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連載 : きむらけんたろうの旅先で俺も考えた。

2024/06/27

第26話 カンヌで審査員長をやってみた(6)

木村健太郎

カンヌライオンズでのセミナーは、クリエイティビティ業界でのTEDのようなものだ。
毎年、ここで話される主張が、受賞した作品と組み合わさって、今年のカンヌのキーワードと呼ばれるようになり、その概念が世の中に広がり、クリエイティブな仕事をしている全員に影響を与えていくこともある。

 

 

 

博報堂は今年もカンヌライオンズでセミナーを行う権利を得た。
記念すべき10回目だ。

きっかけは、2012年の秋、シンガポールのスパイクスアジアで自分がやったスピーチを当時のカンヌCEOのテリー・サベージ氏がたまたま見にきてくれていて、「そのセミナー、来年のカンヌでやってみないか」と言ってくれたというラッキーな出来事だった。

それから毎年スピーチプロデュースチームを編成して、コロナを挟んで12年間、欠かさずにここで発信し続けてきている。

3000人入る大きな会場でやったこともあれば、数百人の対話ができる中規模の会場でやったこともある。昨年は気持ちの良いアウトドアのテラスステージでやった。
2013年、2016年、2022年だけはスピーカーひとりだったが、数人が掛け合いながらやるのが、博報堂のセミナースタイルになっている。

ちなみに今までのカンヌ博報堂セミナーを振り返ってみる。

2013年 “Creative Alchemy, The Formula of 1+1=3”
革新的な別解アイデアを生み出す5つの錬金術。
これがデビュー作。めっちゃ緊張した。

2014年 “Agency Model 2024” 
10年後の広告会社を3つのキーワードで予言。
長谷部さんとの英語漫才。そういや今年が10年目の2024年だ。

2015年 “The Secret of Japanese Creativity” 
日本のクリエイティビティの秘密を日本文化から探る。
フランさんと石原さんとのトリオ形式でやった日本文化論だ。

2016年 “Agency Beta”
プロトタイピングチームを作るマネジメント。
北風さんが語ったクリエイティブ組織論の提言。

2017年 “Appetite Creativity”
情報飽和時代に食欲をそそらせるための方法。
細田さん、橋田さん、皆川さんのトリオ。今年の“アスピレーション”に通じる。

2018年 “Extreme Stimulation”
妄想を刺激に変換する日本人の文化特有性と可能性。
ソニーのアイボ開発者松井さんとファッションデザイナーの森永さんと5人で。

2019年 “Talk More About Human”
テック、データ、ローカルに潜む生活者発想。
中尾さん、アレックスさん、クリスティーナさんと4人で人間について語った。

2022年 “Harmony Theory”
競争から共奏の時代。
コロナ後の世界変化と広告会社の指揮者という新しい役割についての提言。ソロ。

2023年 “Unimagined Cultural Solution”
別解はローカルカルチャーから生まれる。
再びトリオ。アウトドアのテラスステージが気持ちよかった。

こうして振り返ってみると、”生活者発想からどうやって別解クリエイティビティを生み出すか”という発想論と、”クリエイティビティ産業は今後どのように進化していくべきか“という産業論と、”日本特有のクリエイティブのベースにあるカルチャーとは何か “という文化論の3種類の話を交互にずっと考えて発信し続けてきたように思える。

そして10回の今年は、
パリと東京の中尾文美、カナダのKris Manchester、フィリピンのThird Domingoという珠玉のスピーカーで
“Aspirational Intelligence”
というセミナーを実施した。

日本語訳は難しいが
“生活者の想いが生成する知能”
という意味を込めている。

僕は今年はバックヤードでテーマ設計とケース構成をサポートしただけなのだが、例年のように長谷部守彦、近山知史、谷脇太郎、藤本真理子、そしてSid LeeのIvenz Rodriguezという超強力なセミナープロデュースチームがリードして素晴らしいセミナーを実現した。

 

 

30分のセミナーを3行で書いてみると。

AIが浸透する時代だからこそ、生活者の内発的な「想い=アスピレーション」が大切になっていき、これからはそれが企業のパーパスをドライブしていくだろう。
しかし、生活者のアスピレーションは時代とともに変化していくため、それが向かう方向をどう捉えるかがとても重要になる。
Health & Beauty、Success & Happiness、Love & Intimacyという3つの人間の根本的な欲求における先進的なケースを通して、アスピレーションが向かう8つのベクトルを明らかにしてみた。

 

 

例えば、美は若さから自信へ、職場は効率から意義へ、性はタブーから対話に、それぞれ価値観のベクトルがシフトしている。
最後に、3人がそれぞれ自分のアスピレーションを告白した。
満員の会場から、鳴り止まないくらいの拍手をいただいた。

16時半。よし。次はいよいよ授賞式の登壇だ!

つづく。

 

 

 

木村健太郎
1992年に博報堂入社後、ストラテジーからクリエイティブ、デジタル、PRまで職種領域を越境したスタイルを確立し、2006年嶋と共同CEOとして博報堂ケトルを設立。マス広告を基軸としたインテグレートキャンペーンから、デジタルやアウトドアを基軸としたイノベーティブなキャンペーンまで共同CEO兼ECDとして幅広いアウトプットを創出する。これまで10のグランプリを含む150を超える国内外の広告賞を受賞し、カンヌライオンズチタニウム部門審査員、アドフェスト審査員長、スパイクスアジア審査員長など30回以上の国際広告賞の審査員経験を持つ。海外での講演も多く、2013年から7回にわたりカンヌライオンズ公式スピーカー。ADWEEKの世界のクリエイティブ100に選ばれる。2017年からケトルに加え、博報堂の海外ビジネスのスタッフ部門を統括する役職を兼任。現在は博報堂のグローバルとクリエイティブの執行役員とインターナショナルチーフクリエイティブオフィサー。コロナ期を除き、年間100日間程度海外を飛び回る生活をしてきた。著書に『ブレイクスルーひらめきはロジックから生まれる』(宣伝会議)がある。
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