SHARE THIS PAGE

ようこそ
カテゴリ
会社情報
閉じる
連載 : ロスジェネ経営者の夜明け

2020/02/17

株式会社大治④ チャレンジしながら、いかに上手に転ぶか

ケトルキッチン編集部

日本の多くの経営者や経営者を支える人々に捧ぐ!

ビジネスにおける、事業承継のリアルと、維持・成長の仕方を学ぶ本連載。1973年生まれのKANDO株式会社 代表取締役のディスカッションディレクター高橋輝行さんと、1972年生まれの博報堂ケトル共同CEO船木研の“ロスジェネ世代”コンビで、毎回様々な分野で活躍する同世代の経営者を招く鼎談形式の連載です。

最初のゲストは「東京野菜」ブランドを推進する東京野菜普及協会の理事、また創業70周年を迎える株式会社大治(だいはる)代表取締役社長の本多諭さん(1971年生まれ)をお招きし、事業の引き継ぎから、これからの青果仲卸業の未来についてお聞きしました。(下写真左から、船木、本多氏、高橋氏。以下、敬称略)

第1回はこちら
第2回はこちら
第3回はこちら

高橋:前回、現在共同CEOの立場にある船木さんから、1人で経営者をやることは孤独なんじゃないかという問いかけがありましたね。

船木:もう1人経営者がいると、一緒に喋りながらお互いが“壁打ち相手”になって、考えを整理したり、アイディアを広げたりすることができますよね。1人で経営者をやる場合はそのあたりをどうしているのかなと思って。

高橋:そういう意味では、本多さんと私はこの3、4年ずっとディスカッションを重ねてきていますし、船木さんともこうしてコミュニケーションを始めています。

このように会社の外部の人と一緒に考えるということは、本多さんにどのように影響しているのでしょうか? 特に、中堅・中小企業の経営者としての意義もお聞きしてみたいのですが。

本多:そうですね。うちのような中堅・中小企業が新たなことに取り組む場合は、説得すべき最後の壁が社内になることもあります。社員は今まで積み上げてきた目の前の仕事に忙しかったり、自分の会社のポテンシャルに意外と無自覚だったりしますから。

一方、外部の方と話しているとアイディアに関心を持っていただくことがあって。自分の温めているアイディアが客観的に見て正しいことなのか、魅力のあることなのかどうかということを確認するチャンスになっています。

それから、やっぱり頭の整理にもなりますね。自分でも気づいたことを日々手帳に書き留めたりするんですけど、自分の考えるスピードと実行のスピードって必ずズレが生じるじゃないですか。

絶対考えることの方が先行するので、頭の中でどんどんアイディアが溜まっていく。そうするうちに、そもそもなぜ考えたのか、どんな価値があるものなのか、ということが自分でも分からなくなってくるんですね。

でもディスカッションをする際は、自分でもう一度相手にアイディアを言語化するので頭の整理ができます。他業界の方と話すことで、新たなアイディアの要素が付け加わっていくこともあったりして、そういう面でも意味があると思っています。

船木:そこは多分、壁打ち相手同士キャラや分野がかぶっていないのも重要だと思っていて。お互いを客観視できることが重要なポイントかもしれませんね。

高橋:壁打ち相手って、本多さんのように自分で考えようとする経営者にとっては必要だけど、考えようとしない経営者にとってはあまり必要ないものなんだと思います。私の経験の中でも、「答えを教えてください」というタイプの経営者とはあまり有意義なディスカッションにならないんですよね。

船木:僕も主体性や創造性が欠落している方とは、パートナーシップやチームは組みにくいですね。自分のやりたいことを相手に押し売りするのが、あんまり好きじゃないから。ふだんの仕事でも、基本的にはクライアントの話を聞いて、「(ポイントは)どこだろう?」と一緒に探っていくというスタイルが一番多いです。その方が楽しいですしね。

本多:そうですね、僕は「答えを教えてください」という態度は誰に対してもしません。人の考えをただ自分でやるんじゃつまらないじゃないですか。ですが、どんなに自分の頭で一生懸命考えた良いアイディアであっても、実現可能かどうかというと別問題だと痛感しています。

昔は「自分が何ができるか」ということを真剣に考えたんですけど、今は「自分のできないことは何か」を考えます。できないことを自分でやろうとすると失敗するということを、過去の失敗に学びました。

