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連載 : きむらけんたろうの旅先で俺も考えた。

2020/01/11

第5話 ラスベガスで、自己効力感について考えた。

木村健太郎

CES(Consumer Electronics Show)に参加するためにラスベガスに来ています。

この街に来るといつもまず感じるのですが、街全体がアッパーなのです。
夜中でもネオンはギンギンで、巨大なサイネージも24時間消えないし、定期的に炎が出るアウトドア広告があったりもします。
この街に来ると、エコロジーとかリサイクルという概念を忘れてしまいます。
そもそも砂漠の真ん中に人工的に作られた街。
しかも、ギャンブルという人間の欲望を肯定する産業で成りたっている世界なんです。
カジノでは酸素濃度が高められていて、つねにハイな状態を作り出しているという噂もあります。

去年来た時は、CESの直前に無差別銃撃事件がありました。
さぞやセキュリティは厳しいんだろうなと思いきや、なんと会場以外の、ホテルやレストランではほぼボディチェックがなくてびっくりしました。

この街からは、根拠のない自信を感じるのです。
人間は、欲望は我慢しなくてもなんとかなるよ、というメッセージが伝わってくるのです。
こういう、自分はできるという思い込みのことを、「自己効力感」と言います。
ネガティブなシナリオを懸念したり、失敗を恐れて躊躇したりせずに、自分は達成できると信じこむ力のことで、行動力の源泉になると言われています。
僕は、ラスベガスは、世界で一番自己効力感が強い街だと思います。

そもそもアメリカという国自体が、自己効力感の強い国です。
ここ3年間CESには参加していますが、様々な企業の自動運転やスマートシティの構想も、国によってそのベースにある思想が違うのを感じます。

ヨーロッパのそれは、エコで「サステナブル」な社会を志向している感じがします。
日本のは、狭い国土や少ない資源をシェアする「効率性」がベースにあるような気がします。
中国からは、とにかくなんでも自動で生活したり管理したりできる「便利さ」への追求を感じます。
それに対して、アメリカが生み出すプランは、欲望を我慢しないでかなえる「自己拡張」が起点になっていると思うのです。

そして、CESというイベント自体が、自己効力感に溢れたカンファレンスなのです。
ここには、テクノロジーとイノベーションは明るい未来を作り出すことができる、というオールポジティブな前提があると思います。
カンヌライオンズが、毎年これでもかと思うくらい様々なネガティブな社会課題にフォーカスするのとは全く違う世界観です。
だから、ここでは、ドローンが戦争に使われたり、顔認証技術が人権侵害したり、ロボットが反乱したり、自動運転がハックされたりというような、ディストピアを懸念する余地がないのです。
今回、プライバシーについてのパネルディスカッションに出たのですが、なんかCESっぽくないなとさえ思ってしまいました。

CESという極めて自己効力感の高いイベントが、アメリカという自己効力感の高い国の、ラスベガスという特に自己効力感の高い街で行われるのには、とってもシンボリックな意味があるのだと思いました。

今年は、ワクワクするニュースが盛り沢山ですし、日本企業のプレゼンスも昨年より高まっています。僕も、自己効力感にあふれたインスピレーションをたくさん持ち帰ろうと思います。

木村健太郎
1992年に博報堂入社後、ストラテジーからクリエイティブ、デジタル、PRまで職種領域を越境したスタイルを確立し、2006年嶋と共同CEOとして博報堂ケトルを設立。マス広告を基軸としたインテグレートキャンペーンから、デジタルやアウトドアを基軸としたイノベーティブなキャンペーンまで幅広い得意技を持つ。これまで10のグランプリを含む150を超える国内外の広告賞を受賞し、カンヌライオンズチタニウム部門審査員、アドフェスト審査員長、スパイクスアジア審査員長など25回以上の国際広告賞の審査員経験を持つ。海外での講演も多く、2013年から5回にわたりカンヌライオンズ公式スピーカー。ADWEEKの世界のクリエイティブ100に選ばれる。2017年からケトルに加え、博報堂の海外ビジネスのスタッフ部門を統括する役職を兼任。グローバル統合ソリューション局局長と博報堂インターナショナルのチーフクリエイティブオフィサーとして年間100日間程度海外を飛び回る生活をしてきた。著書に『ブレイクスルーひらめきはロジックから生まれる』(宣伝会議)がある。
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