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連載 : きむらけんたろうの旅先で俺も考えた。

2025/06/20

第39話 カンヌチタニウム審査でゲームチェンジについて考えた。(4)

木村健太郎

今回はいよいよライブジャジング(公開プレゼンテーション審査)の話をします。

カンヌライオンズ初日夜はレセプションパーティ。
審査員がはじめてリアルに顔を合わせる大事な会です。少し緊張する瞬間です。

ところが、時間ぴったりにホテルのエントランスに行ったら僕ひとりしかいなくて、15分くらい経っても集まったのはわずか4人だけ。
去年は全員時間通りにびしっと揃ったのに。

ビーチ沿いのレストランに行ってパーティが始まってから集まって来たけど、最後まで来なかった人もいました。
後で知ったのですが、チタニウム審査員は全員が審査員長経験者で構成されているので、もうこういうのは自由なんですね。

 

 

キャラも国もキャリアも本当に多様で、会社は広告会社のCCOやCEOが自分含めて6人、クライアントがふたり、PR会社がひとり、コンサルがひとりです。
共通してるのは、みんなめちゃくちゃ陽気でノリがよくて声がでかい。


翌朝からいよいよ審査が始まりました。
朝8時に集合して、会場の4階の奥の部屋に200人くらいが入る部屋にいきます。
ここでショートリスト18作品のチームによる公開プレゼンテーションが2日間にわたって行われます。

 

 

 

「ファーストドミノを探しましょう」
一般の参加者を入れる前に審査員長のオープニングスピーチがありました。

ドミノ倒しで最初に倒すドミノのように、ひとつの活動が、それまでのゲームのルールを変えて、数年後に大きな流れになってニュースタンダードを作り上げていく、その最初の一手を探そう。
そういう仕事こそが業界を前進させる。
それがゲームチェンジングな仕事。
僕はこの言葉に深く感激して、翌日からの議論でこの言葉を何度も使いました。
そして実際、この「ファーストドミノ」というキーワードが今年のこの部門の受賞作を決める重要な審査基準になっていきます。

 

 

 

僕は往きの機内と現地に来てから、18作品のケースビデオを見直すだけでなく、日本では見る時間が取れなかったサポーティングマテリアル(補足資料)とエントリー文章の全てに目を通しました。
これまで国内外でいろいろな広告賞の審査をしてきましたが、こんなに丁寧にひとつひとつの作品について準備したのは初めてです。
なので、18作品についての意見はだいたい固めていて、聞きたい質問も考えてありました。
とにかくできることはすべてやって望みました。

しかし、そこまで準備万端でも、実際にプレゼンを聞いたら自分のつけていたランキングや意見ががらりと変わるのを経験したのです。

それくらいすごいプレゼンばかりでした。
ストーリーの構成やデザインがすごいだけでなく、感情が揺り動かされるのです。
深く共感したり、腹の底から笑ったり、怒りが湧いてきたり。
涙が零れそうになったことも2回くらいありました。
人間は理性ではなく最終的には感情で判断する生き物なんだと思います。

海外のプレゼンテーションやセミナーでは、プレゼンターのパーソナルストーリーを話すことが多いのですが、ここではそのストーリーに登場する当事者本人が出てきてプレゼンをすることも多く、深く心を動かされました。
オリンピックの金メダル選手が泣きながらプレゼンしたり、アカデミー賞をとった聴覚が不自由な女優さんが手話でプレゼンしたり。
本人の説得力はすごいものがあります。

何十回もリハーサルしたのだろうなという完璧なプレゼンもあれば、クライアントとエージェンシーのふたりでナチュラルに思い出を振り返る風のプレゼンもありました。
準備のし過ぎはプレゼンを弱くすることもあるのだなと少しだけ思いました。


12分間プレゼンが終わると10分間の質疑応答。
苦労したポイントや将来のビジョンなどの抽象的なことから、具体的な数字や詳細なプロセスやビジネスモデルなどの具体的なことまで最前列の審査員が次々に質問します。
ここで評価がぐっとあがるケースもある一方、ビデオやプレゼンでなんとなくごまかしていることがあぶり出されてしまうこともあります。

特にクライアントから参加している審査員のふたりはビジネス効果について厳しい質問をしてくれました。
「コストはいくらでしたか」「何%向上しましたか」「見込みでなく実際の獲得数を教えて下さい」
こんな厳しい質問に答えられずに落ちていった有望ケースもありました。


火曜日に朝から5時40分まで15業務を、水曜日の午前中に3業務のプレゼンを受けました。
エネルギーの高いケースをぶっ続けで聞いてクタクタになったけど、こんなに学びの多い日は今までなかったくらい貴重な経験でした。

チタニウムライオンのライブジャジングは、世界最高峰のプレゼンのショーケースだと思います。

(つづく)

 

 

木村健太郎
1992年に博報堂入社後、ストラテジーからクリエイティブ、デジタル、PRまで職種領域を越境したスタイルを確立し、2006年嶋と共同CEOとして博報堂ケトルを設立。マス広告を基軸としたインテグレートキャンペーンから、デジタルやアウトドアを基軸としたイノベーティブなキャンペーンまで共同CEO兼ECDとして幅広いアウトプットを創出する。これまで10のグランプリを含む150を超える国内外の広告賞を受賞し、カンヌライオンズチタニウム部門審査員、アドフェスト審査員長、スパイクスアジア審査員長など30回以上の国際広告賞の審査員経験を持つ。海外での講演も多く、2013年から7回にわたりカンヌライオンズ公式スピーカー。ADWEEKの世界のクリエイティブ100に選ばれる。2017年からケトルに加え、博報堂の海外ビジネスのスタッフ部門を統括する役職を兼任。現在は博報堂のグローバルとクリエイティブの執行役員とインターナショナルチーフクリエイティブオフィサー。コロナ期を除き、年間100日間程度海外を飛び回る生活をしてきた。著書に『ブレイクスルーひらめきはロジックから生まれる』(宣伝会議)がある。
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