2024/10/17
第30話 スロベニアで審査員長をやってみた(2)
木村健太郎
羽田からフランクフルト空港、トリエステ空港を経由して、合計24時間かけて、ゴールデンドラムアワードのフェスティバルが行われる、東欧スロベニアのポルトロシュという街にやってきました。

実はこの街には10年前にも別の広告祭で来たことがあります。
石畳の古いヨーロッパの美しい町並みの中に、海沿いに巨大なクラシックなホテルが建っていて、今回も同じその中のカンファレンス会場で行われました。

こっちに来てから知ったのですが、このリージョナル広告賞は、ロシアやベラルーシからの出品をできなくした以前から、イタリアを除く西ヨーロッパの国々も一部の部門を除いて出品できないことになっているのです。
「予算の大きな強い国の参加を許すと、出品は増えるけど、そこがいっぱい受賞して、ミニカンヌになっちゃうのよ」
そう語ってくれた主催者の、利益よりも独自性を優先した勇気ある決断が、このリージョナル広告祭を30年間も盛り上げてきたんだなあと思います。

このエリアは、地図を見ればわかるように、人口数百万の小さな国も含めたくさんの国が地続きで連なっているですが、それぞれの国が、それぞれの言語と文化とライフスタイルを、歴史の荒波を乗り越えてプライドを持って守り抜いてきています。
ここで審査した広告にも、それぞれの地域に暮らす生活者たちのそのパッションが反映されているのが素晴らしいと思いました。
広告とはそもそも政府や企業やメディアが人々を意識変容するためにあるのではなく、地域に暮らす人々の気持ちに寄り添ってその人々の幸せをかなえるためのあるものだと、今回の審査を通じて改めて確信しました。
さて、フェスティバルは、セミナーと、授賞式と、パーティで成り立っています。

セミナーは各部門の審査員長を中心に11人が話したのですが、これが現在の広告業界の課題をいろんな角度から切り取っていてとても面白かった。
デザイン、メディア、AI、感情、サステナビリティ、ローカル、ブランドとエージェンシーの関係、ユーモア、教育と、テーマが多岐に富んでいて発見が多かったです。

最近のカンファレンスは、金太郎飴のように「AIについて語ってください」「SDGsについて語ってください」などと集客映えするテーマを絞る傾向にあるために、どもセミナーも似たりよったりの、下手をすると表層的なスピーチの集合体になりがちですが、ここのテーマはフリーにして各スピーカーのテーマをしっかり厳選していました。
カンファレンスはトレンドに合わせて主催者が決めたテーマに合わせて専門領域ではない話をするより、それぞれのプロフェッショナルが自分にしか話せない領域の話をするほうが深くて面白くなるとと思います。
僕は、この地域のローカルプライドに基づくクリエイティビティに敬意を表して、正解のない時代にこそ、ローカルから発想したアイデアが必要だという話をしました。
授賞式は、スロベニア大統領のビデオメッセージで始まり、バンドが適度に演奏しながら楽しく進行していきました。

僕はOmni Channel部門では、カンヌライオンズの授賞式で着た、きものやまとさんのリバーシブル羽織の赤い方を着て、All Jury部門では黒い方をスーツの上に羽織って登壇しました。今回、中は着物でなく黒いスーツでしたが。やっぱり外国の人は赤のほうが好きみたいですね。
今回個人的に一番収穫だったのは、審査員長同士のアフタートークです。
審査を一緒にして、お互いのセミナーを聞きあったあとなので、お互いがどんなキャラで、どんなユニークなスキルを持っていて、どんな考え方を持っているのかを全力で暴露したあとの本音トークなので最高に楽しいのです。
正直に言うと、審査やセミナーでは言えないことはたくさんあるのですが、その後のアフタートークで本当に言いたかったことを分かち合うことができるのです。
僕はこれが広告賞審査の最大の面白さで、これだけでもはるばる参加して本当によかったと思いました。

パーティでは、しばらく会えていなかったこの地域の友人とも再会できました。
ウクライナの問題で様々な波乱万丈な人生を送っていたりします。
ゴールデンドラムは今年30周年なんですが、なんとこのコラムも偶然30話です!
次回は、僕がと特に印象に残ったこの広告賞の受賞作をいくつか紹介しようと思います。
つづく。

