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連載 : きむらけんたろうの旅先で俺も考えた。

2025/07/02

第43話 カンヌチタニウム審査でゲームチェンジについて考えた。(8)

木村健太郎

Judyのスピーチに続き、チタニウムライオンが、Pedigree Caramero、Captiion with Intention、
Vaseline Verifiedの3作品に、そしてグランプリは、 AXA のThree Wordsに贈られました。

▪️映像
https://youtube.com/shorts/43akOyLXc6A?si=iTkHlLfToWpfva7d

受賞作の一言説明は第38話で。

続いて、続いて、グランプリ・フォー・グッド「ヘルペス持ちに世界で最高の場所」の贈賞。
昨日のロールプレイで再び子どものように盛り上がる審査員たち。

▪️映像
https://youtube.com/shorts/Th-wG0fXhT0?si=9SqLkho8qQwk_Kwr

 


エージェンシー・オブ・ザ・イヤーはPublicis Conseilで、審査員仲間のMarcoがそのトロフィーを受けとりました。

 

 

 

ネットワークオブザイヤーを授賞したDDB Worldwideの真ん中でトロフィーを持っていたのは火曜日が誕生日だったChakaでした。

 

おめでとうという祝福の気持ちと、こんなすごい人たちと審査をしたんだという誇らしい気持ちになりました。

 

会場を出たら、SDG‘s部門でゴールドを受賞した、昨年ゴールデンドラムアワードで表彰したウクライナの「地雷原はちみつ」のメンバーに声かけられました。ウクライナ史上初のカンヌゴールド受賞、チタニウムもショートリスト受賞です。このプロジェクトが復興につながればと心から思います。

 

※詳細は「第31話 スロベニアで審査員長をやってみた(3)」で。 

 

レッドカーペットでは、他の審査員も撮影や取材でライトを浴びていました。

 

 

その後、宿泊しているマジェスティックホテルで審査員の何人かでディナーをして、この数日間を振り返りました。

 

後で合流したMarcoは、マクロン大統領が、フランスが初めてチタニウムライオンのグランプリをとったことをコメントしたと喜んでいました。
さすがフランス。日本も過去に3回グランプリをとったけれど、総理がコメントしたことはないだろうなあ。


ビーチパーティの方から花火の音が聞こえてきました。
長かった2025年のカンヌライオンズが終わり、私達の1ヶ月半に渡る長い審査の旅も終わりました。

授賞式でのJudyのスピーチにもあった通り、この業界でこの仕事をしてここにいることの幸運をしみじみ感じています。

今回はフェスティバル会期中に審査が行われたので忙しかったですが、いままで関わってきたどの国際賞審査の中でも、間違いなく最高の審査員との最高の審査経験でした。

マジェスティックホテルは、部屋は広くないけど、クローゼットや鏡が充実していて体重計もありました。最終日に測ったら、初日から2.3キロやせていました。

 

「私達は何を見ているのか」
をある審査員と指摘し合ったことがあります。

オンライン審査、プレゼンの質疑応答、最終審査と、同じ作品について3回も意見をいうので、それぞれの審査員が、「ファースト・ドミノ」という審査基準に加えて、一体何を大事にしているのかのいわゆるクリエイティブ・ディレクションの哲学がだんだん見えてくるのです。

僕は、いつも一歩考えが深い本質的なことを発言すると言われました。
確かに「それが本質的な解決になっているか」について厳しく見ている気がします。

今回全員の審査員に共通しているなと思ったのは、「クライアントのビジネスに貢献してその対価を得る」という当たり前のことを大事にするという視点です。
広告賞は、社会にインパクトをもたらすクリエイティビティの力を褒めることを重視しすぎて、少しビジネス面の力を軽視してしまってきたのかもしれません。

 

「昨年の審査と今年の審査は何が違いますか」
と何人かに聞かれたのですが、去年とは少し違う感覚でした。

審査員長という仕事は、世界中から集まってきた感激や嫉妬やプライドの原石を、審査員と窓のない部屋で発掘して結晶化して、その部門独自の光を世界に発信している感覚でした。

デジタルクラフト部門のグランプリに選んだSpreadbeatという作品は、クリエイティビティへの感激と、いつかは自分もという嫉妬、そしてこの業界で働くプライドを、世界中のクリエイティビティに関わる仕事をしている人に向けて発信してきたと思います。

今年のチタニウム審査には、今後産業全体や社会全体に広げていくためのファーストドミノを発見して発信し、それを拡声し加速させるための仕事をした感覚がありました。

プレゼンの質疑応答で我々は、
「もしここで受賞したら、このプロジェクトにとって今後どんないいことがありますか?」
という質問を何度かしました。

議論では、この仕事が5年後10年後にどう産業全体に影響を及ぼしているかについてみんなのイマジネーションをシェアしあいました。

受賞作には、DV被害者が一次避難できるしくみや、聴覚障がい者がもっと感情を味わえる字幕のしくみ、雑種犬が里親を見つけられるしくみや、ブランドがハック映像をを認証するしくみが、将来、保険産業や映画産業、ペットカルチャーやソーシャルメディアの新しいスタンダードを作り上げていくことへの祈りが込められていると思います。

ゲームチェンジングなクリエイティビティというものには、人々の未来に対する切なる願いや想いが込められていて、それが産業や社会や世界を変えていく原動力になるのだなと思いました。


今年も8話も書きました。最後まで読んでくれた方ありがとうございました。


(おわり)

 

 

 

木村健太郎
1992年に博報堂入社後、ストラテジーからクリエイティブ、デジタル、PRまで職種領域を越境したスタイルを確立し、2006年嶋と共同CEOとして博報堂ケトルを設立。マス広告を基軸としたインテグレートキャンペーンから、デジタルやアウトドアを基軸としたイノベーティブなキャンペーンまで共同CEO兼ECDとして幅広いアウトプットを創出する。これまで10のグランプリを含む150を超える国内外の広告賞を受賞し、カンヌライオンズチタニウム部門審査員、アドフェスト審査員長、スパイクスアジア審査員長など30回以上の国際広告賞の審査員経験を持つ。海外での講演も多く、2013年から7回にわたりカンヌライオンズ公式スピーカー。ADWEEKの世界のクリエイティブ100に選ばれる。2017年からケトルに加え、博報堂の海外ビジネスのスタッフ部門を統括する役職を兼任。現在は博報堂のグローバルとクリエイティブの執行役員とインターナショナルチーフクリエイティブオフィサー。コロナ期を除き、年間100日間程度海外を飛び回る生活をしてきた。著書に『ブレイクスルーひらめきはロジックから生まれる』(宣伝会議)がある。
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