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連載 : きむらけんたろうの旅先で俺も考えた。

2021/12/17

第16話 ボストンにオンライン留学してみた【2】

木村健太郎

(写真はイメージです)

それは人生でたぶん初めての、一週間家から一歩も出ないひきこもり生活でした。

zoomを開けると、マイルスデービスのジャズが流れていて、夜9時ぴったりに"Good morning."と言う学長のあいさつとともに教授が紹介されて講義が始まります。
参加者は世界中から50人くらい。

さまざまな企業のケーススタディを使って、リーダーシップやトランスフォーメーションから、ダイバーシティ経営やメンタルヘルスまで、多岐にわたるテーマについてひとコマ2時間意見をぶつけあいます。
今回はほとんどのケースが、パンデミック下の経営判断についてのものでした。

多くの教授は立って話していました。これだけでも雰囲気がだいぶ違います。
さらに後ろのホワイトボードに書きながら講義が進むと、大学の階段教室にいる感じがしてきます。

教授が話のあいまに、"エニーコメント?"と問いかけます。
するとその瞬間に、4-5人の画面に黄色い挙手のマーク✋がバババッとついて、当てられた人が次々に発言していきます。
さらに、チャット欄にも発言に対するコメントがひっきりなしに書き込まれていきます。
自分も何がしゃべった時に、誰かから、"ケンタロー、いい視点だね"、と書かれるだけでもうれしいものです。

めっちゃ、インタラクティブやん!

さらに、面白かったのが、いくつかの講義で、ケーススタディに書かれた人物が、最後にそのzoomに本人が登場して、実際はどうだったのか、その後どうなったのかについて話してくれたりしました。
種明かしされてる感じでした。
これはリアルな教室のときにはなかったオンラインならではのよさでした。

感情体験という点では、残念ながら教室でのリアルな講義にはかないません。
2年前は5分ごとにゲラゲラ笑っていたけど、オンラインだと発言しない人はみんなミュートだから、「教室がドッと沸いて、自分もつられて笑ってしまう」ということが起きないのです。

4日目にマネジメントの講義で、コロナ禍で陥りやすいメンタルヘルスの問題を体験する演習がありました。

まず、自分の人生を、生まれてから、どんな家庭でどんな風に育って、どんな学生生活を経て、どんな風に今のキャリアとポジションになったかの重要な出来事を、年齢とともに年表のように箇条書きにします。

次にブレイクアウトルームにふたり1組に分かれて、自分の人生を肯定的な物語にして一人づつ相手に語ります。
聞いた方はそれについて正直なコメントします。

次に今度は、自分の人生をさっきとは逆に、否定的な物語にして語ります。
さっきはポジティブに語られた家庭や学校や仕事の話が思い切りネガティブな話になります。
そして聞き手はそれについてコメントをしなければいけません。

僕のパートナーになった女性は、一見非常に魅力的でうらやましくなるほどキラキラした人だと思っていました。
でも実は表からは見えない、想像を絶する悩みと苦労の壮絶な人生であることがわかり、そのギャップに、どんな言葉をかけてあげればいいのかわからなくなってしまい、言葉を失ってしまいました。

そして、気づいたら、涙が流れていました。

やべえ、おれ、オンラインでも泣くんだ。

そんなわけで、毎日カリキュラムは刺激的で、昼夜逆転の生活でも、眠くなることはありませんでした。
毎日、昼過ぎに起きて、会社の打ち合わせを数本やり、夕方からまた講義の準備をします。
実は、始まる前日だけ、アメリカ出張の時差調整で使ったことのある睡眠薬を飲みましたが、あとはコーヒーで乗り切れました。
たぶんコーヒーは50杯くらい飲んだと思います。

ただ、リアルとオンラインで決定的に違うなと思ったのは、講義が終わった後の時間です。

 

2年前は、講義が終わるとわからなかったところを誰かに教えてもらったり、コーヒー飲みながら知り合いになった人と雑談したりしました。
時間になると中庭に出て夕日を浴びながらビールやシャンパンで乾杯。そこで毎日ちょっとしたエンタメ企画があって、ひととおり大笑いして気持ちをストレッチしてから、みんなでディナーでした。

バブソン大学は街まで遠いので大学の外に出ることはしませんでしたが、地下に11時まであいてるバーがあったので、毎晩くだらない話をしてクラスメイトと飲んで、部屋に戻って日本からのメールをチェックして次の日の準備をして眠りました。

 

しかし、オンラインだと、講義が終わってズームの「退出する」ボタンを押した瞬間に、真夜中、自分の部屋に、ひとりぼっちになります。
しかもコーヒーで目はギンギンで眠くもないし、興奮していたりすると、全然スイッチがオフにならない。
せっかく一日頑張ったのにそのご褒美も開放感もカタルシスもありません。
それどころか、さっきまでずっと英語しゃべってたのに、全然ここ日本じゃん!
海外に飛んでしまえばあきらめてくれる会社の案件も普通に追いかけてくるし!

 

結論です。
日本からオンラインでのアメリカビジネススクール留学は、フライトの時間もお金もかからない上、感染の危険もなく、しかもちゃんと学べます。
とってもインタラクティブで、ときおり感情体験も味わえたし、現地に飛ばなくても時差の問題はなんとかなりました。
でも、楽しいか聞かれたら、うーん、やっぱり断然現地に飛んで現地の空気を吸いながら参加することをお勧めします。

 

木村健太郎
1992年に博報堂入社後、ストラテジーからクリエイティブ、デジタル、PRまで職種領域を越境したスタイルを確立し、2006年嶋と共同CEOとして博報堂ケトルを設立。マス広告を基軸としたインテグレートキャンペーンから、デジタルやアウトドアを基軸としたイノベーティブなキャンペーンまで幅広い得意技を持つ。これまで10のグランプリを含む150を超える国内外の広告賞を受賞し、カンヌライオンズチタニウム部門審査員、アドフェスト審査員長、スパイクスアジア審査員長など25回以上の国際広告賞の審査員経験を持つ。海外での講演も多く、2013年から5回にわたりカンヌライオンズ公式スピーカー。ADWEEKの世界のクリエイティブ100に選ばれる。2017年からケトルに加え、博報堂の海外ビジネスのスタッフ部門を統括する役職を兼任。グローバル統合ソリューション局局長と博報堂インターナショナルのチーフクリエイティブオフィサーとして年間100日間程度海外を飛び回る生活をしてきた。著書に『ブレイクスルーひらめきはロジックから生まれる』(宣伝会議)がある。
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