で……一度出たからこそ得られた視点があるんで、この状態でまたリベンジしたい気持ちはあります。
西谷 僕は今年で最後だったので……藤木が別の人と組んでエントリーしたら、まじで選ばれないでほしいです!
村山 〆にふさわしい、人間らしいコメント最高です!今日はありがとうございました。