やっぱり自分1人でできることなんて限界があるので、別世界の方と交わることによって、世の中がびっくりするようなことができたら楽しいなと思います。

高橋:お互いの思考を交換しながら、一緒にイメージを具現化していく。そういうプロセスが楽しいですよね。

本多:仕事ではありますけど、楽しくないことをしてお金を稼ぐのは無理があると思うんですよね。生活の中で睡眠時間を除いたら、ほぼ働いている時間になるわけですし。だから、どうせやるんだったら自分の興味のあること、楽しいことをやって。ただ経営者としては、最終的にはお金が残るようにしなくちゃいけないんですけどね。

高橋:あぁ、ガツガツお金を稼ぐのではなくて、面白いことをやってある程度お金が残ればそれで十分、という価値観は、ロスジェネ経営者に特有の傾向かもしれませんね。

本多:でも、お金はほしいですけどね。

高橋、船木:(笑)。

本多:自分のお金というより、会社としてお金がほしいです。色々アイディアがあってもお金がないとスピードで負けるんですね。大企業で資本を持っているところだと、後発でも一瞬で抜いていくので。

高橋:この先も大治はさまざまな変革を遂げられていきそうですが、10年ぐらい先を見据えたときのビジョンや課題をお聞かせいただいてもいいですか?

本多:まず10年後も会社が続いているといいですね。真面目な話、色んなことにチャレンジをしていきたいと思いますが、大前提として10年後も続いていかないと意味がないので。

うちの父がよく、風呂敷1枚で東京に出てきて創業した祖父から「失敗してもいい。ただ、取り返しのつかない失敗だけはするな」と言われたらしいんです。要は、全部ゼロになったら取り返しがつかないから、失敗するにしても“風呂敷1枚”だけでも生き残れるだけの余力は残せってことだと思います。

正直、僕が八百屋さんや弁当屋さんの事業で失敗した失敗の仕方って、本業の仲卸がなかったら壊滅的なものだったんですよ。だから、まあやっぱり「チャレンジしながら、いかに上手に転ぶか」ということなんですね。

船木:ちなみに、売上の数値目標みたいなところは、どういう風に考えていらっしゃいますか?

本多:今50億ちょっとなので、100億いきたいという目標はあるんですけど、実は前ほどこだわっていないんですよね、50億でもいいし、60億でもいい。それよりもむしろ、仲卸問屋としてちゃんとブランドになることを目指しています。

仲卸というのはどちらかというとお金をもらう仕事なので、ともすると立場が弱くなりがちです。ですが、これまで一度だけ「大治さんから仕入れるのが夢だったんです」とお客様から言われたことがあります。今後は、「あれだけ色んな取り組みをやってる大治と一緒に組めたら、自分たちも幸せになれるんじゃないか」と思ってもらえるような会社になっていきたいです。

船木:僕が大治の「東京野菜」プロジェクトに興味を持って、本多さんと一緒に何かやりたいと思っているように。

高橋:そうですね。

最後に、今後本多さんのように事業承継を行う経営者や、まさに今色々試行錯誤しているという経営者に向けてメッセージをいただけますか?

本多:先代から事業を引き継ぐということは、一世代前の価値観を引き継ぐということじゃないですか。ですから、それをそのまま引き継いでも今の時代はうまくいかないと思うんです。

最近会社でもよく話すのですが、親の世代であれば、昨日と今日同じ努力をしたら、昨日より良くなる時代だったけれど、現代は昨日と今日同じ努力をしたら、確実に今日の方が悪くなる時代なんですよね。

だから、やっぱりそこに一捻り、一工夫しないと良くなっていかないので、ある意味、先代から引き継いだ器やハコの中に、新たな企業を立ち上げるぐらいの意識でいた方がいいんじゃないでしょうか?

さらに個人的には、自分がロスジェネ世代のせいかどうかは分かりませんが、世の中にワクワクすることがないんだったら自分でつくろうというマインドがあります。だから、肌で感じられる面白さみたいなものを事業でも展開していきたいですね。

(本多社長を招いての鼎談はこれが最終回となります。次回のゲストもお楽しみに!)

ケトルキッチン編集部
  • SHARE THIS PAGE