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連載 : きむらけんたろうの旅先で俺も考えた。

2020/01/08

第4話 歯医者で、ダイバーシティについて考えた。

木村健太郎

僕には秘密があります。

実は、乳歯が2本あるんです。
上の犬歯、つまり真ん中から左右3つ目の歯がどちらも乳歯のままなのです。
最近、その乳歯のうち、左の一本がぐらぐらしてきたんですよ。
なんとこの歳になって。
いよいよ俺も、ようやく大人になる日が来た!
そこで、会社に行く前、意を決して、地元の歯医者さんに行ったんです。

 

俺: 先生、乳歯がぐらぐらするんです。

先生: 乳歯?それはめずらしい。何千人も見てきたけど、その歳で乳歯持ちははじめてだ。乳歯はね、残ってても普通35歳くらいで抜けるもんだ。

俺: 僕もようやく大人になれます。

先生: しかも犬歯じゃないか。犬歯が乳歯のままというのは極めて珍しい。犬歯というのは動物が肉を噛み切るために必要な歯だからね。

俺: 僕ちゃんと肉食べてきましたよ。

先生: 木村さんはかなり貴重です。日本で数人しかいないと思いますよ。110歳のご長寿くらい貴重です。東京都では恐らくひとりだけだな。

俺: 学会ものですね。

先生: それにしても、すごい歯石だね。

俺: そうですか?2〜3年前にクリーニングしたんですけど。

先生: それは、2〜3年間、車を一回も洗ってない、というのと同じことを言っている。

俺: で、乳歯はどうすればよいんですか?

先生: 抜かなきゃだめです。本当は40歳になる前に抜くべきでした。

俺: なんだそうだったのか。結構気に入ってたのに、抜く運命だったんですね。抜いた後はどうなるんですか?

先生: 歯がなくなります。

俺: それはそうだと思いますが。

先生: 歯がないと困りますか。

俺: 困ります!永久歯が生えてくればいいのですけど。

先生: 残念ながらもう生えてきません。というか、永久歯はいませんね。あったらもっと前に出てくるはずなので。

俺: 俺の永久歯、どこ行っちゃったんですかねー。

先生: さあ。どっかにいる可能性もないことはないけど、最初からなかったんだと思いますよ。

俺: えー?ホントに?なんで?

先生: 絶対とは言えませんけど。

俺: じゃ念のため、レントゲンとってもらってもいいですか?

先生:いいですよ。

(レントゲン撮る)

先生: やっぱりないね。なんにもない。永久歯はいませんでしたー。

俺: ガーン。僕には最初から犬歯がなかったのか。先生、なんで僕には犬歯がないんですか。

先生: 人間はね、みんな同じというわけではないのです。いろんな人がいて、それぞれどこかが違う。同じ人なんていない。木村さんには犬歯の永久歯がない。それだけです。

俺: それだけって、先生さっきあんなに僕のことめずらしいって珍種扱いしたじゃないですか!

先生: 貴重とは言いましたが、異常とは言ってません。

俺: なるほど。人間は、仕様が決まってるわけじゃないから、僕の歯も別に異常というわけじゃないんだ。

先生: 木村さんみたいに歯が少ない人もいれば、逆に過剰歯と言って歯が多い人もいる。親知らずが出る人も出ない人もいる。人それぞれなんです。

俺: ふむ。なるほど。人はそもそも違うと考えればいいんだ。でも僕、抜いたら入れ歯するんですか?

先生: 抜いた後には3つのオプションがあります。入れ歯、ブリッジ、インプラント。それぞれメリットとデメリットがあります。

(説明)

俺: その中だとインプラントかな。いくらするんですか?

先生: 一本◯万円くらい。

俺: うわ、高!

先生: もちろん素材によって、ピンキリです。でも安いのはあまりおすすめしません。

俺: ですよね。一生ものですもんね。インプラントは死ぬまで持つんですか?

先生: それは何歳で死ぬかによります。何歳まで生きると思いますか?

俺: そんなのわかりませんよ。

先生: 100まで生きるなら保証はできませんね。

俺: 100までは生きないような気がするけど。で、それいつごろできるんですか?

先生: 抜いた後完全に傷口が治ってからです。それまでは数ヶ月抜いた歯を接着しときます。これがよくポロっと取れてめんどくさいんですよ。

俺: 肉とか食べるとですか?

先生: いや、お客さんと会食してる最中にポロっと取れたり、お得意先でプレゼン中にポロっと落ちたりもしますよ。ハハハ。

俺: クライアントと一緒の時に取れやすいんですか。

先生: 今日抜いていきますか?そんなに痛くないと思いますよ。

俺: いやいやいや、こういうことは、気持ちの整理がついてからでないと。それに、日にちを選ばないと。たとえば平日でなくて休日にすべきな気がしています。

先生: いいですよ。日にち決まったら予約してください。じゃ今日はお帰りになりますね。

俺: いえ、せっかくなので歯石とってください。2〜3年分ためてきたんで。

先生: そうしましょう。すごくやりがいがありそうです。

木村健太郎
1992年に博報堂入社後、ストラテジーからクリエイティブ、デジタル、PRまで職種領域を越境したスタイルを確立し、2006年嶋と共同CEOとして博報堂ケトルを設立。マス広告を基軸としたインテグレートキャンペーンから、デジタルやアウトドアを基軸としたイノベーティブなキャンペーンまで幅広い得意技を持つ。これまで10のグランプリを含む150を超える国内外の広告賞を受賞し、カンヌライオンズチタニウム部門審査員、アドフェスト審査員長、スパイクスアジア審査員長など25回以上の国際広告賞の審査員経験を持つ。海外での講演も多く、2013年から5回にわたりカンヌライオンズ公式スピーカー。ADWEEKの世界のクリエイティブ100に選ばれる。2017年からケトルに加え、博報堂の海外ビジネスのスタッフ部門を統括する役職を兼任。グローバル統合ソリューション局局長と博報堂インターナショナルのチーフクリエイティブオフィサーとして年間100日間程度海外を飛び回る生活をしてきた。著書に『ブレイクスルーひらめきはロジックから生まれる』(宣伝会議)がある。
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