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連載 : きむらけんたろうの旅先で俺も考えた。

2024/10/24

第31話 スロベニアで審査員長をやってみた(3)

木村健太郎

今回は特に印象に残ったゴールデンドラム広告賞の受賞作をいくつか紹介します。

僕が今回一番印象に残った受賞作は、Social Good部門でグランプリになったウクライナのプロジェクトでした。
ウクライナの経済は約5割を農業が占めるのですが、国土の3割に地雷が巻かれてしまいました。その広さはポルトガルの約2倍。完全除去までには果てしない時間がかかるため、農地として使うのが難しくなった広大な草原があります。

 

 

ここを巨大なハチミツの一大生産地にしようというプロジェクトです。
空を飛ぶミツバチは地雷の影響を受けません。
ミツバチは遠くまで飛ぶことができるので、地雷を撤去した場所に巣箱を設置しておけば、ミツバチたちが地雷原からはちみつを運んできてくれるのです。
 

 

またハチミツの花を咲かせる植物の種は、ドローンで空から巻くことができます。

 

 

まだ始動したばかりで、ここで生産された「地雷原はちみつ」を、希望と復興の象徴として今は外交目的に使っていますが、やがてはこの地域の経済を復活させる特産品にしようという計画です。
 

 

もうひとつ、受賞作ではありませんが、一次審査をしていた時に出会った衝撃的なウクライナからの出品作を紹介します。

「100万個のドローン」というエントリーです。
ミサイルを避け、地下で授業を受ける子どもたち。
彼らにとって希望の象徴は、ロシアからのミサイルを迎撃してくれるドローン。
そこで彼らがドローンの絵を書き、100万個のドローンという歌を作ってみんなで歌って、戦地で戦う兵士たちに届けるというプロジェクトでした。

ウクライナから娘とスロベニアに避難してきている僕の部門の審査員に、現地でこのエントリーのことについて話したら、彼女いわく今ウクライナでは出生率が急激にあがっているとのこと。
ミサイルに怯え、地下で学ばなければいけない、そんな子どもを育てるのに最悪な環境なのになぜか。
その問いに、彼女は、「サバイバルのための人間の本能が作動しているに違いない」と言っていました。

ローカルならではの、やられたと思うような気の利いた受賞作は、ルーマニアのKFCのキャンペーンです。
ブカレストの地下鉄路線図を見ると、ある路線の形がよく見るとフライドチキンの形に似ているのです。
これを使って地下鉄にのるたびにケンタッキーのフライドチキンが食べたくなるよう訴求するユーモアあふれるキャンペーン。
地下鉄の路線図はたぶん永久に変わらないし、一回刷り込んでしまうと、ずっと地下鉄の路線図を見るたびに、KFCのフライドチキンを思い出すでしょう。
しかも通勤通学はお腹が減っていることが多いシーンでもあります。
公共のインフラをジャックするなかなか賢いキャンペーンだと思いました。

 

 

最後にご紹介するのは、ハイネケンのPub Museumというプロジェクトです。
伝統的なアイリッシュパブが経営難に陥って次々とクローズしているらしいのです。
そこで、歴史的に価値がある伝統的なアイリッシュパブをARを使って博物館扱いにして、税率を下げて経営を存続させるというプロジェクトです。
カルチャー保全とステークホルダーサポートを目的としたイタリアのハイネケンのキャンペーン。
これはカンヌライオンズでも受賞していますが、ゴールデンドラムではGame Changer部門のグランプリになりました。

 

 

 

このように、ゴールデンドラムでは、自分たちの住む地域のカルチャーを守りたいという強い思いが、素晴らしいアイデアを構想し実現しているケースがたくさんありました。
クリエイティビティに関わる一員として勇気が湧く広告祭でした。

 

 

木村健太郎
1992年に博報堂入社後、ストラテジーからクリエイティブ、デジタル、PRまで職種領域を越境したスタイルを確立し、2006年嶋と共同CEOとして博報堂ケトルを設立。マス広告を基軸としたインテグレートキャンペーンから、デジタルやアウトドアを基軸としたイノベーティブなキャンペーンまで共同CEO兼ECDとして幅広いアウトプットを創出する。これまで10のグランプリを含む150を超える国内外の広告賞を受賞し、カンヌライオンズチタニウム部門審査員、アドフェスト審査員長、スパイクスアジア審査員長など30回以上の国際広告賞の審査員経験を持つ。海外での講演も多く、2013年から7回にわたりカンヌライオンズ公式スピーカー。ADWEEKの世界のクリエイティブ100に選ばれる。2017年からケトルに加え、博報堂の海外ビジネスのスタッフ部門を統括する役職を兼任。現在は博報堂のグローバルとクリエイティブの執行役員とインターナショナルチーフクリエイティブオフィサー。コロナ期を除き、年間100日間程度海外を飛び回る生活をしてきた。著書に『ブレイクスルーひらめきはロジックから生まれる』(宣伝会議)がある。
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