2025/06/10
第36話 カンヌチタニウム審査でゲームチェンジについて考えた。(1)
木村健太郎
2025年のカンヌライオンズのダン・ワイデン・チタニウム部門の審査員をやることになりました。
貴重な経験だと思うので、昨年同様ややマニアックな部分も含めてそのプロセスをなるべくみなさんにリアルにおすそわけしたいと思います。

チタニウム部門というのは、2003年に当時のフィルム部門の審査員長だったワイデン&ケネディ社のダン・ワイデン氏が、あまりに革新的すぎて既存の部門では評価できなかったBMW Filmsという仕事を祝福するために創設したカテゴリーで、その20年後、その功績を称えるため、彼の名前を冠するようになったカテゴリーです。
カテゴリーの定義は、「ブランドコミュニケーションの新たな地平を切り拓くゲームチェンジングなクリエイティビティを称え、業界を刺激し、境界を突破し、羨望を誘う作品、そして業界を前進させる作品を表彰します。」とあり、カンヌライオンズの最高峰とされています。
でもこの定義、相変わらず全部門中最も抽象的だとも思います。「ゲームチェンジングなクリエイティビティ」って一体何なんでしょうか?

僕は、この賞が創設された翌年からカンヌライオンズに参加してきましたが、毎年チタニウムライオンの受賞作に業界の向かう方向が一番色濃く反映されてきたと思います。
そんな責任重大なカテゴリーですし、このカテゴリーの審査員をやった日本人は2〜3人しかいないと思うので、内定が来たときはめちゃめちゃ光栄に感じたのですが、昨年のいきなり審査員長の内定が来たときほどは緊張したりはしませんでした。
僕は2014年に一度この部門の審査をしたことがあり今回が2回目なのです。
あのときの経験には、その後の人生や仕事に大きな影響を与えるような学びがありました。
11年前と審査方法が変わった点が2点あります。
ひとつは、オンラインで事前審査が行われるようになったことです。前回はノー準備で現地に飛びましたが、今回はそうはいきません。
GW明けの5月9日の夜中の11時半からカンヌ事務局と審査員長からブリーフィングがあり、5月26日までの2週間半でエントリーされた全188作品に1から9までの点数をつけ、そのあと審査員がオンラインで集まり、みんなでつけた点数をもとに議論をしてショートリストを確定していきます。

そして、もうひとつの変化は、ショートリストに選ばれたチームが、カンヌ開催中に会場で公開プレゼンテーションをするようになった点です。
つまり、審査員はひな壇芸人のように、観客にさらされながら質問したりコメントしたりしなければいけないので、実は結構なプレッシャーでもあります。
今回の審査員にはふたり知人がいます。
審査員長は、Judy Johnさん(Edelman Global CCO)。彼女はOne ClubというOne ShowやADCを運営する広告賞団体のアドバイザリーボードのメンバーでこの数年間毎年ご一緒している仲間で、幸いオンライン審査期間中の5月のGW明けにニューヨーク出張が入ったので、その時に参加したOne Clubの総会や授賞式でお話することができました。
このボードメンバーにはもうひとりPum Lefebureさんという友人もいて、彼女も今年のチタニウムの審査員です。彼女とは昨年スロベニアのゴールデンドラムアワードで一緒に審査員長をしました。
今年の審査員ではないですが、One Showの授賞式では、前回のチタニウム審査で僕と一緒に戦ってくれてビールを一緒に飲んだGUTという今話題のエージェンシーのファウンダーであるAnselmo Ramosさんにも久々に話すことができました。

さて、いよいよ採点も終わり、みんなで議論を始めます。
「ゲームチェンジング」って一体何なんでしょうか?
次回はオンラインでのショートリストレビューについて書こうと思います。
(つづく)

