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連載 : きむらけんたろうの旅先で俺も考えた。

2024/11/27

第33話 台湾でユーモアについて考えた(1)

木村健太郎

この秋、台湾4Aクリエイティブアワードという台湾のローカル広告祭に、審査員として参加してきました。

国際賞には3種類あって、カンヌライオンズは世界中から応募を募る「インターナショナル」、ゴールデンドラムはある地域内の複数カ国が対象の「リージョナル」ですが、今回の台湾4Aは「ローカル」です。
日本ではACCにあたるアワードだと思います。

月曜から水曜の3日間が審査会で木曜がセミナーで金曜が授賞式。
さらにその合間に現地の仲間たちのオフィスにも訪れて講演したり打ち合わせしたり。
1週間フルフルの出張です。

 

 

 

台北に着くなり、
「健太郎さんは台風を連れてきましたね」
と言われました。
ちょうど着いた日に超大型の台風18号が接近したからです。
台北にも直撃するかもとのこと。

 

 

 

「せっかくいらっしゃったのに台風で申し訳ない。台湾の台風、きっと心配でしょ。」
といろいろな人に気を遣ってもらいましたが、
「いえいえ私は台湾と同じくらい台風の本場な日本から来たんですよ。へっちゃらです。」
と笑い飛ばしました。

 

 

 

でも水曜と木曜にはタイフーンホリデイが発令されてしまいました。

タイフーンホリデイ?
中国語では「颱風假」と書きます。
台風休日という制度です。

台湾では、市が前日にこれを発令すると、翌日は店も会社も学校も基本クローズになってしまうのです。
香港にも同じようなシステムがあって、僕は過去にホテルに閉じ込められたことがあります。

そんなわけで2日間は会議室で、発令された3日目はホテルからリモートで審査会が行われました。

審査員は13人の台湾人の審査員と僕ら5人の外国人の海外審査員。
海外審査員は全員知り合いでした。
この合計18人の審査員で全37部門を審査します。

 

 

 

台風を気にすることもなく、朝9時過ぎから夜の8時過ぎまでみっちり審査しました。
事前に選ばれたショートリスト作品の一つ一つについて細かく議論をして、投票をして金銀銅、そしてグランプリを決めていきました。

 

 

 

ところが今回は、3日間の審査で、僕はクタクタになってしまいました。

グランプリが決まった瞬間は気分が上がりましたが、終わった瞬間心底グロッキーになっていました。

なぜだろう。
僕には珍しいことです。

僕はオンライン審査はきらいだけど、人と話す審査会は好きです。
他の広告賞審査、たとえば最近やったカンヌライオンズやゴールデンドラムではこんな疲れは感じなかったのに。

審査の進行にフラストレーションはありませんでした。
審査員長はジャイアントさんという台湾人のCDなのですが、名前のイメージとは全然違う、すらっとした真面目な好青年で、審査員長は今回が初めてながら、全員の意見を聞いて、プロセスを省かずに、忍耐強く民主的にファシリテートに徹するタイプでした。

言語は中国語で行われましたが、そのストレスもありませんでした。
電通の八木さんと僕の、中国語がわからないふたりの海外審査員のために、英語の同時通訳のヘッドセットを用意してくれました。
朝から晩までぶっ続けで英語に同通してくれたサラさんには感謝の気持ちしかありません。

僕らが選んだ作品もそこそこ面白かったし、史上初めてふたつ選んだグランプリの結果にも満足です。


実は、疲弊した原因で思い当たったのは、しょうもないことでした。

3日間誰も冗談を言わなかったことです。

広告賞審査ってある程度ピリピリするものなのですが、そんなときには、たいていくだらないことを言ってみんなを笑わせる人がいて、それが場の緊張を和ませるものです。
でも今回そういう人がいませんでした。

なら、お前がなんか面白いこと言えばよかったじゃん、と思いますよね。

はい。
僕は初日朝の自己紹介で渾身のジョークを交えたあいさつをしました。

ところが、いまいちウケなかったのです。
最初に滑っちゃったので、それからもアホなことを思いついても飲み込んでしまうようになってしまいました。


雑談っぽい話もほとんどしませんでした。

広告賞審査では、会社がどうだとか、最近の若手はどうだとか、そういうぶっちゃけ話が興味深いし、業界や社会についてこう思うとか、審査を通じてどんなメッセージを出すべきだかとか、そういう俯瞰した話が共通の目的意識や連帯感を生むものです。

しかし、今回はそういう雑談はほとんどせずに、作品の良し悪しについて意見を言い合って投票する仕事を、3日間ひたすら真面目に続けました。


自分の主張を変えない人が多かったのもあります。

ゴールデンドラムの審査の時に書きましたが、僕は他人の話を受け入れて意見が変わるのが審査の醍醐味だと思っています。
最初から自分の立場を変えないスタンスなら議論しても意味ないじゃんという気がしてしまうのです。
同じ話を何度も聞くと、人は疲れるのだなと思いました。

つくづく、自分がいかに不真面目で、忍耐力のない人間なのかを思い知らされた3日間でした。

でもこう考えてくると、雑談をせずに仕事に集中するのはいいことだし、頑固な人はどの国にもいるものなので、やっぱり今回疲弊した原因はユーモア不足だったのではないかという感じがしてきました。

ユーモアってやっぱり大切なんだなと痛感しました。

次回はユーモアの話をしようと思います。

 

木村健太郎
1992年に博報堂入社後、ストラテジーからクリエイティブ、デジタル、PRまで職種領域を越境したスタイルを確立し、2006年嶋と共同CEOとして博報堂ケトルを設立。マス広告を基軸としたインテグレートキャンペーンから、デジタルやアウトドアを基軸としたイノベーティブなキャンペーンまで共同CEO兼ECDとして幅広いアウトプットを創出する。これまで10のグランプリを含む150を超える国内外の広告賞を受賞し、カンヌライオンズチタニウム部門審査員、アドフェスト審査員長、スパイクスアジア審査員長など30回以上の国際広告賞の審査員経験を持つ。海外での講演も多く、2013年から7回にわたりカンヌライオンズ公式スピーカー。ADWEEKの世界のクリエイティブ100に選ばれる。2017年からケトルに加え、博報堂の海外ビジネスのスタッフ部門を統括する役職を兼任。現在は博報堂のグローバルとクリエイティブの執行役員とインターナショナルチーフクリエイティブオフィサー。コロナ期を除き、年間100日間程度海外を飛び回る生活をしてきた。著書に『ブレイクスルーひらめきはロジックから生まれる』(宣伝会議)がある。
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